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その優しさはあたしだけのものではない
大気に溶ける銀狼・3
友達でいようと決めてから、あたしの心はとても安定していた。
前と何も変わらない、楽しい日々を送っている。
ときどき、ふとしたサエの仕種にドキッとすることもあるけど、
話したり笑いあったりするたびに、やっぱり友達でよかったとそう思う。
この位置はとても楽に呼吸が出来るから
失いたくないんだ
「ねぇ、聞いてる?」
「聞いてるよ。朝から十回くらい。木村くんが教室で女の子と話してたんでしょ?別になんでもないって。」
「そうは言うけど同じ制服だったんだよ!同じ学校の子なんだよ!もしかしたら彼女かも…」
「ただのクラスメイトってだけかもよ?」
「そっかなー。あー…どうしよう!」
「他に何か楽しいことなかったの?」
ため息をつくをどうにか元気づけられないものかと話題を変える。
昨日の塾で木村くんと女の子が楽しげに話してたって、朝からすごい凹みよう。
わかりやすいヤツだなぁ…
「うー?あ、そういえばね、奈々ちゃんって子がいるんだけど、昨日話してたらと同じゲームにハマってることが判明したの!」
「え?ホント!?」
「ホントホント!すごいやり込んでるみたいで、めちゃめちゃ詳しいの。」
「えー!会ってみたい!攻略のコツとか教えて欲しい!」
「会わせてみたいわ。きっと話が合うよ。」
「会いたい!」
「今度うちの塾遊びおいでよ。」
「うん、木村くんにもぜひ会ってみたいし。」
「…木村くんって?」
ひょっこり顔を出したサエが話に混ざってきた。
「うわっ!佐伯くん!なっなんでもないんだよ!!」
「あのねー、の想い人。」
「へぇ、さんの?」
「〜!!」
「へーきだよ、。サエは口が堅いし、女の子の気持ちくんであげられるヤツだからさ。」
「う…がそういうならそうなんだろうけど…」
「誰にも言わないから、さん。やっぱり告白は自分の口で言わなきゃ意味がないと思うしね。」
「そうだね、ありがと佐伯くん。」
の顔にやっと笑顔がこぼれる。
サエはにっこり笑って「Good luck」と親指でサイン。
ホント呆れるくらい女の子の扱いが上手いよなぁ。
遊んでるって意味じゃないよ。相手を尊重してる、そういう対応が出来る。
だからかな、すごく話しやすいのって。
「ところで、今日の放課後ヒマ?」
「あ、練習休みだっけ?ヒマだけど何?」
「『アメリ』のDVD、届いたんだ。うちで一緒に見ない?」
「えー!見る見るっ!!」
「じゃ、決まりな!」
そう言うとサエはバネに呼ばれて教室を出て行った。
「何でかなぁ、こんないい雰囲気の二人なのに付き合わないのって。」
…いい加減くどい気もするよ、ちゃん。
「はたから見たらそうなのかも知れないけど、あたしたち二人はそう思ってないんだからしょうがないじゃん。」
「佐伯くんはそうでも、は違うと思ってたんだけどなぁ。」
…どうして変なトコで鋭いのこの子。
でもわかんないんだよ、自分の気持ちが恋かどうかなんて。
こんな気持ちで好きだなんて言えない。
だから友達でいるって決めたの。
せめて今と変わらない位置は守りたいから。
「サエは友達だよ。」
あたしは笑ってそう言った。
+ + + + +
「おじゃましまぁす。」
「先に部屋行って待ってて。甘いのとしょっぱいの、どっちがいい?」
「甘いの!」
「おっけ。」
スリッパをぺたぺた言わせてサエの部屋に向かう。
あいかわらず綺麗に整頓された部屋の真ん中にクッションをひいて座る。
よく遊びに来るからすっかり慣れたものだ。
サエがミルクティーとクッキーなんかを持って入ってきて、さっそく鑑賞会を始めることに。
『アメリ』はフランスの映画。
主人公のアメリが周りにいる色んな人を、ちょっと素敵に幸せにしちゃうお話。
そんな彼女は好きになった人にも正面からアプローチ出来なくて
自分の存在を隠しながら、あの手この手で気を引こうとする。
すごく可愛いんだ。
あたしは前にサエに誘われて映画を観に行ってから、すっかりハマってしまったんだ。
特にアメリが皆を幸せにしようと、色々仕掛けるのが楽しい!
思わずサエと一緒に笑っちゃった。
「やっぱ『アメリ』はいいね。」
「フランス語って響きが可愛いよね。」
「だよね。俺も習うかな。」
「サエがフランス語?似合わなーい。」
「うるさいよ」
ラストシーン。
アメリに小さな幸せをもらって、皆それぞれの道を行く。
そしてアメリは自転車に二人乗りして街を駆け抜ける。
すごく幸せそうに笑ってる。
あたしたちも今、そんな風に笑ってるのかな。
そう考えて…首を振って否定した。
あたしたちは恋人同士じゃない。
「どうかした?」
「どうもしない」
「お腹空いた?何か作ろうか。」
「ううん、いいよ。あたしそろそろ帰るね。」
「そう?じゃ、バス停まで送るよ。」
友達でいるって決めたのに
こんな風に考えるなんてサエに失礼だ。
「また遊びにおいでよ。今度は俺の手料理振る舞うからさ。」
「サエの手料理?」
「そ。俺のチャーハンは絶品だよ。」
「あはは。楽しみにしてる。」
と、サエの視線があたしを通り越して何かを捉えた。
「あれ?サエくんじゃん?」
「あー!やっぱり!こんなところで会うなんて珍しいね。」
誰?
振り返るとボブカットの可愛い女の子。
初めて見る子だ。うちの学校の子じゃない。
「これから塾に行くトコなんだよ。サエくんは頭いいから良いねー。テニス推薦もありだし?」
「そんなことないけど。奈々ちゃんこそ剣道で推薦取れるんじゃないの?」
「あたしはそこまで強くないよ。」
バシバシ肩叩き合って、かなり仲良さそう。
話を聞いていると、どうやらサエの小学校時代の友達のようだった。
剣道の道場でも一緒だったみたい。
女の子に対してこんなに親しげに笑うサエを、あたしは初めて見た。
いつだってそれはあたしに向けられていたものだったから。
「…それじゃ奈々ちゃん、と同じバスなんじゃない?」
「そうなの?ちゃんて言うんだ。こんにちは。」
「えっ?あっ、こんにちは。」
「あれ?ちゃんってもしかしてちゃんの友達の?」
「あ…!じゃと同じ塾の奈々ちゃん…?」
「うん、そう!話聞いてるよ。あのゲームにハマッてるんだってね。今度一緒にやろうね!」
「うん、そうだね!いろいろ教えてね。」
「へぇ、意外なトコで知り合いだったんだ、二人とも。」
「ねー。こんな可愛い子とゲームの話が出来るとは思ってなかったなぁ。」
「良かったじゃん、奈々ちゃん。あ、バス来たよ。」
「途中まで一緒ね、ちゃん。じゃーねー、サエくん。」
「うん、頑張れよー。」
「じゃあね、サエ。」
ぷしゅうっとドアが閉まってサエが遠ざかる。
後ろの座席に二人で並んで座っておしゃべり。
話しててわかったのは、奈々ちゃんはすごくさっぱりとした良い子だってこと。
サエと仲良くなるのもわかる。
人間的にすごく魅力のある子だ。
昨日、元気のなかったのこともかなり心配してたみたい。
「じゃ、ちゃんはもうすっかり元気なんだ。」
「うん、サエがうまく励ましてくれて。ホントサエっていいヤツだよね。」
「そうだね。優しいし、人の気持ちをくんであげられる人だよね。」
何であたしは奈々ちゃんとサエの話なんかしてしまったんだろう。
「あと、押し付けがましくもないし。」
どうしてサエの長所を彼女の口から聞いてるんだろう。
「話しやすいよね、すごく。相談しやすい感じ。」
その優しさがあたしだけに向けられてるのではないことを
あんなふうに笑うのが私に対してだけでないことを
思い知ることになるなんて
「じゃ、あたしここだから。ちゃん、またね。」
……あたしはちゃんと笑えただろうか
…next
2003.11.10
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