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新しい恋をすれば、古い恋の傷は塞がると友達はいうけど P u Z z L E ...2 ふと見遣った岬は、晴れ渡った空と海を割くようにくっきりと横たわっていた。 大きなゴールデン・レトリバーをつれた女の子が、楽しそうに笑いながらこっちへ走ってくる。 砂浜に座ったあたしの後ろを、軽やかに通りすぎる。 短くなった髪を揺らして風が吹き抜けていく。 やけに涼しくなった首筋。手で触れて、惜しむようにひねりながら引っ張る。 髪はあっさりと手をすり抜けて、首筋に落ちる。 …ホントに短くなったんだ。 そう思うと同時に妙に空しい気持ちが胸を過ぎる。 スッキリするはずだったのに、無性に寂しさを感じてる。 連休の中日、学校へ行った時はもう噂が蔓延していた。 あたしと侑士が別れたこと。そして、既に新しい彼女が出来ていると。 お約束のように髪を切ったあたしに向けられる、好奇と憐れみの目。 でもそれもほんの一瞬のことだった。 侑士と彼女が、仲良さそうに話しながら教室へ入ってきたから。 そこで初めて、侑士が好きになった子を知った。 切れ長の瞳に、形のいい山なりの唇から紡がれる快活な声。 …大阪から先週転入してきた子だ。 あの子だったんだ。 「あの噂、本当だったみたいだな。忍足が誰と付き合っても長続きしない理由。」 「あぁ、関西人だから関東が肌が合わないってやつ。」 「半信半疑だったけど…あれ見てるとなー」 「かもね。あー悔しい。別れれば良いのに。」 そんなヒソヒソ声が聞こえてくるけど、当の二人は全く気にしてない。 いや、聞こえてないのかもしれない。 ぽんぽん、弾むような関西弁の会話。テンポが全然違う。ホントにそこだけ空気が違うみたいに楽しそう。 侑士のあんな笑顔を、あたしは見たことがない。 …あたしがなりたかった1ピース 侑士はとうとう手に入れたんだ。 と、不意に侑士がこちらを向いた。 「自分…」 「……おはよ、忍足」 やっと浮かんだ笑顔の口元から零れたのは、思いもかけない余所余所しい挨拶。 呼んでも構わなかったはずなのに、誰かに禁じられたわけじゃなかったのに、なぜか名前で呼べなかった。 もう、呼んではいけない気がした。 侑士が一瞬驚いたように目を丸くして、すぐにぎこちなく笑みを浮かべた。 「あ、ぁ…おはようさん。」 「侑士、どうしたん?数学の宿題見せてよ。」 可愛い西のアクセントが侑士の名を呼ぶ。 ヒソヒソと囁きあう教室の空気の中、 腕を引かれて机に向かう侑士の後姿を、じっと見つめていた。 …今までの子も、こんな気持ちを味わってきたんだろうか。 昨日まであたしに嫌がらせをしていた子が、今日は見向きもしない。 それが可笑しくて、悲しい。 解放された気分になると同時に、妙に空しくなる。 自分と侑士のやりとり以上に、周りの態度で二人は無関係になったのだと思い知らされる。 首筋を掠める短くなった髪。足掻いた自分が何だか小さい。 自分で離してしまった手がこんなに恋しくなるなんて。 こんなに寂しくなるなんて。 今になって、失ったものの大きさがわかってきた。 あたしにはホントに侑士しかなかったんだ。 毎日でも侑士のテニスしてる姿を見ていたかった。 メールも電話も泣きたくなるくらい嬉しかった。 ノートの切れ端に書かれた『日曜11時』のメモだって、まだ持ってる。 移り気みたいに言われてるけど、ホントはすごく繊細な心配りが出来る人で、でもあたしはそれを当たり前のように受けていた。 優しくされるのが当たり前だと思ってた。すごく傲慢だった。 その上、最後の最後にその手を簡単に振り切ってしまったなんて。 ずっと怖かった。あたしばっかり侑士のことを好きだと思ってたから。 どうにかして、少しでも対等でいるんだと感じてたかった。 あんなに優しくしてもらってたのに、足りない足りないってそればっかりで。 あたしが侑士を思う以上に、追いかけて欲しいだなんて、酷い傲慢。 自分がどれほど幸せものだったか思いもしないで… だから今こんな風になっちゃったんだ。きっと。 「上手くいかないもんだなぁ…」 抱えてた膝を投げ出して座りなおす。 あたしに蹴飛ばされた砂が一瞬舞い上がったけど、すぐに浜辺に混じってわからなくなった。 に励まされて半分開き直ったとは言え、やっぱり辛いものは辛い。 どのみちG.W.の予定は全部パー。 ウジウジ家に閉じこもるより、いっそ出掛けちゃえ!!と朝一で電車に飛び乗った。 千葉にしたのは、どうせなら自分の傷とゆっくり向かい合おうと思ったからだけど、…うん、来て良かった。 ホントはもっといろいろ回る予定も立てていたけど、あんまり海がきれいで穏やかで、静かだったから、何かそれだけで十分な気持ちがしてきた。 心の洗濯って言うけど、ホントに何かが洗われていく気がする。 …ひたすらここで海を眺めるだけっていうのも、案外贅沢な時間の過ごし方かもしれないな。 「…うーみーはひろいーな、おおきーいーなー」 幼稚園の頃は何気なく歌ってたけど、いい歌だなぁ。海。 ホントに海って大きいもんな。空のが大きいかもしれないけど、懐の深さを考えたらいい勝負。 それに比べ、せこせこしててウジウジしてるあたしって、ホントに小さいなぁ。 このアワブクひとつにも満たない気がする。 ざざーん、ざざーん。 穏やかな音を繰り返しながら、波が柔らかく砂浜を滑っていく。 小さな波をゴボゴボ飲み込んで、受け入れて、あたしの方へ寄せて返す。 君のも預けていいよって、こっちへおいでって誘われてるみたい。 …ぐちゃぐちゃ悩む前にもっとドカンとぶつけても、良いのかもしれない。 預けるのもぶつけるのも勇気が要るけど、でも…ホントに相手を信用してる証し、でもあるよね。 みっともない所もカッコ悪いところも、全部さらけ出せる勇気を持って。 今までぶつけられなかった、ホントの意味で委ねられなかった「自分」を 「練習代わりにぶつけても、いいかな。」 ポツリと呟いたあたしに、おいでおいでと囁く海。 いつでもどうぞ、変わらず呼びかけてくれる。 そう、あなたは大きく構えてて、私の悩みひとつじゃ動じそうもないものね。 ゴボゴボ泡立つそのアブクのひとつに、私も混ぜてくれる? このモヤモヤを、色んな思いでいっぱいのあたしを。 すぅぅぅっ 潮の香りを胸いっぱいに吸った。 「ばかやろー!!」 あたしのモヤモヤを海がゴボリと飲み込んだ。 寄せて返す海は、ちょっと笑ったみたいにザワザワ言ってる。 つられるように、あたしも笑ってみる。 いっそアメリカまで届けばいいな。 海に洗われて、綺麗になって、他のアブクと一緒になって誰かのモヤモヤを包み込めればいい。 侑士と別れて見失った、自分と周りの世界のつながり。 ちょっと今、見えた気がする。 「何が、ばかやろうなの?」 「えぇっ!?」 突然後ろから掛けられた声。 反射的に振り返った拍子に、後ろにずっこけそうになる。 ビ、ビックリしたビックリしたビックリした!! 落っこちそうなくらい目を見開いて、心臓バクバクしてるあたしに構う様子もなく。 目の前の人は平然と笑いながら、ちょっと首を傾げてる。 だ、誰?この人! 「ずっとここにいるよね。悩み事?」 「え、あの、あなたは?」 「通りすがりの千葉県民。ちょっとお節介のね。」 あれ?この台詞聞いたことある気がする。 何だっけ、夕方からやってたやつ。 えーと、えーと 「…水戸黄門?」 「あはは、わかる?嬉しいなぁ。ま、そういうことだからこの爺に話してごらんなさい。」 明るい色の瞳をふんわり細めて笑った「水戸黄門」が、とっても優しい声でそう言った。 爺とか言ってあたしと年が変わらないくらいなのに、可笑しな人。 いきなり声をかけてきて、水戸黄門とか言い出す、得体の知れない、変わった人。 でもなぜか悪い人じゃないと感じた。 彼の何がそうさせるのかはわからないけど、不思議と心を打ち解けたくなる。 気づけばあたしは、ポツリと口を開いていた。 「…いや、何か海を見ていたら、あたしってちっちゃいなと思って。それで叫びたくなったん、です。」 「ハハハ、いいね。わかるよ、この海って全部吸い込んでくれそうだもんね。」 「え、あなたもそう思います?」 「うん、思うよ。そうやって俺もずっと長い間、吸い込んでもらってきたしね。」 彼がそう言って、とても大切なものを愛おしむような瞳で海を見つめた。 あぁ、この人、すごく目が綺麗。 澄んで、明るい色をして、真っ直ぐ。 だから何となく惹き付けられるような気分になるんだ。 色素の薄い髪を風にサラサラとなびかせながら、彼がゆっくりとこちらを振り向いて。 クシャッと犬みたいに表情を崩して笑いかけた。 コトリ 何かが動く。 「で、何がバカヤロウなんですか?」 「ハイ?」 「青春か?」 「愛じゃね?」 「海だったら悲しいのね」 「え、えっ、えぇっ!?」 次々に飛んでくる声にギョッとして見回せば、あたしの周りに沢山の顔、顔、顔。 うわ、い、いつの間に!? どの人もみんな興味津々と言った顔で、あたしを見下ろしてる。 ちょ、ちょっとそんなに近づかれても困るんですけど…!! 「あーあ、みんなそんなに捲し立てたら困っちゃうじゃん。ねぇ?」 「お友達なんですか?」 「そう、六角の愉快な仲間たち。」 「ろっかく?」 何か聞いたことがある気がする。 ちょっと落ち着いて、ぐるっと回りを見上げてみた。 …そう言えば、そろいのシャツは襟のところに六角形の模様。 胸元の刺繍は『六角中』…? 「こちらの姫君は、どうも悩みがあるみたいなんだけどどうしようね、助さんや。」 「俺に言ってる?つか、お前のが助さんっぽいじゃねーかよ」 「助さんの助太刀…ぷぷっ」 「くだらねぇ!」 「どごぉ!!」 「それだったら簡単じゃないですか。」 「そうなのね。悩みは吹き飛ばすのが一番なのね。」 「それはいい案だ。」 最初に声をかけてきた彼がにっこり笑って、つかつかとあたしに歩み寄る。 何ですか良い案とかって。何でそんなに近寄ってくるんですか。 思わず足が一歩後ろに引いたあたしの手をおもむろに掴んで 掴ん、で…? 「砂浜ダッシュラスト1本!姫君と学校まで全力疾走!!」 「最後の人は罰ゲームです!」 「「っしゃあ!!」」 「Ready……」 「行くよ」 「えっ、ちょ、う、わぁ!!」 「「「「「Go!!」」」」」 ← /menu /→ 【反省と言うよりむしろ言い訳】 まだG.W.です。ホントすいません。 そしてあと2話くらいG.W.です(苦笑)。 愉快な仲間と共に、第3話まで駆け抜けたいと思います。 何ヶ月走りっぱなしか見ものですね〜(ヲイ)
2007.08.08
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