信じられないよ


こんなにも諦めが悪いなんて


こんなにも、好きだったなんて


 

 


笑顔一粒...07

 

 

ミゲルの腕を振り切って走って、次の角とその次の角を曲がったあたりで止まる。
ミゲルの前で零してしまった涙はたった一粒で、それ以上流れることもなく、今はもう跡形もなく消えてしまった。
まるで卑怯な手段を使ったみたいで、胸が痛くなる。
自分がこんなにも諦めの悪い人間だったことを思い知ってヒリヒリ痛む。
…一生叶わない思いだと覚悟は出来ていたのに、まだ割り切れてなかった。
キスシーン見ただけで取り乱して、みっともなく逃げ出して。
また…自分の思いだけぶつけて逃げるなんて。
最後の瞬間のミゲルの顔が、雨の日の残像と重なる。


迷わせるようなことをしてごめんね。
余計な気を回させてごめんね。
好きになって、ごめんね…
何でいつも裏目に出ちゃうんだろう。
これでも一生懸命頑張って考えてるつもりなのに、ホントにつもりでしかない。
結局、俺は自分のことばっかり考えてる。
反省ばっかりで、一歩も前に進めてないんだ。




重荷になりたくないのに、俺の全てがミゲルを困らせてしまう
でも、どうしてもこの思いだけは、取り上げられたくない。
どうすればいい?
どうすればこの思いを守れるの?
わからない、わからないよ、もう。
ひざを抱えてそこにうずくまる。
何も考えたくない。
顔を膝小僧に押し当てて、ギュッと軍服の袖を抱きしめる。
このまま息が出来なくなったら、この思いを失うこともないのかな…
誰も傷つけずにこの思いを守りきれるのかな。








「……人の部屋の前でうずくまるな。邪魔だ。」




あぁ、俺、息してる…。
ぼんやりと顔を上げると、不機嫌そうなイザークの瞳にぶつかった。
ふと見回すと、適当に走って来たそこはイザークたちの部屋の前で
無意識のうちに「安全圏」に入ってる自分にちょっと苦笑した。
整備を終えたらしいイザークがかったるそうに俺を足でどけて解除キーを押した。
イザークが顎でしゃくって、俺に入れと合図する。
半分這いずるように入ると、かかとのあたりで扉が閉まった。




「何?」
「あんなところにいたら邪魔だ。」
「そっか。そうだね。」
「いつまでそうしてるんだ、お前。」




イザークがコーヒーを淹れて、椅子にドサッと座ると、鬱陶しそうに軍服の襟元をくつろげる。
コーヒーを啜りながらうずくまったままの俺を見下ろす顔に、笑みはない。
のろのろと立ち上がりかけると、イザークがいらだたしげに言い捨てた。




「いつまでお前は逃げ続けるつもりなのかと、聞いてる。」




痛い。




「大筋はニコルから聞いてる。今日もまた何かあったんだな。」
「……」
「ミゲルとアスランが一緒にいるのを見ていられなかった、そんなところか。」




痛い。
この瞳は容赦なく俺を見つめて、隠していたもの全て暴き出してしまう。
昔からそうだ。誤魔化しも言い訳も許さない真っ直ぐな瞳。
だからきっとここには来たくなかった。
でも、きっと俺はどうしても来なくてはいけなかった
そんな現実が目の前に真っ直ぐ突きつけられて
この場から逃げ出したくなるほど痛い。




「いい加減、その中途半端な態度をどうにかしろ。」
「イザークには関係ないじゃん。」
「見ていて癇に障る。」




平然とした顔をしてイザークが冷たく言い放つ。
ジリジリと焼け付くような感情が心に芽生える。
考えることに疲れきった頭がショートしそうだった。




「そんな勝手なこと…知るかよ。…帰る。」
「そう言ってお前はまた逃げるのか。」
「違う!違う違う違う…!!逃げてるんじゃない!」
「じゃあ何だ。」
「…っイザークにはわかんないんだよ!!もうほっといてよ!」




いきなりイザークが手を振り上げると、俺の襟を掴んでベッドに引き倒した。
驚いて反射的に足を上げて跳ね飛ばそうとしたが、イザークの方が一瞬反応が早かった。
半身を翻して俺の蹴りをかわすと、そのまま馬乗りのように圧し掛かられた。
掴まれたままの襟元が、イザークの右手でギリギリと捩じ上げられる。
イザークの瞳は冷ややかに、激昂していた。




「いた…い、放せ…よ!」
「いい加減にしろよラスティ。いつまでグズグズやってるつもりだ。」
「イザークには…ニコルのいるイザークにはわからないだろ!好きな相手には俺じゃない好きな人がいて、お互いに思い合ってて付け入る隙なんてないんだよ!!俺が好きになったって困らせるばっかりなんだ…!」
「だから諦めるのか。」
「あの瞳は俺のことなんか見てないんだ!ただの一度だって!!でも俺はこの思いを捨てることなんて出来ない…だから…だから俺はただ見返りなんてなく、ずっとミゲルのことを好きでいようって決めたんだ…俺の中で…何も変わるものなんてないから」




そう、何も変わるものなんてない。
俺は変わらずミゲルが好きなんだ。
ミゲルが自分に迷った時、変わらず俺だけは好きでいるとそう言えることを誇りにして生きていこうと決めた。
ミゲルの確かな支えになれれば、もうそれでいい。
俺は変わらずミゲルを好きだよって言えることが、俺の全てなんだから。




「じゃあ何でお前はアスランから奪おうとしないんだ」
「…俺の話聞いてなかったのかよ。」
「聞いた。要するにお前は二人の間がどうこうと言って、闘うことから逃げてる。違うか。自分の行動を正当化しようとして、散々理由を付けて、泣いて逃げて?下らない。」
「イザ…」
「なぜお前は手を伸ばさないんだ。欲しいものがあるんだろう!?」
「だ…って…そんな自分勝手なこと…」
「何を今さらバカが!好きになることってのはそれ自体で十分自分勝手だ!ひとつふたつ増えても変わらん!」
「でも」
「いくら綺麗事を言おうがお前にはアスランが邪魔なんだ。だったら上っ面を塗り重ねて遠慮して後悔して泣くより奪え!真正面からぶつかって見せろ。それが本当にアスランを思うって事だ。」
「……」
「いいか、理屈を捏ねても欲しいものは手に入らない。それならグダグダ言うより手に入れる努力をしろ。お前はそうやって生きてきたんじゃないのか。」
「イザーク…?」
「お前はいつだって前ばっかり向いて走ってきたんだろう。今さら後ろなんか見るな。」




イザークのブルーグレーの瞳が光った。
…ああ、だからイザークは俺を見ていると癪に障るとそう言ったんだ。
一気に頭が冷えていくのを感じる。
すうっと冷めていった感情が、眠っていた感覚を呼び覚ます。
俺は今まで何を考えてた?
どういう気持ちで前を向いていた?
体の奥で何かが甦る。
鼓動が高まる。




「お前がアイツを好きなら手を伸ばせ。それがお前が二人に対して見せる精一杯の誠意だ。」




イザークの目が俺の目に直接そう言い置いて、体が離れた。
圧迫から解放された体が酸素を求めて上下する。
冷えきった指先に血が流れていく。
体の隅々にまで血が駆けめぐる。




そうだ、このままじゃいけない



足を跳ね上げて飛び起きた。
頭を振って短くなった髪を両手で掻き揚げる。
ベッドサイドに立っていたイザークに、笑う。
イザークが一瞬片眉を上げて、すぐに不敵な笑みに変わった。




選ばなかった選択肢の結末を、一生悩んで終わりたくない。
意気地なしの俺に力を、もう一度だけチャンスを。




今度こそきっと間違えない。

 

Back or Next?




【反省と言うよりむしろ言い訳】



相変わらずの幼馴染設定でGOのラスとイザです。
飴と鞭でニコイザはうまく回ってるのだと思います。




2004.10.24