二人が一人きりよりも孤独にさせることがあるなんて、知らなかった


 

 


笑顔一粒...01

 

 

「はい、痛み止め。」
「悪いなラスティ。」
「それにしても格納庫のど真ん中でボーっとして頭打つなんて」
「ハハハ…ちょっとカッコ悪かったか」
「超ダッサイ。」




ムッと顔をしかめたミゲルを他所に、さっさと薬箱を片付ける。
イザークもディアッカもバカバカしいって言って来ようとしなかったから、なぜか俺がこうしてミゲルの怪我の手当ての手伝いをしてる。
緊張の所為か、言葉尻がいつもより乱暴になる。
数えるほどしか入ったことのないミゲルの部屋。
慣れない、大人びた香水の匂いにクラクラする。
こういうことが嫌いだとかそういうんじゃないけど、今日だけは少し辛かった。
アスランは、昨日から三日間の休暇をとっていて不在。
ミゲルの怪我の原因は、まさにそこにあることを知っていたから。




「フン。どうせ俺はダッサイよ。」
「集中する自信がないなら一緒に休暇とればよかったのに。」
「…な…何の話だよ。」
「アスランと同室の俺に隠すつもりだったわけ?」
「…………いつから知ってたんだよ。」
「さぁ。ミゲルが夜這いしに来た時?」




あれで俺に隠し通してるつもりだったんなら、相当この人は抜けていると思う。
夜中に何度となく誘いに来て。
ときどき部屋で始めようとして。
人通りのない通路で平気でキスとかしてる。
俺しか知らないのが奇跡のようだ。




「結構余裕ないんだね、ミゲルって。」
「…悪かったな。」




ふてくされたようにベッドにゴロッと転がる。
組んだ腕の上に埋めた頭から、サラサラと音を立てて金髪が流れる。
薄く開いた目は天井の方に向けられていたけど、そこに焦点を結ばない。
夢見るように、どこか遠くを見ていた。
それが何かなんて考えるだけ時間の無駄。
その視線の先にいつも誰がいるかなんて、痛いほどよく知ってる。










「三日は長いよなぁ…」










ポツリと呟いたミゲルの声は妙に哀愁を帯びて切なくて。
胃が締め付けられるような気分になった。
いつもなら心地良く耳に届く声が、今日は酷く心を抉る。
耳に張り付いたその響きを一刻も早く剥がして捨ててしまいたかった。




「部屋、貸してあげようか?」




本当は今すぐにでも部屋を出て行きたいくらい、いっぱいいっぱいだったけど
冷静を装って、笑いながらミゲルにそう言った。
笑うことが出来なくなったらきっと、『俺』で居られなくなりそうなそんな気がしていた。




「何で?」
「少しは一人寝の寂しさを紛らわせるんじゃないかなーと思って。アスランの匂いでいっぱいだし。俺はイザークたちのトコにでも行くからさ♪」
「バーカ。つまんねー気ぃ回すんじゃねえよ。」




起き上がったミゲルが、大きな手で俺の頭をぐしゃぐしゃにかき回した。
何気ないそんな仕種がいっそう俺を締め付ける。
深く深く心を抉って
ヒリヒリ泣き出す心臓が痛くて痛くて堪らない。




「ま、空けとくから。気が向いたら好きに入って好きに使ってよ。」
「あのなぁ…って、お前は?」
「ニコルかイザークかディアッカか…誰かの部屋に行くよ。一人寝が寂しい俺を慰めてくれる友達はゴマンと居るからねっ♪」












「じゃあ、かわりに俺の部屋に来るか?」












一気に笑顔が消えてなくなるのを感じた。
ミゲルはきっと何の気なしに言ったことだろうけど
こんな質問に答えを出せるほど、俺は人間ができてない。
この部屋で一人ミゲルを思って、それだけで耐えて過ごす自信なんてない。
でもそんな惨めで悲しいことなんて絶対にしたくない。








「絶対に嫌だ…!」




一気に踵を返して走って逃げた。
ドアに半分ぶつかって、壁にぶち当たって右に曲がって、通路を真っ直ぐ走る
真っ直ぐ、真っ直ぐ
外に通じるドアを抉じ開けるとバラバラと雨が顔に当たった
最後に笑顔が作れなかった
頭がパンクして何も考える余裕がなかった
冷静になって、せめてもうひとつ角を曲がっていたら




















きっと追いつかれることもなかったのに




















「何で逃げんだよ。驚くだろ」




軽く息を弾ませたミゲルが、俺の右腕を掴んだまま言った。
頭が痛いんじゃないのかよ。
何で追いかけてきたりするんだよ。
濡れて風邪ひくよ。また、アスランが心配するよ。
ミゲルが腕を揺すって、そっちを向くようにと促してる。
でも出来ない。
強引に引っ張られた腕によろめくほど軽い体が恨めしい。
覗き込んだミゲルの顔を直視できなかった。




「…お前泣いてんのか…?」
「泣いてなんかない…!」
「どうしたんだよ、俺がなんかしたのか?」
「っ…してないっ…」
「じゃあどうしたんだよ。」




頬に伸ばされる手を振り払い振り払い、遠ざかる。
責任取れないんだから構わないでよ
そのお節介が大嫌いだよ。
いつだって先輩風吹かせて、俺を子供扱いして
いつだっていつだって
『アスランの隣にいる俺』しか見てくれないくせに…!




「ミゲルはアスランしか見てないから解らないんだよ!!」
「はぁ!?」
「何で…ミゲルはアスランしか見えてないんだよ!」
「ラスティ?」
「な…で俺じゃダメなんだよ…」




最後は掠れてほとんど音にならなかった。
搾り出した言葉に初めてミゲルはその意味を知ったようだった。
自分の頬を伝うのが雨だか涙だかもうわからない。
濡れた軍服が肌に張り付くのも、もう何も感じない。
大きく見開かれたセピアの瞳
今まで一瞬でも、俺の気持ちを考えたことのない瞳。
俺の姿はその瞳に映っていても、ミゲルの心にまで映らない
届かない
悔しい悲しい悔しい悔しい
どんなに思っても気にも留められないちっぽけな俺の心が。
空から雨が落ちて、肌を打つ、この雨ほどもミゲルの心を叩くことの出来ない、俺の気持ちが




「どうして……」




アスランだけがミゲルの心を手に入れることが出来るんだろう…?








天を仰いで両腕で顔を覆った。
アスランが居なければいいと、ずっと思ってた。
でも実際いなくなったってミゲルは俺のことなんか見もしない。
それがわかった今は、ミゲルの瞳がいっそう辛い。
恋しがってる瞳が誰も映さない。
早く帰ってきて、どこかへ連れてってよ。
俺の目に映らない所へ連れてってよ。


アスランが羨ましい。死ぬほど羨ましい。
何もしなくてもミゲルの隣にいられることが
好きだって言ってもらえることが
あの瞳に真っ直ぐ見つめてもらえることが
その全てが、どんなに願っても決して俺のものにはならない。
羨ましい。それ以上に妬ましい。
だって




「アスランはミゲルのことなんて好きじゃないのに…」




自分のことでいっぱいいっぱいで
小さくだけど呟いてしまったその言葉が
ミゲルの耳に届いたなんて思いもしなかった。

 

Back or Next?




【反省と言うよりむしろ言い訳】



たまにはミゲルに片思いしてるラスティも良いかと。
ミゲラスじゃないCPと悲恋を書くのは初めてかもしれない…。




2004.08.23