嬉しいって、こういうことを言うのかもしれない。


 

 

C-lover

 

 

慌しい午前のメニューがひと通り終わった昼下がり。
いつものように昼食をとるべく食堂に足を運んだ。
が、そこにいたのはラスティとミゲルの二人だけだったのはツイてなかった。
この二人、もう軍の中じゃ公認のバカの付くカップルで、人目を憚らず始終ベタベタベタベタ。
暑苦しいこの時季、一番見たくない奴らだった。
しかもラスティは俺の幼馴染。
身内の恥のようでなおさら嫌になる。




「ラスティ、今日の昼飯チキンライスだってよ。」
「ホント?やったー!」
「好きだもんな。旗、立ててやろうか?」
「ぷー!また子供扱いして!!いらないよっ!!」
「そ?鯉のぼり形の可愛いの、持ってんだけどなぁ…」
「えっ…!?え…っと…ちょっと…欲しい…かも」
「素直で良いな〜お前は。」




一事が万事こんな感じ。
…昔からああいう奴だったけど、拍車がかかったな。
壁に寄りかかってコーヒーを啜りながら、ディアッカあたりがとっとと来ないかと考えていた。
と、遠くの方からこの場にそぐわない、爆音の足音が響いてきた。
…何だ?




「イザーク!イザークいますか!」




珍しく慌てた声が響き、振り返って戸口を見れば明るい緑の髪が視界に飛び込んでくる。
軽く息を弾ませて、真っ直ぐ俺のほうに走ってくる。
こんなに血相を変えるなんて、年の割に比較的落ち着いた奴にしては珍しい。




「何だ、騒々しい。」
「イザーク!今日あなたのお誕生日だって本当ですか!?」
「え?あ、ああ」




そんなことか、と適当に返事をした俺に、ニコルは衝撃を受けたように後ずさる。
のんびりあとから食堂に入ってきたディアッカが苦笑しながらラスティに何か言ってる。
どうやらアイツが話したようだが、別にそれはいい。
何でニコルはこんなに大騒ぎしてるんだ?
俺の誕生日なんて大して問題じゃないはずだ。




「誕生日なんて別に」
「酷いですイザーク!どうしてもっと早く教えてくださらないんですか!!」
「なっ…何で俺が罵られなければならない!?」
「僕、僕…お祝いしたかったんですよ!今からじゃ何にも出来ないじゃないですか!!」
「別に誕生日なんて…」
「あなたの問題じゃないです、僕の問題です!!」




ニコルが顔を真っ赤にして、握りしめた拳を震わせながら声を張り上げる。
こんな奴の姿は見たことがなくて、面食らう。
…妙に重い空気が流れる。










「俺さー、ニコルとイザークの外出届出しといたよ?」










緊迫感のないポヤーっとしたラスティの声が、場の空気を一転させた。
本人はミゲルの腕の中に収まって、くりくり目を動かしながら、俺とニコルの顔を見比べて不思議そうな顔。
何を今更、って感じの顔だ。




「え…?それ、本当ですか?ラスティ」
「うん、だって絶対二人で出かけると思ってたから、あーまだ出してないんだー、ダメだなーって思って…。」
「貴様何を勝…」
「ありがとうございますラスティ!!お昼ごはん、何でも好きなの差し上げますね!!」
「えー?いいよ、ニコルは親友だし、イザークは兄弟みたいなものだし!楽しんできてね?」
「ありがとうございます。じゃ、イザーク、食事が済んだら14:00に入り口のところで待ち合わせにしましょう。」




…なし崩し










+     +      +      +      + 











「イザーク、イザーク、どうしましょうか?」
「貴様の好きにしろ。」
「それじゃ意味がないですよ。あ、銀細工の雑貨屋さんがありますよ!イザークお好きですよね?」
「あ、ああ…」
「行きましょう!」




軍服から私服に着替えて、街をとりあえずぶらつく。
見慣れない私服のニコルは、やはり年相応に見える。
はしゃいでる姿は、普段の様子からは想像も出来ない。


ラスティにすっかりペースを乱されたものの、
妙に嬉しそうに笑ってるのを見ると、これも悪くはないかとそう思う。
目新しいそんな姿に、俺としたことが半分見惚れるように眺めてしまっていた。
振り向きかけたニコルに、慌てて手元の銀細工に目を移す。




「何か良いのありました?」
「っ!?いきなり後ろに立つな!」
「あ、ごめんなさい。わぁ、それ綺麗ですね」




ニコルの感嘆の声に、あらためて手元を見直す。
適当に手に取ったブレスレットだったが、確かに細工は凝っていた。
銀の四つ葉のクローバーがいくつも連なって、華奢だけど存在感がある。
しばらく見ていたが、元の場所に戻す。
惹かれていたが…今はなんとなく買う気になれなかった。




「いいんですか?」
「ああ。…で、次はどうする。」
「そうですね…時間もちょうどいいですし、お茶にしませんか?」
「お茶…だと?」




妙に恋人同士のような響きを持つそれに、思わず顔をしかめた。
…確かにニコルには他の奴らとは違う感情はあるが、そういうあからさまな関係というのにも抵抗がある。
ラスティとミゲルを見てるせいかもしれないが。
そんな俺の感情に気付いてか、ニコルが苦笑して首をかしげた。




「誕生日なんですから、ケーキぐらいはって思ったんですよ。」
「…まぁ、それくらいは付き合ってやっても良い。」
「ありがとうございます。美味しいところ知ってるんです。」














ニコルに案内されるまま、角をいくつか曲がると、カントリー風の建物の立ち並ぶ道に出た。
瀟洒な白い洋館風のカフェに入って、出窓の側の席に座る。
特に店の名前に気にも留めずに入ってきて、渡されたメニューを広げて…驚いた。
ここは…




「ここのブルーベリータルトがお好きだって聞いたんです。」
「…ラスティに?」
「ええ。甘いものがそんなに得意じゃないイザークも、ここのなら大丈夫なんだって。」
「とことんお節介だな、アイツも。」
「でも今日こうしていられるのはラスティのおかげですよ。僕は感謝してます。」
「そんなことくらいわかってる。」
「そうですね。」




ラスティがうちに遊びに来るたび、持ってきたブルーベリータルト。
俺が昔、腹をこわすほど食べたことを覚えていたんだろう。
…外さないな、アイツも。




「わぁ!ホントに美味しいですね、これ!」
「…まあな」
「僕、こんなに美味しいの初めて食べました」




ニコルがそう言って、嬉しそうにフォークを突き立てる。
久しぶりに食べるブルーベリータルトが、妙に美味く感じた。




「あ、イザーク、これ。」
「?何だ?」




ニコルが俺に渡した、掌に収まるくらいの小さい紙袋。
開けて見ると、さっき俺が見ていた銀のブレスレット。
あの、四つ葉のクローバーの…
バカみたいに呆けている俺から、それを受け取ると、器用に俺の左手首にはめた。




「お誕生日おめでとうございます。」
「………ありがとう…」
「イザークによく似合います。…あなたが幸せになりますように。」




微笑んだニコルの顔を、それ以上見ていられなかった。
ずっと何か話をしていた気もするが、どこか夢のように聞いていた。














「すっかり遅くなりましたね。」
「…そうだな。」
「楽しかったです。」
「ああ」
「あ…イザーク、ごめんなさい、もう一軒!楽譜見てもいいですか?」
「ああ…」




ニコルが指差した先には大きな音楽用品店があって、ガラス張りの店内にはピアノやらヴァイオリンやらも見えた。
ニコルが楽譜を見ている間、俺もぐるっと店内を見て回る。
店の中央に何台かピアノが並んでいて、自由に触ることが出来る。
その中で一台、とても綺麗なグランドピアノが目を惹いた。
好奇心で開けて、ひとつ鍵盤を叩くと、ポーンと澄んだ音がした。




「さすが目が高いですね、イザークは。ベーゼンドルファに目をつけるなんて。」




いつの間にか隣に来ていたニコルが、ニコニコ笑いながらそう言った。
俺の横をすり抜けて、優雅に椅子に座ると、指が鍵盤の上を滑るように動き出した。
初めてニコルの演奏を間近に聴いた。
ピアノも良いのだろうが、澱みない澄んだ音が奏でる旋律は今までに聞いたことがないほど透明で綺麗だった。
しかもこの曲って




「あら、ハッピーバースディの変奏曲かしら。綺麗ね。」
「ホント、これ、模範演奏なのかしら。素敵ね。」
「パパーママー、聴いていってもいい?」




店にいた人間が、一人、また一人、ニコルの演奏に耳を傾ける。
…ものすごい贅沢をしてるのかもしれない。
綿菓子のような髪の間から見える、ニコルの横顔を眺めながらそんなことを思った。
真剣な瞳は、またニコルの違う一面を匂わせて。
好奇心を刺激する。


ニコルがピアノに向かったまま、徐に口を開いた。




「イザーク、知ってますか?」
「何をだ?」
「クローバーってどう書くか」
「…?c-l-o-v-e-r…じゃないのか?」




掌にスペリングしながら聞き返した俺に、ちょっと首をかしげて。
最後の音をポン、と鳴らして体を反転させたニコルが満面の笑みを浮かべた。




「Loverって、入ってるんですよ。」




店中に鳴り響く拍手の中、はっきりとそう耳に届いた。




 

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【反省と言うよりむしろ言い訳】


何でお誕生日小説はこんなにやっつけ仕事になってしまうのか(涙)。
少しでもニコイザの可愛いデートの雰囲気が伝わればいいなぁと思います。
イザークさんお誕生日おめでとうvv




2004.08.08 (08.09 加筆訂正)