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誰に背中を押されたって、やっぱり結論を出すのは自分の心ひとつ。
どんなに綺麗な言葉を並べ立てても、心は偽れない。
本当に欲しいものは、何?
笑顔一粒...09
ピピッ、『90%』
目の前のモニタに命中率が打ち出される。
ここ最近の成績の中では抜群の出来。
久しぶりに戻ってきた心の静寂に、ホッと息をついた。
銃を置いてイヤープロテクタを外し、耳栓を抜いた。
僅かに滲んだ汗をタオルで押さえる。
シューティンググラスを外すと光が眩しくて、思わず目を細めた。
「調子良いみたいじゃん?」
後ろから明るい声が聞こえた。
振り返ると、腕を組んで壁に寄りかかったディアッカが俺を見ている。
面白がるような瞳には、それでも優しい色が浮かんでいた。
昔から変わらない目に思わず笑みがこぼれた。
「まあね。」
「イザークにシメられた?」
「あはは、シメられたシメられた。あんなに怒ったイザーク見たのすっごい久しぶりだったよ。」
「あいつもやっと機嫌が良くなったよ。」
「おかげで不眠症だった?」
「まぁな。」
「悪いね。でも、もう逃げんの、終わりにするから。」
「ま、頑張れよ。手さえ抜かなきゃお前は誰にも負けねぇからよ。」
ディアッカはそう言って、子供にするみたいにクシャッと俺の頭を撫でた。
俺から銃を受け取って、射撃の設定を打ち込んでいく。
そんな後姿を一度見遣って、早足に射撃場を後にした。
次の整備のデータの入ったディスクを持って、エレベーターに向かって歩いていく。
次のは、B-17Fだったっけ。
エレベーターフロアに足を踏み入れたとき、ちょうど手前のドアが閉まろうとしているところだった。
「あ、そのエレベーター待って!乗ります!!」
言うが早いか慌てて走りだす。
ディスクを持っていないほうの腕を伸ばし、かろうじて閉まりかけたドアに割り込ませた。
躊躇したように一瞬動きを止めたドアを押し開けて、身を滑り込ませる。
キュッと引っ込めた俺の右足の真横で、静かに扉が閉まった。
ふぅ、セーフ。
扉の側に立っていた先客が少し身を寄せたのを感じた。
その視線を背中に感じて、振り返って…目を見開いた。
「…ミゲル。」
俺の声に、わずかに金色の髪が揺れた。
昨日の午後からずっと、顔を合わせていなかった人。
顔を合わせて、くれなかった人。
透きとおったセピアの瞳が一瞬だけ俺の瞳を見て、すぐ逸らされた。
「何階?」
「あ、B-17F…。」
パチンと押されたボタンのみっつ上、B-14Fが赤く光ってる。
ミゲルは、俺よりも先に降りるんだ。
ぐんぐん下がるエレベーター。
俺もミゲルも一言も口を開かない。
気まずい空気が流れてる。
「ミゲル、あの」
フッ…
俺が言葉を言い出しかけた時、エレベーターに灯っていた電灯が消えた。
それと同時にシュゥゥン、と音を立てて、ゴトリとエレベーターが止まる。
突然の出来事に思わず身を堅くして身構えた。
軍本部に敵襲なんてまずありえないけど、瞬時に身構えるのはもうクセになっていた。
耳を澄ますと、特に緊急ブザーは鳴ってない。
エレベーターもこれと言って変な音を立ててはいないし、火の匂いもしなかった。
爆発や発火の心配はなさそうだ。
と、ミゲルがゆっくりと、外と連絡を取る電話をとった。
「制御室ですか。3号エレベーターが停止しましたが……はい、そうです。……え?」
ミゲルが相手の言葉に眉をひそめた。
一瞬俺の方を見て、また視線を戻す。
…どうしたんだろう。
「いえ、大丈夫です。…わかりました。」
「何だって?」
「ちょっとした故障らしいが、時間が掛かるんだと。30分はそこに居ろってさ…。」
「えっ!?」
ミゲルと、ここに30分も…?
思いがけない展開に、全身に一気に緊張が駆け抜ける。
心臓の音が聞こえそうなくらい大きい。
ミゲルがふーっと息を吐いて、ドサッとその場に座り込んだ。
「ミッ、ミゲル?何座って…」
「どうせすぐ復旧しないんだ。焦ったってどうにもならないだろ。」
「う…ん。」
俺もペタンとその場にひざを抱えて座る。
狭いエレベーター中の、ミゲルから一番遠い場所。
まるで俺たちの心のキョリを表すかのよう。
でも
『いつまでそうしてるんだ、お前は』
もうこのままなんて、嫌だ。
息をひとつ、ついた。
…今しか、言う機会はないかもしれない。
俺と一緒でミゲルが息苦しそうにしてるのがわかっていた。
俺が言おうとしていることも、きっとミゲルを困らせることばっかりだとわかってる。
でも、ミゲルを思うばっかりじゃ自分が進めない。
この機会を逃したら、またきっと俺は後悔する。
もう綺麗ごとを言うのはやめだ。
俺はどうしたってミゲルしか見えない。
ミゲルしか好きじゃない、ミゲルしか欲しくない。
ミゲルに、受け入れて欲しい。
ニコルにこの思いを許してもらった。
イザークに叱咤してもらった。
ディアッカが最後に背中を押してくれた。
戻れるところはいくらでもある。
もう既に俺とミゲルの関係は、何も知らなかった頃には戻らない。
躊躇う理由なんて、もうない。
だから今度こそ本当に前を見て踏み出すんだ。
「ミゲル」
「何。」
「…やっぱり俺ミゲルが好きだ。」
ミゲルが顔をあげて俺を見た。
その瞳に浮かぶ色は、哀れみとか悲しみとか戸惑いではなく、穏やかで澄んでいる。
心臓が嫌にドキドキする。
俺が、ミゲルが、二人が、今までとは何かが違っていた。
「……昨日アスランと別れた。」
「え…?」
「友達に戻ろうってアイツが言って…そうしようと二人で決めた。」
「アスラン…が?」
思いがけないミゲルの言葉に俺は少し混乱していた。
だって昨日の夜も、今日の朝も、アスランは何も言わなかった。
表情も態度も何もかも、いつもと同じだった。
むしろずっと…何か吹っ切れたように清々しくて…笑ってた。
ついこの間、ミゲルの様子がおかしいってあんなに取り乱してたのに…。
「…俺はずっと、お前の気持ちをどうにも出来なくて迷ってた。」
不意に切り出したミゲルに、体がピクリと震えた。
アスランに向いてた意識を目の前に戻せば、どこか遠くを見るような瞳と視線がぶつかる。
ミゲルがふっと顔を薄く緩めて、俺から視線を外す。
口を開きながら、持て余しぎみの手を、立てた片膝の前でゆっくりと組んだ。
「ずっと悩んでた。お前の気持ちは嬉しかったけど、俺はそれに応えてやれないから。お前のことは弟みたいに思ってたから…正直ショックだった。」
ツキン。
「それから…全然見たことのないお前の顔ばかり見て…。お前の気持ちなんて何一つ解ってなかったんだって、ホントに何も見てなかったんだって思い知った。」
ツキン。
「自分の気持ちも、どうしたら良いのかもだんだんわからなくなった。いっそ…全部夢だったらって思ったよ。全部、冗談だったらって。」
ミゲルが、組んだ手のあたりを見つめながら、独り言のように言った。
小さい声だけど、はっきりと耳に届く。
こんなミゲルの声、初めて聞く。
ミゲルの本音が、痛いくらい胸に突き刺さる。
わかっていた事だったけど、こんなにも苦しめていた事実に目を逸らしたくなる。
「ハッキリ断ってお前が傷つくのは可哀想だと思ってた。…そうすることでお前との仲が壊れるのも…怖かった。だから中途半端できっとお前に一番残酷なことをしていたと思う。…ごめん」
「謝らないでよミゲル…。俺は」
「お前は悪くないよ。…俺が勝手にお前の気持ちに囚われてただけだ。」
「え?」
ピリリと体に電流が走る。
心臓がドキドキしすぎて、体中の神経がすごく敏感になってる。
冴え渡った神経が何かを訴える。
「どういう、こと?」
「ニコルに言われて気付いたんだよ。アスランも同じことを言ってた。お前の気持ちは自由なんだって。お前の気持ちは、もともと俺がどうすることも出来ないくらい、自由で強いものなんだよな。」
そう言って、顔を上げたミゲルが俺に笑いかける。
でも俺の顔はさっきから表情が乾ききって、硬直したように動かない。
頭がガンガン言ってる。
何を言おうとしてるんだよ。
ねぇ、その先に何を言うつもりなの。
「だから、お前も俺も相手に縛られちゃいけないんだ。」
「ミゲル…?」
「…俺は、お前を受け入れることは出来ない。」
「…っ!!」
言葉が弾丸のように突き刺さって、息が止まる。
衝撃で、体が一瞬死んでしまったかと思った。
心臓がギュッと掴まれる。
息が出来ない。
「……でも、お前のことは好きだよ。」
「…そんな嘘なんか要らない…!!」
泣くな!
「アスランのことも本当に好きだったよ。でも、俺はそんな俺の気持ちに囚われすぎてた。」
「そんな…だって」
「あの雨の日から、俺はきっとずっとお前のことばかり考えてる。」
「じゃあ何で!何で俺を受け入れてくれないの!?」
「俺はお前と一緒にいるのが怖い。」
「…何だよ、それ…。」
「俺はお前のことを全然わかってない。でもいつもお前は真っ直ぐ気持ちをぶつけてくる。」
「……」
「お前と一緒にいると落ち着かない。…どうしたらいいかわかんないんだよ。」
「じゃあわかろうとしてよ!どうして俺から逃げんだよ!!」
「ラスティ…」
「ねぇこっち向いて、ちゃんと俺の目を見て!」
ミゲルが困ったような瞳をしてる。
こんなのってないだろ。
好きならどうして突き放すんだよ。
嬉しかったのに。好きだって言ってくれてすごく嬉しかったのに。
こんなの酷すぎる。
ぐらりと地面が揺れて、エレベーターが動き出す。
音もなくぐんぐん下降していく。
震える手で握りしめたミゲルの腕を小さく揺すっても、ミゲルの心は動いてくれない。
好きならどうして受け止めてくれないの?
その目は誰を見てるの?
その心が想う『ラスティ』は、今目の前にいる俺じゃないの?
あぁ、あの雨の日から何も変わらない。
この瞳はいつも、目の前にいる俺を映してはくれない。
それならどうしてもっと遠くに行ってくれないの。
こんなに手の届くところで拒絶するの。
伸ばしても伸ばしても受け止めてもらえない手は空回りするばかり。
それでも諦めきれない思いがもう一度手を伸ばさせるんだ。
喉の奥が焼け付いてヒリヒリする。
息が浅くなる。苦しい苦しい苦しい。
心臓が絞られて悲鳴をあげてる。
壊れてしまう。
シュウゥゥン、と音を立ててエレベーターが止まる。
B-14Fのランプが赤く点灯してる。
ミゲルが腕にしがみ付いてた俺の手をそっと取って、包み込んで、離す。
「ごめん…」
ゆっくり後ろを向いて、離れていく。
ぬくもりが奪われていく。
背中が遠ざかる。
その心には届かない。
「その手は何のためにあんの!」
「ラス…」
「俺を突き放すため?人を撃つため?」
振り向かない。
「行かないでよミゲル!!」
「俺を見てよ!」
「抱きしめてよ…!!」
伸ばした指の先で、静かにドアが閉まった。
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【反省と言うよりむしろ言い訳】
…終わらなかった。
2005.04.23
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