何にもしばられることなく


誰にも拘束されることなく


掴みきれず、指の間からすり抜けてしまう



 

 

大気に溶ける銀狼・4

 

 

ただいまも言わずに家のドアを開けて、ボーっと階段を上がる。
部屋に入るとカバンをそこら辺に投げて、制服のままベッドにダイブした。

モヤモヤが消えなかった。

奈々ちゃんに対してどうと言う気持ちなんて起きない。
彼女はサエを友達として見てることはわかるから。
だからあたしが今こんなに泣きたい気持ちになる理由は別にある。

今日はじめて知った。
サエとあたしは本当に友達に過ぎないんだと言う事実。
今までどこか確信してたんだ、あたしはサエにとって特別だって。
でも違った。
サエにとってはあたしも奈々ちゃんも同じなんだ。
同じ、女の子の友達。それだけ。
それがこんなにも辛い。

 

友達でいいなんて嘘だ。
あたしはもうサエを友達として見ていない。
そう、サエを意識しだしたあの頃からずっと
あたしはサエが好きなんだ。
好きなんだよ。

ただあたしはそれを認めたくなかったんだ。
サエを好きだって認めたくない。
だって知ってるから。
サエがあたしのことをそういう対象として見ていないことくらい。
好きになっても勝ち目のない恋なんだって。

だってあたしは気づけばサエにメールしちゃうし
落ち込んだら電話をかけてしまう。
いつだったか、同じ委員会の子からメールで告られた時もサエに電話したね。
どうしよう、本気かな…って。
どうやったら傷つけずに断れる?って。
2時間以上ずっと話を聞いてくれたよね。
あの子からメールもらった時、サエの顔しか浮かばなかったんだ。
とか他にもいっぱい友達はいるのに、なぜかサエの顔が浮かんだ。
サエの声が聴きたかった。

 

ポツリ、シーツにしみが出来る。
じわりと広がってもっとあたしを切なくさせる。
好きだから泣きたくなるのか
報われないとわかってるから泣きたくなるのか
わからなかった。

 

 

 

pipipipipipi…

 

 

 

携帯が奏でる電子音に目を開けた。
いつのまにか眠ってしまってたらしい。
泣きすぎた目が痛くて、まぶたを押し上げるのが億劫だった。
ポケットを探って取り出すと、ディスプレイには『』の表示。
3秒迷って、受話ボタンを押した。

『もしもし、?』
「うん。どうしたの、。塾じゃないの?」
『もう終わったのよ。だから電話したの。今はもう家だよ。』
「そっか、もうそんな時間…?」
『寝惚けてるのー?、なんか声変だよ?』
「うん、ちょっとね。それでどうしたの?何かあった?」

心配してくれてるのはわかってるけど、ちょっとすぐには言い出せなくて、話題をに振ってごまかした。
それにの声は、あたしとは対照的にとても弾んでいたから。

『そうなの!聞いて!あたし木村くんに告白したの!』
「嘘!それで?うまくいったの?」
『そうなの!もう夢みたいだよぉ〜!』
「…おめでとう…!ホントに…おめでと…っ」

半分涙声のようだけど、とても嬉しそうなの声が耳に響く。
の恋が叶って嬉しい。素直に嬉しいのに
何で涙が出るんだろう…

良かったね、ホントに良かったね…っ」
『ちょっと?泣いてるの?どうしたのよ』
、あたしサエが好きだよ。」
『え?』
「サエが好きなの。気づいたの。の言うとおりなの。あたしはサエを友達と思ってなんかなかったんだよ。あたし自分をごまかしてたんだよ。友達でいいって。でもそんなこと思ってないの。他の皆と一緒じゃイヤなの。サエの特別になりたかったの。」

「ごめん、にやっぱりねーって言われるのが悔しくてちょっと隠してた。」

ホントあたしも意地っ張りと言うか見栄っ張りだ。
でも自分が気づかないうちにサエにそういう目を向けていたのを、ずっとは気づいてたんだと思うと恥ずかしい。
気づかないうちにサエに色目みたいなのを使ってて、それをに気づかれてるっていうのが恥ずかしい。
変なトコで見栄を張ってる自分を隠したくてしょうがないけど、それでもには言わなきゃいけないと思った。
でも、は笑いもせず、茶化しもしなかった。

『あたしも煽りすぎたよね、ごめん。でも気づいて良かったじゃん。佐伯くんには言ったの?それ。』
「でもあたしはサエの恋人にはなれないの。」
『どうしてよ?』
「サエはあたしをそういう対象として見てなんかいないもん。」
『そんなのわかんないじゃない?』
「わかるよ。サエはあたしを友達としか見てないもの。」

言っててまた涙が出そうだった。
サエがこんなに遠く感じたのは今日が初めてだったから、もう色々いっぱいいっぱいなの。

「あたしにはサエを捕まえることが出来ないよ。」

涙ににじむ声なんて聞かせたくないけど、どうしようもないの。
勝手に涙がこぼれてあたしには止めらんないから。

『でも泣くほど好きなんでしょ?そばにいたいと思うんでしょ?』
「それはそうだけど」
『じゃあそれを伝えなよ。せっかく気づいた気持ちなんだから、伝えてあげなきゃ。』
「でも告白して何かが壊れちゃったら嫌だよぅ…!」

わがまま言ってる自覚はある。
でもでもどうしたら良いかわかんないんだよ。
あたし恋愛に関してはまるっきり初心者、1年生だもん。
それに今までずっと友達として大好きだったのがそういう好きになっちゃった時にどうして良いかなんて誰も教えてくれない。
ずっと一緒にいられたのが、振られたら友達にすら戻れなくなっちゃうのなんていやだよ。

が怖がる気持ち、わかるよ。でもさ、もし、もしこのまま告白しないでいて、佐伯くんに恋人が出来ちゃったらどうするの?それでもいいの?』
「え…?」
『佐伯くんに恋人が出来ちゃったら、友達として一緒にいられても、今までとは同じようにはいられないんじゃないの?』
「そんなこと考えてなかった…」
『それに、耐えられないでしょ、きっと。告白しなかったこと悔やむと思うよ、あたしは。』

サエに恋人…
ありえない話じゃない。サエ、人気があるほうだしテニス部だし。
考えたこともなかったけど…

『佐伯くんはのこと友達としてしか見てないっては言ったけど、あたしはそうは思ってないよ。』
…それは」
『もしそうだとしても、の気持ちを知ったら変わるかもしれない。の事、女の子として見るようになるかもしれないよ。』

が気づいたようにね、と言ってが微笑んだ。
いつものいたずらっぽい声が耳に心地いい。

『頑張ってみなよ、。大丈夫、あんたたちの仲はたった一回の告白で崩れるほど柔じゃないから。あたしが保証するよ。』

笑いながらも、それでもはっきりと断言したの言葉が嬉しかった。
そうだ、これで崩れるような仲じゃない。
あたしがいちばんそれを知ってるはずなのに。
サエが好きだって気持ちに振り回されて、大事なこと見失ってたのかもしれない。

「ありがとう、。サエに言ってみるよ。ダメでも友達でいてみせる。」
『うん、それでこそ!応援してるから。』
「うん。ホントありがと。今度木村くんにも会わせてね。」
『もちろんよ。も報告してね。』

 

長い長い電話を終えて、あたしはベッドから起き上がった。
ベランダに出るともうすっかり冷たくなった夜風が肌を滑る。
手すりに寄りかかって、光のこぼれる街に向かって息を吐き出す。
真っ白い吐息が闇に溶ける。
冷たい空気を思いっきり吸い込んで、吐き出す息に音を乗せた。

 

 

 

 

 

 

「サエが好きだ」

 

 

 

 

 

 

 

「サエが大好きだ!」

 

 

 

 

 

 

 

「好きになっちゃったんだよゴメンなさいね!!」

 

 

 

 

 

 

 

自然と笑いがこぼれた。
そうだね、好きになっちゃったものはしょうがないよね。
告白して何かが壊れることのより、告白しないで何かを失うほうがずっといや。
何もしないで後悔する方がきっとずっと辛い。
そんな形であたしとサエの仲にピリオドを打ちたくはない。
あたしはあたしの手で、この気持ちに決着をつけよう。

 

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2003.12.03