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ひとはその大切さに気づけない
大気に溶ける銀狼・2
『そんなの俺が許しませんよー』
剣太郎の言葉があたしの頭の中で渦巻いていた。
どんなに仲良しでも、恋人同士じゃない雰囲気ってのはわかる。
いつだってあたしたちの中はそうなんだと思ってきた。
サエを男と意識したことはないし、きっとサエもあたしを女だと意識したことはないだろう。
ただ周りの反応は違って、クラスが同じこともあり、みんなあたしたちは付き合ってると思ってるし、そう煽ったりもする。
サエのことが好きな女の子に泣かれたこともある。
だから今日初めて剣太郎にああ言われて、びっくりしたんだ。
そう、びっくりした…
びっくり…
ううん。
違う、そうじゃない。
あたし、ショック受けたんだ。
今まで否定はしていたけど悪い気はしてなかった。
何だかんだ言ってお似合いって言われるの、嬉しかったんだ。
だから初めて言われた否定の言葉に動揺した。
でも別にあたしたちが仲よしなのを認めないって言われたわけじゃない。
ただ私たちが恋人同士になることを許さないというだけ。
それなのにどうしてこんなにショックなんだろう。
きっとあたしたちの関係の一部を否定されたような、そんな感じを受けたからなのだろう。
そう、きっとそうだ。
だってこの気持ちが恋かと言うとそんな劇的なものじゃない気がするから。
ただあたしたちの間は親友の一言で片付けられない、そう思うだけ。
特別なのだと。
そう思いたかった。
「、今日一緒に帰らないー?」
テスト明け、部活後。
夕暮れが押し迫る頃、サエが声をかけてきた。
あの日から一週間。
テストがあってしばらく部活が休みだった。
一応中三のあたしたちはそれなりに勉強も頑張らなきゃなので、ここしばらくゆっくりサエと話してなかった。
結構あたしはウズウズしてたから、笑顔でサエにVサイン。
一緒に帰りたがるバネやダビデたちから逃げ出して、肩をならべて二人で帰ることに。
駅まで歩きながら、途中のスタバに立ち寄った。
ゆっくり話をするときの合図。
二人がけの席に陣取って。
あたしはいつものカフェラテ。
サエはカフェモカと小さなフルーツケーキをオーダーした。
あいかわらずジェントルマンなサエはさりげなくいつも奢ってくれるけど、今日は遠慮しておいた。
でも、しっかりケーキのフォークを二人分用意してくれるあたり、よく出来た人だなぁなんて思う。
「なんかと向き合って話すの久しぶりだよね。」
「そうだねー。テスト期間で部活なかったし、お互い勉強してたしね。」
そう、だから今日帰ろうって誘われたの嬉しかったんだよ。
あたし同様、サエも話したいって思っててくれたんでしょ?
「だよなー。にしては珍しく頑張ってたんじゃない?」
「何それ。ひどいなー。まるであたしが不真面目みたいじゃんか。」
「それじゃまるでが不真面目じゃないみたいじゃんか。」
「真似すんなー!どーせあたしはサエみたく頭よし子じゃないですよー。」
「でも感性は豊かだよね、って。」
「そう?」
「うん。この間、本読んで感動したーって夜に電話よこしただろ。四時間くらい喋って。すごい興奮してたじゃんか。」
「ああ…あれね。ごめんね夜中に。」
その時はちょうど、テスト期間だというのに国語の読書感想文の提出期限も近くて。
ホントはめんどくさがりだからテキトーに済ませるつもりだった。
本を探して、図書室でたまたま手にとった短編集。
薄い本に数話入ってて、短そうだからちょうどいいやって、タイトルの気に入ったのをひとつ読んだ。
初めは普通に変な話とか面白い人だなとか思ってたんだけど、何か…読み返すうちに何か気になることがあって、考え出したら止まらなくなって、何かつかんだ気がして。
気づいたらサエに電話してた。
どうしてだかわかんないけど、サエに話したくなった。
この感覚をサエならきっとわかってくれると思った。
はっきりしないこの思いを、一緒にまとめてくれると思ったんだ。
「いや、面白かったからいいんだけど。今度その本俺にも貸して?」
「うん!いいよ!もちろん!!サエの感想聞きたい!!」
身を乗り出したあたしにサエが笑った。
やっぱサエはあたしの言いたいこととか理解してくれるし、同じところで感激したりもして、ホント最高だ。
こうやってあたしが感動したことを飽きもせず聞いてくれて、興味持ってくれる。
イイ奴。ホントイイ奴だよ。
きっと世界中探したってこんな人見つかんないよ。
その後も散々しゃべくって
スタバから出たのはすっかり日も暮れきった頃。
空は菫色でいくつか星も見える。
他愛の無い話をしながら駅までぶらぶら歩く。
「俺さ、話がある時に話す相手って選ぶんだよ。」
駅前の陸橋に足をかけた時、サエがふいにそう言った。
「どういうこと?」
「だからさ、ひたすら話を聞いてもらいたい時は剣太郎にすんの。で、相手の意見をとにかく聞きたい時はバネにするんだ。」
「じゃ…あたしは?」
「は、一緒に語りたい時かな。俺の話も聞いて欲しいんだけど、の話も聞きたい。話を発展させたい時とかまとめたい時はに話そうって思うよ。」
「えーホント?あたしもだよー!」
「マジで?やー、嬉しーなー。」
それって最高の賛辞だ。
最高の名誉だよ、サエ。
「うーん、やっぱと話すのはいいね。電話でも楽しいけど、会って話すのはホント違う。何つーか、電話だと8割損してる気がするんだよね。」
「はっ?何それー!あたしの声は全体の価値の2割しかないのっ!?」
「そうじゃないよ、ゴメン、言い方が良くなかった。と会って話すのは電話の2.5倍いい。」
「よくわかんない」
「そう?」
「でも嬉しいからいいや。」
あたしは声を上げて笑って、陸橋を駆け上がる。
サエもあたしを追いかけるように上る。
友達のままでいいのかもしれない。
告白してうまくいく確証なんてどこにもないじゃない。
気まずくなったりしたら、こうして話せなくなるかも知れないのだから。
サエとの関係をどう呼ぶのかなんて分からないけど
あたしにはこの手が必要で、どんな形でもいいから側にいて欲しいと願ってる。
サエもあたしを必要としてくれてることがわかったから
このまま友達でいよう。
きっとあたしたちにはそれが一番似合ってる。
大切な存在を失う前に大切だと気づけただけでもう十分。
このままこの位置を大切に守っていけばいいんだ。
そうしてあたしは剣太郎の言葉に傷ついた事実にふたをして
サエと友達でい続けることを選んだ。
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2003.10.07
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