欲しいものを貰うだけって、結構しんどい


 

 

 …04 足長おじさん

 

 

「すみません」
「はい、お決まりですか?」




傾き始めた午後の日差しが、ブラインド越しにうっすら差し込む。
紅色を帯びた木目の丸テーブルと椅子が並ぶ、新興住宅地の真新しいカフェ。
休日の今日はいつもより多くの人でにぎわっていた。
窓際の席で手を上げた二人組の女性に呼ばれて、ゆったりとそちらへ足を運ぶ。
実は俺はここでアルバイトをしていたりする。




「ケーキセットをおふたつですね。ケーキはどれになさいますか。」
「わぁ、おいしそうー!!」
「迷うなぁ。どれにしようー!」




俺が差し出した皿にずらりと並んだケーキを見て、お客さんが嬉しそうな声を上げる。
クリームたっぷりの季節のショートケーキ、宝石のようなフルーツタルト、シブースト、モンブラン…
俺が一つずつ説明するごとに二人で顔を見合わせては楽しそうに相談して。
こういう光景を見てると、やっぱこのバイトにして良かったなぁって思う。
散々目移りして、ようやく二人が一つずつケーキを選び出した。
俺が特にお勧めしたケーキだ。
思わず笑みが零れ出す。




「お飲み物は何になさいますか?」
「アッサムのミルクティをふたつで、お願いします。」
「はい、かしこまりました。」




メニューを受け取って丁寧にお辞儀をすると、お客さんが満足そうに微笑んだ。
俺もそれに軽く微笑み返して、足早にキッチンに向かう。
うちの店のパティシエのケーキは繊細でとても上品。
加えて超こだわり派らしく、コーヒーや紅茶の種類も豊富。
店の雰囲気のよさも手伝って、女性にすごく人気のカフェになってる。
天気のいい休日なんて目が回るような忙しさだ。
その代わり、給料もめっちゃいいんだけどね!




「オーダーお願いします。」
「あ、マッケンジー、今日はラストまでで大丈夫なんだな?」
「はい!」




用意の整ったトレーを持ち上げると、黒いエプロンを翻しながら元気よく返事をした。
これを2番テーブルに運んだら、4番テーブルを片付けてそれから…
運びながらも次の段取りを考えてる。
笑顔でテーブルにティーセットを運ぶと、滑るような足取りで片付けに向かう。
ついでにちらりと視線を廻らせるのも忘れない。そろそろあっちのテーブルもオーダーかな。
従業員の数が特別少ないわけじゃないけど、やっぱり混んでいる日はスムーズに回していくのにコツがいる。
とにかくテキパキ動かないと!
…とは思うけど、昨日も8時間勤務の足はちょっぴりくたびれ気味。
あーもう情けないなぁ。一応俺って元軍人なんだけど。


ふと見遣った窓の外で、学生の集団が笑いながら通り過ぎていくのが目に映る。
やっべ、明後日提出のレポート、帰ってからで間に合うかなぁ…
晩御飯までに帰れそうにないし…寝るのがまた遅くなるな。
ふぅっと溜息をつきながら、手早く空っぽのお皿を重ねていった。














「な、何これッ!?」




エネルギー費の請求書が届いたのは先週のことだった。
思わず叫んだあと、もう一度手に持った紙を凝視する。
いちにぃさんしー…
ゼロの数を数え直して、血の気が引いていくのを感じる。
…ありえない、何だこの額!!




「なーに騒いでんだよ。…何それ?」
「あぁ、先月のエネルギー費請求書?」
「へぇ、思ったより少ねぇな。」
「はぁ!?ど、どこが!?」




平然と眺めてるハイネとミゲルに愕然とする。
何で二人とも驚かないわけ!?
だって明らかに三人で暮らしていて消費する額じゃねーよコレ!
これにプラス食費だと、三で割っても俺の予定していた額を軽々と越える。
大きく深呼吸すると、俺はもう一度じっくりと明細に目を通した。


先月は特に水道代と食料関係の出費が多い。
洗濯を別々にやってたり、いちいちお風呂のお湯抜いたりとかしてたからだよね、絶対。
食費の方は第一にハイネが買い込みすぎたのも原因だと思うけど
そもそも要求する食料の質が良すぎるんだよ!(ブルジョワ!)
それに外食とかも結構したし、後先考えずにやたらいっぱい作っちゃったりしたもんなぁ…。
三人分の量にも今ひとつ慣れなくて、無駄も相当出してしまった気がする。
いまだに台所全般を預かってる俺としては、不覚の事態だった。
一緒に暮らすってことに慣れなくて、それにいっぱいいっぱいだったから、初めにエンゲル係数を抑えようって思ってたのもすっかり抜けてしまっていた。
部屋代がかからないからって、このまんまじゃ絶対やって行けない!




「あのさ、もうちょっと食費とか抑えよう、か。」
「何で。別にいいじゃん?ムリして不味いもん食う必要ないだろ。」
「でっでもさ、毎月こんなんじゃ大変じゃない?」
「そうか?来月は水道代も減るだろうし心配要らないって。」




このブルジョワめっっ!!
ハイネもミゲルも気にかける様子もなく、サラッと流してお茶を飲み始めようとしてる。
どうせ俺は由緒正しいプロレタリアですよ。
あぁ眩暈がしてきた。
とりあえず食費は俺のほうでどうにか抑えるとしても、この二人がこの様子ではそんなにエネルギー消費率が下がるとも思えない。
今月は何とか乗り切れるとしても…この調子じゃ俺の手に負えなくなる。
うーん……














考えた挙句、出した結果は『バイトを増やす』で、今に至る。
だって他にどうしようもないじゃん。
俺だって生活費以外に使えるお金が少なからず必要だ。
公立のカレッジって言ったって、学費も貯めとかなきゃ払いきれないし。
教授に週一でベビーシッターをやらないかって言って貰ったから、それも来週から始めよう。
クラスメイトが派遣バイトが日給良いって言ってたから、それも登録してみようかな。
いつものバイトが休みになったときに働けたら便利だよね。
そんなことを考えながら片づけを済ませてキッチンに入ったとき、入り口のベルがチリリンと来客を告げた。
途端にざわざわと微かなどよめきが、入り口近くの席から波打つように沸き起こって広がる。
…有名人でも来たのかな?
と、同期で入ったメイが上気した顔で戻って来た。




「ラスティ、ラスティ!すっごいカッコイイ人が来たのよ!」
「静かにしなよメイ。聞こえるって。」
「ごめんごめん、ね、ほら早く!」
「な、何で俺がカッコイイ人見に行かなきゃいけないんだよ!」




そんなん見て喜ぶわけねーだろとか言うのに、メイはちっとも聞かずに俺を引っ張る。
接客に当たってたベテランの女の先輩も、チラッと見えた後姿がかなり緊張してて驚いた。
ラクスがアスランを連れて遊びに来た時だって平然として対応してた人なのに、珍しい。
どんだけすごい人が来たんだろう。
まだ入り口に立っていたその『カッコイイ人』と目が合うなり、俺は呆然としてしまった。
バカみたいに口をあんぐりと開けたまま固まってしまって




「……いらっしゃいませ」




それだけ言うのが精一杯だった。






「ご注文はお決まりですか。」
「生ハムのパニーニとヌワラエリヤ。」
「俺はクロックムッシュとブレンド。」
「かしこまりました。」
「もうちょっと愛想良くしてくんないの、ラスティ。」




ハイネが薄く笑いながらそう言うので、俺は思いっきり渋い顔でニッと笑って見せた。
その向かいでミゲルがメニューを広げたままクスクス笑ってる。
つーか何で二人でそろって来てんだよ!
先輩もメイも恥ずかしいのか何なのか裏に逃げていってしまったので、仕方なく俺がオーダーを聞いている。
ちらりと裏の方を伺えば、物陰からこっそり様子を伺っている二人の姿が目の端を掠めた。
…ホントに恨むよ、二人とも。




「昨日もずっとバイトだったのに今日もバイトだろ?気になるっての。」
「そうそう、どういうところで働いてんのかと思って見に来たんだよ。」
「暇人…」




はぁ…っと溜息をついて言うと、二人が不満そうに顔をしかめた。




「ご挨拶だな。それはそうと、今日はどんくらいで終わんだよ?」
「今日…はラストまでだから晩御飯には間に合わないと思う。」
「はぁ!?お前何時間働くつもりだよ?」
「だな。そんなに金貯めてどうすんのよ」




ミゲルが声を荒げて言ったのに継いで、ハイネが呆れたようにそう言った。
思わずムッとして、誰のおかげでバイトバイトバイトになってると思ってんだよ!!と言いそうになったのを、口に出す寸前で飲み込む。
言ってもしょうがない、よな。




「ごめんね、晩御飯は二人で何か食べて。じゃ、失礼します。」




軽く頭を下げると、まだ何か言いそうな二人に素早く背を向けてキッチンに戻った。




「ラスティ、ラスティ!ねぇ誰なの?あの二人!!」




オーダーを通すが早いか、メイと先輩が駆け寄ってきて俺に問いただす。
そんなに気になるなら自分で言って来いっての!もう!




「俺の…先輩になるのかな。」
「そうなの!?やだ超カッコイイじゃないー!!モデルみたい!」
「アイドルとも知り合いだし、ラスティって顔が広いのね!」
「やーん、紹介して欲しい〜」




きゃあきゃあ喚く二人にパティシエたちも苦笑いで呆れ顔。
俺は別テーブルのケーキセットを受け取りながら、不意に思いついた提案をそのまま口にした。




「じゃあメイたちであのテーブルの二人対応してくださいね。」
「え!?」
「よろしく。」




うん、持ちつ持たれつで幸いってヤツだ。
クルッと踵を返すと俺は早々にそこを飛び出してフロアーに入った。
ミゲルたちのテーブルにはほとんど目を向けず、テキパキと仕事をこなす。
ときどき目の端に二人がこちらを見ているのを感じたけど、出来るだけ平然とした顔で通り過ぎた。








「ありがとうございましたー!」




弾んだメイの声にちらりと目をやると、レジの前にミゲルとハイネが並んで立っていた。
あぁ、こうやって見ると確かにあの二人って絵になるかも。
…こうやって見なくても絵になるか。
眉目秀麗、成績優秀、加えて高給取り。
あの二人と一緒に暮らしてるって、それだけでも贅沢なことなんだろうけど。




「へぇ…ここってテイクアウトもイケんの。」
「はい、ご利用いただけます。」
「じゃあそのシフォンケーキ一つと、レアチーズ二つ。」
「はい!ありがとうございます!!」
「それと」
「はい!」
「あれも、テイクアウトで。」
「は、い…?」




メイが視界の端でゆっくりとこっちを見たような気がして
振り返った俺とハイネの目が、パッチリかち合った。










「さーて晩飯何にすっかなー。どうせならどっかで食ってくか?ミゲルお前何がいい。」
「ちょっと」
「たまにはイタリアンも良いかなー。」
「あの…」
「それもいいねー。お前は?ラスティ。」
「お前は?じゃねーよ!!何考えてんの!?」
「は?だから晩飯どうするよって聞いてんじゃん?」
「ちっげーよバカ!!バイトクビになったらどうすんだよー!!」




掴まれたままの右手を思いっきり大きく振り払った。
ハイネがひょいと片眉を上げて俺の顔を見る。
半歩前を歩いてたミゲルも振り返って、なんとも言えない顔で俺を見てる。
信じらんない信じらんない信じらんない!
何で人がバイト中なのに押しかけて来て好き勝手言って挙句の果てにムリヤリ引っ張って来るんだってーの!!
あぁもうどうしようあの店気に入ってるのに!
バイト代だって破格なのに!家からも学校からも近いのに!
もしこれでクビんなったら先月の生活費とか今月の生活費とか来月の生活費とか
欲しい服も新しい靴も新発売のゲームも雑誌も!って言うか来年の学費払えない!
あぁもう泣きそうだ。
どうしてくれるんだよ!!


と、ハイネがパッシーンと音高く俺のデコを弾いた。




「イテッ!」
「ばーか。そんなに働いてどうすんの。学生さんは勉強が本分だろ?」
「そうだよ。お前何でいきなりそんなに働き出したんだよ?」
「何か欲しいもんでもあんのか?」
「それ、は…」




二人が詰め寄って来るのに思わずグッと押し黙る。
…生活費が払えないから、なんて…言いづらい。
俺にだってそれなりのプライドがある。
二人に比べれば経済力がないとか、そんなのわかってるけど




「え?何が欲しいんだよ?」
「…何でもない、し。」
「じゃあ別に問題ないだろ?」
「……何でそうなるんだよ!!」
「何が?お前だって欲しいもん言わねーじゃんか。」




悔しいムカつく悔しいムカつく!!
ハイネはいつだって自分のスケールでしか物を測ろうとしないんだ。だからわからないんだ。
あぁもう
わかれバカヤロウ!!




「生活費が払えないんだよ!」
「は?」
「今のままじゃ…生活費の三分の一、払えないんだよ!だからもっとバイトしなきゃ足んないの!」
「そんなことかよ。ならムリして払うことねぇよ。元々別に貰うつもり無かったんだし」
「…っ!そういうことじゃないんだよ!ハイネのバカ!」




だから言いたくなかったのに。
恥ずかしい悔しいたまらなく惨めで泣きそうだ。
お金がないなんて唯でさえ言いたいことじゃないのに、それが自分で払うって言い切った分担の分なのだから尚更で
情けをかけられたりじゃあ要らないよと優しい言葉をかけられたり。
例えそれが俺のことを思って言ってくれてることだとしても、それでどんなに惨めになるかなんて
こんな気持ちはハイネには絶対にわからない。
すれ違ったまま堂々巡りで、一生分かり合える日なんて来やしないんだ。
















「ラスティ、ちょっといいか?」
「…どうぞ。」




聞きなれた声が扉の向こうから穏やかな伺いを立てる。
少し考えてから返事を返すと、薄い金髪が顔を覗かせる。
枕を抱えてベッドに座る俺の前に椅子を引くと、ちょっと困ったような顔でミゲルが座った。
薄く開いたままの扉の向こう、遠くから水音が聞こえる。
冷たく見下げたような瞳が脳裏に浮かんで、唇を噛み締めた。
しばらく沈黙が続いていたけど、ミゲルが徐に口を開いた。




「俺も、ハイネの言ってることは一理あると思うぜ。」
「…無理してバイトしてまで払うことないって?」
「まぁね。あの仕事が好きだって言うのはわかったけど、それにしたってやっぱ働きすぎじゃん?」
「でもそれくらいしないと、俺はいつまで経っても二人と肩をならべらんないもん。」




そういった声がちょっと卑屈になってしまった気がして、抱えていた枕に顔を押し当てて隠す。
やだな、ミゲルにはこういう弱いところとかウジウジしたとことかあんまり見せたくないのに
俺は弱いからすぐに凹んじゃって、ミゲルにきっとこんな姿ばっかり見せてる。




「なぁ、思うんだけど、別に全部の場面で対等じゃなくても良いんじゃねぇ?」
「え?」
「少なくとも金銭面では無理もないことだろ?だって俺らは働いていてお前は学生なワケだし。」
「……そんなの関係ないもん。俺は自分の好きで学生やってるんだし」
「あのな」




クスッとちょっと呆れたように笑いを零して
ミゲルが椅子を外して俺の前に膝を突くと、俺の目を正面から優しく見つめる。




「頼られるってのも悪い気しないモンだぜ?」
「…そう、なの?」
「その代わりちゃんと自分の口でこうして欲しいって言うこと。それくらいはマナーの内だろ?」




ミゲルが人差し指でピタリと唇を差して、瞳を緩ませる。
と、廊下からハイネの声でバスルームが空いたと呼びかけるのが聞こえた。
ミゲルが扉に向かって返事をして、もう一度こっちを向いて悪戯っぽく笑う。




「やってみろよ。そうすりゃ誰だって二つ返事で聞いてくれるぜ。」
「でも何か…それってずるくない?」
「そういう頑張り屋も好きだけど、たまには甘えることも覚えろよ。」




ミゲルがそういってクシャッと俺の頭をかき混ぜると、立ち上がって部屋を出て行った。
…好きだなんて、簡単に言うなよ、バカ…
俺がどんだけドキドキしてるかなんて気づかないで、弟とおんなじ扱いすんだから。
あぁでも、そっか。
やっぱりそんな気持ちも言わなきゃ伝わらない。




そっとリビングに行くと、風呂から上がったばかりのハイネがソファで湯気の立つ紅茶を飲んでた。
手には小さな文庫本を広げて、珍しく深々と腰掛けて寛いでる。


……甘える、って言っても…
どうやったらいいのかわかんない、し…
もしかしたら相手によっては自然にやってんのかも知れないけど、いざやってみろと言われると何をしたら良いのかよくわからない。


ちょっと考えて、そっと後ろ側から回って、側に近づく。
ソファに両手をつくと、ハイネの肩におずおずと頭をコツンと落とす。
でもドキドキして緊張して拒まれたらどうしようって思って、体重をほとんどかけられない。
もうすっかり乾ききって綺麗に整えられた髪が、首筋にちょっとだけ触れた。
思った以上に…柔らかい。
ハイネの方とは逆を向いて、壁にかかった時計を見ながら貼り付いた唇を開いた。




「どうしてそんなに何でもしてくれんの?」




ハイネは顔を動かさず、文庫本から目も離さないまま小さく溜息をつく。
けれど思わず身を硬くした俺の耳に届いた声は、予想とは裏腹にとても柔らかかった。




「…お前は俺が何でもしてやるのが苦痛?」
「だって、そんなにしてもらう理由がないじゃない…か。」
「気にすんなよ。俺がお前の足長おじさんになってやるって最初に言っただろ?」
「でも」
「そうやって謙虚なのはお前の美徳だけど、もう少し俺を頼ってもいいんじゃねぇ?俺は誰にも気なんて遣ってないし、自分の好きでやってるだけなんだから、お前もいちいち気にすんじゃねーよ。」
「それじゃ俺は貰うばっかりじゃん…。そんなのやだ。」




ちょっとだけ肩に体重をかけて、ぐるりと頭をハイネの方に廻らす。
クスッとハイネが笑った声が耳に届いて、顔を上げかけた俺の頭をポンポンと手が宥めるように打った。




「じゃ、笑って一言ありがとうって言うこと。」
「それだけ?」
「そう、それだけで十分。いつも『でも』とか『だって』って言うお前がすんなり笑って『ありがとう』って言ったら、それで俺は大満足だね。」




長い指がくしゃりと髪を梳く。
こわばった首からゆっくりと力が抜けて、完全にハイネの肩に頭を委ねてる形になった。
そんなことで本当にいいのかな。
俺ばっかり楽してていいのかな。
でも、確かに家でこうしてミゲルやハイネと一緒に過ごす時間はお金では買えない。
この時間を繋ぐためにこの時間を犠牲にして働くのは、もったいないことかもしれない。
もし俺と一緒にいて嬉しいとか楽しいとか、ちょっとでも二人が思っていてくれてるなら
……この大きな腕に頼ってみようか。




「風呂空いたよ…って、どうしたんだよ。仲直り?」
「さぁ?どうかな。」
「あの、二人とも。」




顔を上げて二人の顔を見ながら、こくんと一つ息を飲み込んで。




「俺と一緒にいて、楽しい?」




その瞬間、ミゲルとハイネがとても意外そうな顔をして
すぐに二人そろって口を開いた。




「当たり前だろ。」
「そうじゃなきゃ一緒になんて暮らさねぇよ。」




その言葉に、じんわり胸の真ん中から温まっていくのを感じる。
心がウキウキと弾んで、飛び上がりそうなくらいに軽くなる。
投げたボールが真っ直ぐ返ってくるのって、こんなにも嬉しいんだ。




「じゃあ、バイトちょっと減らす。毎月払えそうなだけ払う、でもいい?」
「俺は構わないぜ。」
「どうせなら全部払ってって言えば良いのに。」
「それはやだ。」
「負けず嫌いなヤツ。」




ハイネがクスクスと笑いを零した。
一つ言ってしまった勢いに乗って、俺はかねがね考えていたことも口に出せそうな気がして
ソファに置いた手にちょっと力を込めて、もう一度改めて顔を真っ直ぐ上げた。




「それと、もう一つお願いしてもいい?」
「なに?」
「…晩御飯の支度、お当番制にして貰いたいんだけど…ダメ?」




少し首を傾げて伺うような視線を二人に向けながら、尋ねる。
やっぱりちょっと緊張して、最後の方は少しおずおずと引き気味になってしまった。
ミゲルとハイネがなんとも言えない顔で俺から視線を外して、二人して手を額に当てたり口に当てたりして考え込むような表情を見せる。
ダ、ダメだったかな…やっぱり。




「お前が教えたのかよ」
「…違ぇよ。」
「え?何が?…やっぱダメかな。」




顔を見合わせて何か言い合ってる二人を見て更に不安になって尋ねると、
苦笑したように二人が溜息を零して、俺を見て肩をすくめた。




「「喜んで。」」

 

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【反省と言うよりむしろ言い訳】



今後、ラスティの天然魔性っぷりに二人は相当翻弄されると思います。




2005.12.18