人はどこまで欲張りになれるのだろう


 

 

世界で一番好きな君に

 

 

「んんっ、それでは!Nicol,Happy birthday!!」




ラスティのとびっきり可愛い声が響き渡り、沸き起こる歓声と、カチカチン、とグラスを合わせる音。
綺麗に飾り付けされて、いつもとはすっかり表情を変えた食堂に、クルーゼ隊のメンバーが顔をそろえた。
手には色とりどりのドリンクの入ったグラス。
テーブルには食堂の名シェフ特製の料理が並ぶ。
軍の中とは思えない。
まさかこんな風に祝ってもらえるなんて思っても見なかった。




「ニコル、おめでとう!もう15だろ?まぁ飲めよ。」
「おめでとう、ニコル。マラカイトグリーンのハロ作ってみたんだ。譜面めくりも出来るよ。」
「ありがとうございます、ミゲル、アスラン。」
「どうした?元気なくないか?」
「そんなことないですよ。あれ?ラスティは?」
「ん?そういや…」
「ああ、ラスティならサラダが足りなくなったって、厨房の方に行ったよ。」
「あー姿が見えないと思ったら…。あいつホント料理好きなー。」
「この料理も、ラスティがほとんど手伝って作ったんだって?」
「そ。今回の主催はラスティだからね。飾り付けから何からすっげー楽しそうにやってたよ。うん、ホントいい嫁さんだよなー、ラスティは!!」




そう、このパーティを準備してくれたのは他ならぬラスティ。
こんな盛大な誕生日祝いを用意してくれてるなんて思いもしなくて。
僕は今、とてもラスティと話がしたかった。
惚気話の始まりそうなミゲルをアスランに任せて、厨房へと向かった。







「あれ?ニコルー!どうしたんだよ、ここまで来るなんて。」
「ラスティがここだって聞いたので。手伝いますよ。」
「主役が何言ってんの。いいから戻って。」
「いいえ。手伝わせてください。」
「…わかった。じゃ、そのゆで卵の殻、むいてくれる?」
「はい。」




ラスティは見かけによらずとても器用で、料理が上手。
色とりどりの野菜を綺麗に盛り付けていく。
僕はカツカツと殻にひびを入れて、卵をむいていくけれど上手くいかない。
殻の欠片が指にチクチクささる。
僕はこんなことも上手く出来ない。
ボロボロになったゆで卵を差し出すと、ラスティが笑顔で受け取った。




「ごめんなさい。上手くむけなくて。」
「ううん。時間が経っちゃってるから剥きにくかったよな。ゴメン。ニコルのきれいな指に傷つけちゃって。痛くなかった?」
「いいえ…。」




ラスティがサラダにチーズをかけて、ドレッシングを振る。
僕も大好きなシーザーサラダなのに、心が弾まない。
空気の抜けたボールのように、深く地面にめり込んでいく。
足りない、空気が足りない。
足りないですよ、ラスティ。




















「はい、紅茶。俺が淹れたんじゃあんまり美味しくないかもだけど。」




ラスティが悪戯っぽく笑って、湯気の立つダージリンを差し出した。
パーティの喧騒から抜けた、静かな自分の部屋。
隣にいるのは気心の知れた親友。
いつもの香りに、ちょっとホッとする。




「片付けはミゲルがやってくれるって。」
「何だか悪いことしちゃいましたね。明日も訓練があるのに、僕のためにこんなにしてもらっちゃって」
「主役は気にしない!それに、こういう時だからこそ、イベントごとは大事にしなきゃ。それにミゲルが片づけしてくれるのは、いつものことだから。」




俺、いっつもやりっぱなしだから、なんてちょっと照れたように笑った。
…可愛いなぁ、ラスティは。
僕でさえこう思うんだから、ミゲルなんてもっとだろうし。
惚気たくなる気持ちもわかるな。




「寂しい?やっぱり。」
「はい?」
「ずーっと所在無い顔してる。心ココにあらずって感じ。」
「そうですか?」
「イザークがいないから、でしょ?」




覗き込むように、目をくりくり動かして尋ねてくるラスティ。
直球、ど真ん中。
敵わないですね、本当に。




「僕、すごく嫌なんです。皆がお祝いしてくれるのはとても嬉しいのに、イザークがいないってだけで心から喜べなくて…。まるで卵の殻みたいに気持ちがひび割れて、とがって。皆にも悪いと思ってるんですけど」
「それだけニコルがイザークのこと好きってことでしょ?別に悪いことじゃないよ。俺、そういう気持ちわかるから。」




三日前から地球の基地に出かけているイザーク。
すぐ戻るって言ってはいたけど、もう三日。
遊びじゃないから、そんなにすぐになんて戻ってこれないのはわかってるんだけど。
寂しい、寂しい、悲しい
カップを手の中で揺らして、傾ける。
紅茶が金の輪を映して、揺れる。




「イザーク、きっと今日中に帰ってくるよ。」
「でも、もう22:00を回りましたし…今日中は無理ですよ。」
「何言ってるんだよ!『今日』はまだ二時間もあるんだよ!23:59の最後の一秒まで、諦めちゃダメだよ!」
「…ありがとう、ラスティ。」










ガタン!!
突然おおきな音がして、扉に何かがぶつかったようだ。
ガシュッ!!とありえない音を立てて、扉をこじ開けたのはイザークだった。
息を切らして、半身を前に傾けてはいるけど、仁王立ちで。
僕も、ラスティも、驚いて声が出なかった。
ここにイザークがいるのが信じられないのもあったけど
だって今、電子ドアを解除キーも打たずに手で…開けた…?




「ぷ…っ!あはははは!!イザーク最高!やっぱそうでなくちゃ!」
「ラスティ!笑うな!!っは……そもそ…もお前が…!」
「うんうん、ギリギリセーフだよ。じゃ、バトンタッチね。」
「え?あのラスティ?」
「こっから先は、俺の出番じゃないっしょ?」
「ふぅ…おせっかいが。」
「どういたしまして。良かったね、ニコル。」
「あ…は、はい。」
「デザートは、いっちばん最後のお楽しみだからね♪」




にっこり笑って、イザークがこじ開けたドアから悠々と出て行くと、ゆっくりドアが閉まった。
部屋の中には、ベッドに座った僕と、立ち竦んでるイザーク。
…あんなに会いたかったのに、いざこうして目の前にいると何から話していいのかわからない。
全部、喉までせり上がって、焼きついて掠れてしまう。
見つめあうだけの長い長い再会の時間。
均衡を崩したのはイザークだった。
手に持っていた箱を、ベッドサイドのテーブルに置いた。
その意志の強い目で、何かを促す。




「なんですか?」
「開けてみろ。」




白い、小さな箱。
そっと膝の上に抱え上げて開くと、中に鎮座していたのは宝石のようなフルーツタルト。




「おせっかいな幼馴染が、わざわざ連絡してよこしたんだ。」
「それで、今日のパーティにケーキがなかったんですね…。」




ラスティの得意げな顔が目に浮かぶようだ。
本当に、最高のパーティープランナーですよ。




「…遅くなって悪かった。」
「いいんです。『今日』に来てくれただけで。ラスティの言うとおり、諦めなくて良かったです。」
「それじゃ、俺の気が済まない。」
「それじゃ…今日だけはあなたに甘えても構いませんか?」
「…それでいいのか」
「充分過ぎるくらいです」














「上手くいったみたいだよ。」
「お疲れさん。良かったな」
「うん、やっぱりニコルは笑ってるのが一番いい。」
「お前もな。」
「えへへー。ね、ミゲルだったらどうする?ミゲルがイザークだったら!」
「そうだなー…同じだと思うけど。めいっぱい急いで駆けつけて、ケーキ買ってきて。」
「うん…?」
「残りの今日の時間を、ラスティに一番近い所で過ごすよ。」
「…うん。そうだね…」










恋人たちに大切な夜を。

Happy birthday to you.

 

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【反省と言うよりむしろ言い訳】


イザーク並みに滑り込み!
セーフかアウトか。むしろアウトかな;
ニコルお誕生日おめでとう!!
もうすごくギリギリで書いたのでボロボロですが、
敬愛する神咲湖斗さんに捧げます。(勝手に)




2004.03.01