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決して揺るがないと信じていた自分の思い。
不意に、流れ星のように落ちてきた小さな花。
今、この胸を支配している想いはなんだろう?
笑顔一粒...04
金縛りにあったように動けなかった。
体が雨に打たれてるのも実感がない。
ラスティがずぶ濡れの袖で顔を覆って、俺の横をすり抜けた。
引き止めることも、追いかけることも、もう出来ない。
…まっすぐにぶつけられた思いが痛い。
あんな風に感極まって泣き出すほどの思いを抱えて、今までアイツは俺に、どんな気持ちで接してきたんだろう。
俺は、ラスティのことをずっと可愛い弟みたいに考えていた。
可愛がってる…つもりだった。
『ミゲルはアスランしか見てないから解らないんだよ!』
張り上げた言葉が胸に突き刺さるようだ。
違うとは言えない。
ラスティのことだって、アスランと同室だから仲良くなっておこうという下心があった。
いつだって俺は、アスランのことが頭の片隅にある。
今日怪我をしたのも、ボーっとしてたのも、ほとんど無意識にアスランのことを考えていたから。
それを目の前で見て、ずっと耐えていたのだろうか…
俺はアイツを、あんなに泣き叫ばせるほど傷つけた。
『部屋、貸してあげようか?俺はイザークたちのトコにでも行くからさ♪』
どんな思いでそう言ったんだろう。
今の俺には到底わかりそうもない。
…これまでも知らずに傷つけていたのかもしれない。
あぁ、小さく最後に聞こえた、あの言葉。
「アスランはミゲルのことなんて好きじゃないのに」…?
あれは、どういう意味だ…?
俺に聞かせようとして言ったのか?
それとも何か、そう言う根拠が?
ダメだ…もう頭がグチャグチャでこれ以上うまくまとまらない。
こんな時アスランがいたら、それだけでもう十分なのに…
どうにもならない思いから逃げる道を閉ざされて、迷宮の中に迷い込んだ気分だった。
遠く西の空を見上げると、黒々とした雲が重苦しく立ち込めている。
いつまでも降り止まない雨が冷たく目に沁みた。
アスランが帰ってくるまでの二晩、ラスティは部屋に戻らなかった。
どこにいたかは知らない。ただ、毎朝ちゃんといつものように食堂で赤服の連中と食事を取っているのは見かけた。
気になって目で追うものの、目が合いそうになると露骨に逸らしてしまう。
どういう顔をしていいのかわからない。
俺がラスティの気持ちに応えてやることは出来ない。
でも、傷つけたくなかった。
…そんなの傲慢でしかないけど、これ以上アイツが泣く姿を見たくないと思った。
自然とオロールたちと一緒に行動して、赤服の連中と話すことも少なくなった。
そして、それはアスランが帰ってきてからも変わらなかった。
ラスティの視線を意識してしまって、一緒にいても落ち着かない。
あの言葉が引っかかって、アスランの顔もまともに見られない。
アスランが当惑した顔を見せるようになった。
…こんな顔させたいんじゃないのに
何でこんなに中途半端にしか立ち回れないんだよ、俺は。
どうしてスパッとラスティを切り捨てられないんだ。
…イライラする。
「また、頭打つよ。」
「うわっ!!」
突然後ろからかかった声に、驚いて振り返るとラスティが立っていた。
顔を見た瞬間、思わず目を逸らしてしまった。
…露骨過ぎる。でもどうしていいかわからない。
誰もいない格納庫。
物音ひとつしなくて、俺の心臓の音がラスティに聞こえてしまうんじゃないかと思う。
結論は出てるのに、どうしてかハッキリと言い出せそうにない。
逃げ出せるものなら逃げ出したかった。
と、ラスティがフッと息を吐いて、笑った。
「ごめんね、驚かせたね。今日も、また。」
あんまり普通に笑って言うから、一瞬それまでのことが夢だったんじゃないかと思った。
でも、その目の周りの痛々しいくらいの泣き跡が、夢じゃなかったことを俺に教える。
アスランと同じ部屋で、いったいどこで泣いてたんだろう。
誰か、側にいて慰めてくれる奴はいたんだろうか。
…なんて、俺が気にしてもどうにもならないのに
「いや…」
「謝りたくて、会いに来た。」
「謝る…って」
「このあいだ、俺が一方的にミゲルに色々ぶつけちゃったこと。…ごめん、あんな風に言うつもりなかったんだ。」
ラスティが謝ると言ったとき、思わず体が震えた。
もしかして、あの言葉のことだろうかと思ったから。
あれはやっぱりお前の…負け惜しみだったのか?なんて…
そんなふうに考えてた自分がずるくて弱くて情けなかった。
「あ…ぁ……。いや、あれは俺も無神経だったから」
「ううん。ミゲルは何も知らなかったんだから謝ることないよ。」
「ラスティ…」
「あんな風に言って、困らせたよね。ごめんね。アスランのことも…俺ホントは好きだから。」
「………」
「アスラン、ホントに良いヤツだし…時々ちょっと危なっかしい所もあるから、大事にしてあげてよ。」
また、笑う。
泣きはしないかと、ずっと目元ばかり見てしまっていたけどそんな様子は見せない。
ラスティは、俺に対する気持ちを断ち切ろうとしているのだとわかった。
それが不安に感じるなんてどうかしてる。
むしろ願ったり叶ったりだろ。
自分で言い出せない代わりに、こうしてラスティから言い出してくれてる。
俺は、これを受け入れてやるべきだ。
「…驚かせて、困らせて、ごめん。もう、あんなこと言わないからさ!だから…」
「うん…?」
「……一回だけ…キス…してもいい?」
研ぎ澄まされた神経が震える。
俺とラスティとのつながりがギリギリの細い線になっているのを感じていた。
見上げるラスティの瞳は真剣そのもので、俺は今まで本当にこの目をちゃんと見てきたのだろうかと思う。
ラスティはこんなに綺麗な目をしていただろうか?
アスランのことを大切に思ってる。
誰が好きかと聞かれれば間違いなくアスランと答えるし、その自信はある。
本当にアスランのことを考えてるなら、ここで受け入れるべきじゃない。
でも今、このラスティの瞳に宿る最後の光を、この手で消す勇気がない。
何より、この瞳に抗う理性なんてない。
ラスティがそれで思い切れるっていうなら、それくらいしてやるのが俺の…
「先輩」としての務めじゃないのか。
「いいよ。」
自分のエゴのために一番残酷な選択をした。
震えるラスティの手が俺の腕を必死に握り締める。
背伸びをして、足も震えて、フラフラして頼りない。
顔が近づいて、目を閉じた瞬間にその頭に手を伸ばしたのは無意識だった。
後ろで一本に束ねられた髪の間に手が通り、サラサラと指の間を滑る。
唇が触れたのはほんの一瞬だった。
『じゃ、明日からまたクルーゼ隊の仲間ってことで。よろしく!』
最後まで笑っていたラスティ。
まっすぐ背筋を伸ばして歩いていったラスティ。
アスランと並んで歩きながら、その後姿ばかりが気になっていた。
最後に零した笑顔が、俺の体の真ん中に種をまいて
芽を出して、心臓にくるくると蔓を巻きつけて絡め取る。
望みは叶ったのにこんなにも苦しい。
泣き顔以上に、あの笑顔が目の裏に張り付いて消えない。
その夜初めて、俺はラスティのことを考えて眠れぬ夜を過ごした。
…頭…重てぇ……
ほとんど眠れなかったからな…
洗面所で顔を洗って、鏡の中の自分に苦笑した。
ひっでー顔。
こんなことなら昨日の夜アスランを誘っておけば良かった。
罪悪感に苛まれたとしても、側にいれば眠れたかもしれないのに。
大きく溜息をついて、軍服に袖を通す。
ブーツの音をわざと高く鳴らしながら食堂に行くと、もうほとんどみんな集まっていた。
と、真ん中あたりに人だかりが出来てるのが見えた。
何だ?あれ。
カツカツとそのかたまりに近づくと、一番外側にいたオロールが気付いて俺の側に駆け寄った。
興奮したような目で、「早く来い」と袖を引く。
かたまりを押し分けるように真ん中に身を割り込ませると、話題の中心人物がこっちを向いた。
「ミゲル!おはよう!」
ギリギリの線が音を立てて切れた。
クリッとした、青く澄んだでかい目
にっこり笑った笑顔も、昨日のままなのに
笑顔をふちどる明るいオレンジの髪が
昨日、この手に掬ったばかりのあの髪が、面影もなくきれいに切りそろえられている。
「朝起きたら髪がないだろ、驚いたのなんのって。」
「そう!アスランてばしっつれーなんだよ!俺の顔を見て卒倒したんだから!」
「ニコルが切ったんだって?へぇー上手いもんだなー」
「ありがとうございます。」
「でしょでしょ?イザークのもニコルが切ってるんだってー。」
「バッバカ!ラスティ貴様余計なことを!!」
食堂の喧騒も耳に届かない。
久しぶりに話す赤服の連中の顔も、見えているのに焦点が合わない。
ただ、短いオレンジ色の髪だけがハッキリと目に映る。
今でも、あの感触をありありと思い出せるというのに
まるで俺への思いを…俺との関係も、全て切り捨てたようなその髪。
ぽっかりと体の真ん中に穴があいたような気持ちになる。
と、視線を感じたらしいラスティが、俺に顔を向けて笑った。
「似合う?」
また一粒、笑顔の種が胸に落ちた。
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【反省と言うよりむしろ言い訳】
ミゲル視点で。
アスランアスラン言ってるミゲルが新鮮でした。
あの余裕の表情の下にこんなに葛藤があったら面白いなぁと。
2004.08.31
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