キャンドルの火がひとつ灯されるごとに


苦しみが一つ消え去ることを願う夜


 

 

 …05 Very Merry Christmas

 

 

電車を降りて改札を抜けて、街に足を踏み出した途端に目に入る煌めくイルミネーション
街路樹には青と白銀の電飾が取り付けられ、街灯には電飾の付いたオブジェが吊るされて。
街中がどこか浮ついた雰囲気の中、俺は特に関心を持てずに家路を歩いていた。
黒のロングコートが風に吹かれ、首筋に冷たい空気がが舞い込む。
襟元を軽くかき合わせると、遠く灯った明かりに呼ばれるように足を速めた。




「ただいま。」
「おぅ、おかえりー。」




リビングに入ると同時に、ふわりと良い匂いが鼻をくすぐる。
キッチンから、トングの入ったボウルを抱えたままのミゲルが顔を出した。




「今日はお前の番だったっけか。」
「そ。さみーからクリームシチューな。あとサラダとパンでいいだろ?」
「上等。ラスティは?」
「まだ帰ってきてねーよ。」




ミゲルがボウルのサラダを和えながらそう言った時、玄関の扉が開く音がした。
続いて底抜けに明るい声と共に、眩しいオレンジ色がリビングに飛び込んできた。




「ただいまぁ〜!あー寒かった。」
「お帰り。遅かったじゃん。」
「うん、あのね、今日5限が休講になったからちょっと家に行って来たんだ。」
「家って、この間お前冬服送ってもらったばっかりだったろ?」
「ふふふ〜それはねぇ。…じゃぁーん!」




そう言ってラスティが手に持った紙袋から30cmくらいの高さの箱を取り出した。
箱の蓋を開けて出て来たものは、緑色のモミの木のレプリカだった。
一緒に入っていた袋からは、小さな銀と青のボールやプレゼントの形をした飾りが出て来る。
そして金色の大きな星も、丁寧に包まれて出てきた。




「俺のお気に入りのクリスマスツリーなんだぜ!可愛いだろ!」
「へぇ〜。随分緻密なの持ってんじゃん。」
「3年くらい前に買ってもらったんだー!飾り付けしてそこのテーブルとかに置こうよ。」
「いいんじゃねぇ?クリスマスって感じ。」




ミゲルとラスティがわいわい騒ぎながら、モミの木に飾り付けを始めた。
俺はそれを後ろ目に見ながら、背を向けて部屋に戻ると鞄を置いてコートを脱いだ。
…クリスマスねぇ。
まぁ確かに一年で一番、街中が浮かれ騒ぐイベントだろうな。
窓から外を見遣れば、街路樹も街灯も、あちこちの家の窓や植木やベランダも、イルミネーションで煌めいてる。
玄関にはオーナメント。大きなクリスマスツリー。
けれど浮き立つ周りの空気の中、俺の心は全く対照的に冷え切っている。
不思議なほどに、俺はクリスマスが来ることに何の感動も感慨も感じていなかった。




「あ、ハイネ!ハイネ見て!綺麗にできたっしょ?」




着替えて部屋を出ると、待ちかねていたようにラスティが俺を引っ張ってリビングに連れ込んだ。
リビングのテーブルの上を見ると、赤と緑のギンガムチェックのキルトに乗って、さっきのモミの木が枝中に飾りを吊る下げて鎮座していた。
パッションカラー好きのラスティにしては珍しく、飾りがほとんどシルバーと青でまとめられているのが不思議だったが、その分そのツリーは部屋にとてもよく調和していた。
…まぁ、これくらいなら煩がることもないか。




「ふぅん、いいんじゃないの?」
「だろ?これを飾るとクリスマスが来るなぁって感じがして、ウキウキすんの。」
「さー、飾りつけも終わったことだし、メシにしようぜ。」
「うん!あ、ちょっと待って、手洗ってくるから!」




走り去るラスティの後姿を見ながら、ぼんやりと思いを廻らせる。
クリスマスが来るとウキウキする、か。
俺には縁遠い感覚だな。
顔を伏せて小さく苦笑すると、ミゲルを手伝って皿を並べた。






「んー!美味しい。ミゲル腕を上げたじゃん。」
「生意気言うなっての。これでも多少家で家事やってたんだぞ。」
「ごめんごめん、知ってるよ。やさしーお兄ちゃんだもんね、ミゲルは。」
「…あー忘れてた。家に帰るとき弟にプレゼント買ってかねぇと。」
「クリスマスプレゼント?」
「そ。親とは別に絵本でも買ってやろうかと思って。アイツまだサンタがいるって信じてんだよ。」
「わかる〜!俺も信じてたよ。朝起きると枕元にプレゼントがあるってすごく嬉しかったんだよね。」
「あぁ、まあな。」
「俺も毎年ワクワクして25日の朝を待ってたんだ。」




ラスティがスプーンをスープ皿に浸けて、遠くに目線を馳せるようにそう言った。
と、不意に何かにハッと気づいたように顔を正面に戻す。




「あ、そうだ…!今日戻ったときに、25日は家に帰るって言っちゃったんだ。」




言いながらラスティがちょっと申し訳なさそうに目線を下げた。
…「うち」か。
そう呼べる場所が、俺にはあるだろうか。
一瞬考えかけて、やめる。
そんなのはどうでもいいことだ。考える必要もない。
そうか、と適当に相槌を打つと、ラスティが目を輝かせて続けた。




「だからさ、24日は三人でなんかしたいんだ。」
「何か?」
「うん、一緒にクリスマスのお祝いすんの!…二人とも用事ある?」
「そうだなー。じゃ、俺も25日に帰ることにするよ。」




ミゲルがちょっと考えてから、笑って返事を返した。
『クリスマスのお祝い』ね。全くラスティらしい言い方だ。
本当に、これが俺と二つ三つしか違わないのかと思うくらいに、幼い。
思わずクッと笑った俺を見て、ラスティがちょっと眉をしかめた。




「ハイネは?…ねぇ、いいっしょ。」
「ハイハイ、空けるようにすんよ。」
「マジで?約束だぜ!」




俺がそう言った途端、顔中に笑みを浮かべてラスティが喜びの声を上げた。
よく言えば素直。悪く言えば単純。
とても簡単なようで、時に俺には全く理解できないような思考回路。
そんなラスティの反応を見る度に、俺は少し戸惑いを覚える。
俺はきっと、こんなに真っ直ぐにぶつけられる感情に慣れていないからなんだろう。
けれどもちろん、身に染み付いたポーカーフェイスはそんなことおくびにも出さない。
いつものように口元だけ笑みを浮かべると、何事もなかったようにシチューを掬った。














「ハイネさぁーん、明日のクリスマスイヴ、ご予定ありますぅ?」
「あぁ、悪いね。うちの気まぐれな子猫の世話で手一杯なんだ。」




擦り寄るような猫なで声で同じ部の女が話かけてきたのを、そちらを見ずに返事する。
俺より年下の、化粧の濃い女。
いつもどこか媚びるような目線を向けてきてうんざりする。
同じ物をねだるでも、ラスティのほうが随分可愛げがあるものだ。




「あら、ヴェステンフルスさん、猫を飼ってらっしゃるんですか。」




すっぱり断ったからか押し黙ってしまったその女から話題を継ぐように、向かいのデスクから別の女が顔を覗かせる。
こちらは仕事も出来る有能な同僚。
残り少ないプログラミングに忙しなく両手を動かしつつ、少しだけ表情を崩して言葉を返した。




「そう。最近ようやく甘えるようになってきてね。コドモだから手が掛かって大変だよ。」
「ふふ、いいですね、猫ちゃん愛されてますね。」
「そう?」
「じゃあ何かプレゼント買ってあげるんですか?」
「そうねぇ。」
「皮の首輪とかどうですか?赤い首輪とか可愛いですよ。」
「あー…いいかもね。よっし、完了!じゃ、お先に。」
「お疲れ様です。」




椅子にかけてあったコートを掴んで、鞄を持ち上げて席を立つ。
コートを羽織ると、まだ唖然と立ち尽くしていた例の女に近寄って。
すれ違いざまにその耳元に、微笑を湛えながら囁いた。




「お先に。メリークリスマス。」




オフィスを出ると、吹き付けてくる冷たい風と街に溢れ返るクリスマスの音楽。
目に痛いほどのイルミネーション。
オルゴールの「サンタが町にやってくる」が耳に届く。
頼りなくたどたどしいメロディラインは、まるで子どもの稚拙な愛情表現。
電車に乗っても車窓から見える、街街のイルミネーション
仕事に疲れたような乗客は、それでもどこか明るい表情で家路を見つめる。
何人かは、手にひとつ余計に紙袋を携えていた。
改札を抜けた駅前の広場に重なる影は、小さな包みに結び付けられている。
…プレゼント、ね。


気づけば、足が自然と駅前のショッピングモールへ向かっていた。
いくつものショーウィンドウを早足で通り抜けて、真っ直ぐに歩く。
正面のガラスのショーケースの向こう、シルクの布に埋まった革のベルトの銀字盤が目に留まる。




*     

     *
『クリスマスが来るなぁって感じがして、ウキウキすんの』

*     

     *
『朝起きると枕元にプレゼントがあるってすごく嬉しかったんだよね』
*     

     *




「ハイネ?」
「…ミゲル。」




思いがけず名を呼ばれて振り返ると、隣の本屋から淡い金髪の見慣れた顔が姿を見せた。
俺以上に驚いたような顔で立ち尽くしている。
手にした青いリボンの包みは、きっと明後日には彼の弟の手に渡されるものだろう。




「奇遇だな。」
「…お前は何しに?」
「さぁ。魔が差して、子猫の首輪を買いに…かな。」
「は?」
「お前も乗る?あの濃い色の皮の、銀盤のやつ。」




不審顔のミゲルだったが、俺のさした指の先を辿って、その意味を理解したようで
返事を待たずに歩き出した俺の後について、柔らかな光の漏れるガラスの扉をくぐった。














「ミゲル!ハイネ!あれ、あれにしようよ!」




若夫婦らしきカップルや親子連れで賑わう、真昼のショッピングモールの食料品のフロア。
クリスマスイヴのムードに押されて、弾んだ声が飛び交う。
そんな中を俺とミゲルの手を引っ張りながら、ラスティが満面の笑みで駆け回っている。


今朝も早くから起き出して、掃除・洗濯と手際よく済ませたラスティは、俺たちをベッドから引っ張り出して買い物に行こうとねだった。
シャンパンとケーキだけかと思いきや、ディナーも全部作るんだと言い張った。
せっかくのクリスマスイヴ、家で過ごすにしたって注文で全部済ませられるってのに。
今日はとことん『三人で』クリスマスを『祝いたい』らしい。
面倒だし、鬱陶しいと思って適当にあしらっていたのだが、謙遜と甘えを絶妙に織り交ぜるラスティにとうとう負けて、了承してしまった。
まったく、あれで無意識なんだから嫌になる。
…まぁ何でも我慢して影で泣いたり拗ねたりしてた頃よりはずっといいと思うが。


肉売り場で牛肉を塊で買って、酒売り場でシャンパンを買って。
他にも野菜だのチーズだのクラッカーだのと色々買い込んだ俺たちが、最後にやって来たのはやはりケーキ売り場。
俺もミゲルもそんなに甘いもんを食べる方じゃないが、ラスティは大のケーキ好き。
まぁ一人で半分くらいは軽いだろうな…。
片手に荷物を抱えながら、ラスティに引っ張られるままケーキ売り場をぐるっと見て回って
こだわり派のラスティがとうとう指を差した先には、苺とクリームの燦然と輝くミルフィーユが。




「…ミルフィーユ?」
「何でミルフィーユなんだ?クリスマスならブッシュ・ド・ノエルなんじゃないのか?」
「えー、苺が食べたいんだもん。」
「ならあっちの生クリームデコレーションにした方が良いんじゃねぇの?」
「だってパイならミゲルもハイネも食べられるっしょ?」




ね、と言ってにっこり笑いながら、ラスティが俺らの顔を見比べた。
俺もミゲルも意表をつかれて、思わず顔を見合わせてしまった。
確かに、フルーツタルトや甘さの軽いパイは俺もミゲルも普通に食べていたことを思い出す。




「やっぱし三人の好きなケーキがいいじゃん。」




言うが早いかショーケースに向かって行くと、ミルフィーユをオーダーしてる。
何言ってんだよ。どうせお前がほとんど食うくせに。
そう思いながらも、薄く笑みが浮かぶのを止められない。
「子どもは純粋だから時に思いも寄らないことを言う」とは聞くけど
…まったく、可愛いこと言ってくれるねぇ。
自分でもこんなに単純かと呆れてしまうが、重くなった荷物も気にならないくらい心が軽い。
ラスティがふざけてぶら下がってくる左側の腕が、いつもより余計に温かかった。






ローストビーフに温かいポタージュスープ、シーザーサラダ、デザートは苺のミルフィーユ
三人でキッチンに入るという、今までには有り得ないことをして作り上げたクリスマスのディナー。
押し合い、蹴り合い、味付けや段取りで喧嘩をしながらも何とか形になった。
リビングのテーブルのクリスマスツリーを今日は真ん中に置いて
水を張ったガラスの小鉢にキャンドルを浮かべて、ツリーを囲むように並べる。
赤と緑のチェックのランチョンマットの上に、磨き上げたシルバーのカトラリー。
グラスを合わせて、お互いに「メリークリスマス」と言い交わし
オーディオから賛美歌が流れるのを聞きながら、ミゲルやラスティと笑いながら食事をとってる。
まるで古いホームドラマのワンシーンのようだった。
こんなクリスマスが自分の身の上に起きるなんて、夢にも思わない。
何だか無性にくすぐったい気分だった。






「ほら、ラスティ。寝るなら部屋で寝ろよ。」
「うにゃー…あと苺のケーキぃ…」
「おい。」




テーブルの片づけをしながらソファのラスティに声を掛ける。
シャンパンの味が気に入ってグイグイとハイペースで煽ったラスティは、案の定すっかり酔っ払って
食事が終わった直後から、ソファにコロンと転がっていたのだが
どうやらそのままクッションを抱きかかえて寝入ってしまったらしい。
…しょうがねぇなぁ。




「よっ…と。ミゲル、俺ちょっとこれ置いてくるわ。」
「ん?あぁ頼むな。」




ラスティを抱え上げると、片づけをしていたミゲルに声を掛けて、ラスティの部屋に向かう。
リビングから一番近い扉を開けて、部屋の片隅にちょこんと置かれたベッドにそっと寝かせた。
いつも自分のベッドを見慣れてる所為か、やたらラスティのシングルベッドが小さく見える。
こんだけ部屋のスペースあるんだからダブルにすりゃ良いのに。
そっとタオルケットと毛布と掛け布団を掛けてやると、幸せそうな顔で枕に顔を埋めた。




「まったく、手の掛かるヤツだな。」




くしゃっと髪を撫でると、一瞬くすぐったそうな顔をして、また安らかな寝息を立てて眠る。
…歳の離れた弟がいたら、こういう感じなんだろうか。
もっともこんなのが弟だとしたら、毎日煩くてかなわないが。
生意気で我が侭で泣き虫で、でも憎めない可愛らしさ。
この数ヶ月で俺の人生や価値観が変わったのだとしたら、きっとお前の所為。
いや、おかげ…かな。


枕元に小さな赤いリボンの掛かった包みを置いて
眠る子猫の前髪を掻きあげて、額に小さくキスをした。
リビングに戻ると、ミゲルがちょうどテーブルを拭き終わったところだった。




「片付け終わったぜ。」
「マジで?悪いね、ありがとな。」
「俺ももう寝るかな。先に風呂いい?」
「おぅ、お疲れさん。」




片手をあげてミゲルを送り出すと、入れ違いにキッチンに入る。
やかんに水を入れて火にかけた。
白地に青柄のティーポットとカップを出して、紅茶の入っている戸棚を開ける。
キーマン、アッサム、ダージリン、ヌワラエリヤ、ウヴァ…
そう言えば、ミルクティ向けのリーフがかなり増えた。
一人ストレートで飲んでいた頃より減りも早い。
そんなことに苦笑しながら、とっておきのダージリンの缶を出す。
温めたポットにリーフを量り入れて、沸いたばかりの湯をたっぷりと注ぐ。
ゆっくり蒸らしながら、カップと一緒にローテーブルに運んでソファに腰掛けた。
背に当たるクッションを一つ取って、膝に置く。
ローテーブルに置きっ放しになっていたキャンドルの光がわずかに揺らめくのを見つめながら、
クッションの上で手を組み合わせて、ゆっくりと息をついた。




人がクリスマスの訪れに心が弾むのは、そこに楽しい思い出の積み重ねがあるから。
一人広い屋敷で膝を抱えた子どもにサンタクロースなんて来ない。
背の丈より大きなクリスマスツリーの根元にうず高く積まれた包みの山。
クリスマスプレゼントはさながら儀式の供物のような必要条件。
そこに愛なんてない。
温かく迎えてくれる家族なんていない。
家は必要でも家族の団欒なんて必要ない。
それが当たり前だった。
それ以外なんて考えられなかった。


慣れてしまえば煩わしさを感じることもなく、むしろ気楽だった。
特別な誰かと過ごすクリスマスなんて、わずらわしいとばかり思ってきたのに
終わったあとの心地良い疲れと
体の芯をくすぐる暖かさと
そして火が消えてしまったようなこの寂しさ。
*     

     *
一人に なりたい
*     

     *

*     

     *
一人は 寂しい

*     

     *





外を見れば、クリスマスに変わったばかりの夜の空から白い粉雪が
静かに、舞うように、落ちてくる。
雪が地面に、音もなく、折り重なるように、降り注ぐ。


あぁ参ったな…。
思ったよりも深く、嵌りそうだ
*     

     *

*     

     *




「おはよう!」




翌朝リビングに行くと、もうラスティが起きていて朝食の仕度を始めていた。
二日酔いの様子もなく、くるくると軽い足取りでキッチンとリビングを行ったり来たりしている。
鼻歌交じりで冷蔵庫を開けてバターとジャムを出して、クルッと回って尻で閉める。
何だかやたら機嫌が良いというか…テンションが高いな
…まだ酒が残ってんのか?
まるで踊るような足取りを不思議に思って見ていると、いつの間にか後ろに来ていたミゲルが、いぶかしむような声で問いかけた。




「何だよ、今日は随分ご機嫌じゃないか?」
「おはよ!あのね、今朝起きたら枕元にプレゼントが置いてあったんだ。」
「へぇ、そう。」
「お前が毎日頑張ってるから、『サンタさん』が来てくれたんじゃないの?」




笑いながらそう言って、ティーストレーナー付きのカップを手に取った。
モーニングティーのリーフを入れて湯を注ぐと、リビングのテーブルに置く。
ミゲルもなんともいえない顔で相槌を打ちながら、コーヒーの入ったカップを片手に椅子に座った。
ふんわりといい匂いが漂って、テーブルにベーコンエッグが乗せられる。
フォークを取ろうと手を伸ばしかけた途端、急に右に体を引かれて驚いた。
ミゲルが驚いたような声を上げて、そっちを見ようと思った俺の頭は何かに当たっていて、すぐには回らない。
ラスティの…頬?なのか?これは…。
俺の首に巻きついた腕の先に、濃い茶色の皮の時計が見える。
どういう状況に置かれてるのか理解できず混乱していた俺のすぐ耳元で、小さな優しい声が空気を震わせた。




「ありがとう、サンタさんたち。」




その言葉と同時に、ふんわりと首に柔らかな感触。
ふと首元を見ると、ボルドーのマフラーが掛けられている。
ミゲルの首には濃いネイビーのマフラー。
振り返ると、ラスティが俺の顔を見て少し驚いたような顔をした。
それくらい俺は気の抜けた顔をしていたんだろう。
こんな展開はまったく予想していなかった。




「ずっと首が寒そうだと思ってたんだ。」




照れたように笑いながら、ラスティの細い指が俺の首に丁寧にマフラーを巻きなおす。
薄くて軽いのにそのマフラーはとても暖かくて、一気に首周りが熱を帯びる。
生まれて初めて誰かにプレゼントをやりたいと思った。
その相手からプレゼントを貰って
生まれて初めて、誰かからのプレゼントを嬉しいと思った。




「うん、よく似合う。」
「…ありがとな。」




とても自然に笑みが零れるのを感じながら、ラスティに礼を言う。
くすぐったそうな微笑を浮かべて、ラスティがキッチンに逃げるように戻って行ってしまった。
首に巻かれたマフラーを外しながら、ミゲルと目を交わして笑いあう。
あぁ、明日から暖かくなりそうだ。

 

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【反省と言うよりむしろ言い訳】



大幅に遅れたクリスマスでごめんなさいでした!




2005.12.28