気が遠くなるほどの数の星の中で


この愛すべき小さな小さな星を見つけた、奇跡を


 

 

L' etoile

 

 

ピピピ…ピピピ…
小さな目覚ましの音に、意識がぐーっと浮上してくる。
頭まで布団を被ったまま、もぞもぞと枕もとに置いたそれに手を伸ばす。
指先がスイッチに触れるより一瞬早く、音が止んだ。
ふと首をめぐらすと、俺のベッドの傍らにいつもねぼすけのアスランが 立っていて。
俺の目を見てにっこり笑った。




「Happy birthday, Rusty!!」




寝惚けた頭では、一瞬何を言われてるのかわからなかった。
三度瞬きをして、やっと目が覚めて、アスランの言葉が脳に染みてきた。




「あ、そっか…今日、俺の誕生日かぁ…」
「何だ、忘れてたのか?らしくないな。」
「最近忙しくてそれどころじゃなかったんだよ。ふぁ…ぁ」
「今日は休みとってないのか?」




起き上がって伸びをする俺に、アスランが意味深な目配せをする。
その言葉の奥に含まれた笑いを察知すると、奴の足を軽く蹴り飛ばした。




「いてっ」
「バーカ、俺が公私混同する奴に見えるかよ。」




なんて、これは誰かさんの持ち台詞。
堅物の先輩は、二言目にはいつだって、時間と場所を考えろって言う。
ここをどこだと思ってる、仕事中だ、公私混同するな。もう耳タコだよ。
物陰でキスぐらい良いじゃねーかと思うのに、許しちゃくれない。
いつだってがっついてるのは俺だけみたいで腹が立つ。
だから俺の誕生日だからって、特別に何をしてくれるなんて期待してないよ。
と、そんな俺の普段の様子を知ってるからか、あるいはこれがミゲルの口癖だからか
アスランは苦笑しながら首をかしげた。




「何だよ。」
「いや、それはどうかなと思って」
「(ムッ!)それに!俺がいなかったら仕事が進まなくて困るだろ。」
「それもそうだな」
「朝メシ行こーぜ。俺腹ペッコペコ。」




言うが早いかひらりとベッドから降りて軍服に袖を通す。
襟を一番上まで止めたところでふと思いついて、振り返った。




「「今日の朝食の…」」




全く同じタイミングで発せられた声に、思わず吹き出した。
なんだかんだ言っても付き合い長いからな。
お互いにお見通しってトコ?
アスランが俺の肩に軽くゲンコを当てて笑った。




「ポテト、な。」
「サーンキュ☆」




ふざけ半分でアスランに飛びつくと、呆れながらもよしよししてくれる。
そっけないようで愛情深いヤツだ。
ちょっと上昇した気分を抱えて、二人そろって部屋を出た。










「朝からずいぶん食うんだな、ラスティ。」




二人分のポテトを乗せたトレイを前に、ウキウキと食事を始めようとしていたら、上からオロールの声がかかった。
後ろからマシュー、イザーク、ディアッカと、ぞろぞろクルーゼ隊のメンバーが顔を覗かせる。
金色の髪はまだ見えない。




「アスランがくれたんだよー。今日は俺の誕生日だ・か・ら!」
「何、そうなのかよ!へぇーそりゃおめでとう。」
「おめでとう、ラスティ!」
「サーンキュvv」
「今度休みもらったらASHIのケーキな。」
「期待してるぜ、ディアッカ。」




みんながくれるお祝いの言葉をめいっぱいに受けて
無言で俺の頭をグシャッて撫でた(?)イザークに笑いかけた目の端に、金色の光が映った。
ニコルと並んでこっちに向かってくる。
ミゲルが近づいてくる度に、微かに鼓動が早くなる。
あんなこと言ったのに、ほんのちょっとだけ期待してる自分がいて。
そんな自分に呆れて心の中で苦笑する。
だってやっぱり俺はお前に惚れてんだよ。




「おはようございます。どうかしたんですか?」
「あのな、今日ラスティ誕生日なんだってさ。」
「そうなんですか?わぁ、おめでとうございますラスティ!」
「ありがとう、ニコル。」




ニコルが可愛らしい顔いっぱいに笑顔を浮かべて俺に笑いかけた。
こんな風に自分のことのように喜んで、祝ってくれることがすごく嬉しい。
チラリと隣に視線を滑らすと、パチッとミゲルと目があった。
物欲しげに見えたのか、笑いながらくしゃっと頭を撫でてきた。
…また子供扱いして。




「そっか、ラスティ誕生日なんだ。」
「そうだよ。」
「いくつになったんだ?」
「え?じゅうー…しち」
「その割にはいつまでも可愛らしいね、お前は。」
「るせー。可愛いって言うな。」




俺の反応に満足したのか、ミゲルがくっくっと面白そうに笑った。
…この余裕面がむっかつく。
いつだって一歩先に進んでて、そっから俺を見てるんだ。
でも今日俺はひとつ歳をとったんだから!ひとつオマエに近づいたんだから!
17の俺をなめんなよ!




「ムキになるトコが子供なんだよ。あー可愛い可愛い。」
「むっかつく!撫でんな!」
「ハイハイ、お前らがラブラブなのはわかったから、朝っぱらからいちゃつくなよ。」




オロールが呆れたように言いながら、トレーを持って戻ってきた。
後ろから来たマシューが、「おめでとう」って言って俺のプレートにオレンジを一切れのせる。
隣に座ったイザークが「今日だけだ」って、俺のプレートからピーマンを片付けてくれた。
…あれ?




「さーて俺らもメシにしようぜ。」
「そうですね。ラスティ、何か欲しいのあったら言ってくださいね。」
「あ、ううん大丈夫。ありがと。」




そう言えば




ミゲル、俺に「おめでとう」とは言わなかった。


そんな小さなことがポツンと心に染みをつくる。




…大した事じゃねーよ。ホラ、ちょっとタイミング逃したとか、よくあるじゃん。
アレだ、みんなの前で言いづらかっただけで、あとでこっそり二人になった時に囁いてくれんだ。
「おめでとう」って。「お前が生まれてきて良かったよ」って。
そうに決まってる。
一気に心の中に広がってしまいそうな小さな不安を押し留めるように、どうにか理由を見つけて自分に納得させる。
俺はそんなに心の弱い人間じゃない。
顔をあげると次の瞬間にはもう笑って、ポテトにフォークを突き立てていた。














「アレ?ミゲルは?」




落ち着かない気持ちのままこなした午前の任務は予定外に時間を食ってしまい、片付けもそこそこに慌ててやって来た食堂。
オロールとマシューの姿はあるのに、ミゲルが見えない。
だいたいいつも一緒に昼メシ食ってんのに、どうしたんだろう。




「あー、まだ仕事してんじゃねぇ?」
「え?まだ!?」




俺だってかなり遅くまでやってた方だ。
昼休みももう半分くらい過ぎてる。




「いつも仕事早いのに、今日はどうしたわけ?」
「さぁ?何か鬼気迫る勢いでやってたけどな」
「一応声はかけたけどね。生返事で聞こえてるんだかどうだか。」




二人も首を傾げてる。
…仕事から離れる食事の時間は、俺にとってはスキンシップを多少は許してもらえる時で。
誕生日だし、ほんのちょっとでいいから側にいたいと思ったのに。
朝からの勢いも気が削がれて、いつもならかき込む食事も箸が進まない。
何で今日に限って、こんなタイミング悪いんだ。
……もしかしなくても俺、避けられてんじゃないのか?




「考え過ぎだって、ラスティ。」
「でも、さぁ」
「ミゲルがそんなことするはずないじゃないですか。」




アスランとニコルが両サイドから俺を慰めてくれる。
考えてることが全部顔に出るからホントに参っちまうわ。
…情けねぇなぁ、俺。




「うん、わかってる。」




自分で言った言葉を、俺はどれくらい信じているんだろう。
それからの午後の任務、上の空でこなした俺がひとつもミスをしなかったのはきっと奇跡に近い。
何度となくミゲルの姿を探そうと思ったけど、こんな時間に纏わり付いたら余計叱られそうで。
結局その姿も見ず、声もかけられないまま時間が過ぎていった。










「え?ミゲルまたいねーの!?」




夕飯をとりに行った食堂で、オロールとマシューからまたもミゲルの不在を告げられた。
オロールとマシューも困ったような顔をしている。




「あぁ、昼もろくに食わねーでギリギリまで仕事してて、やっと終わったと思ったらどっか行っちまったんだよ。」
「どっか行っちゃったって、外?」
「らしいぜ。あとで確認したら夜間外出届が出てたみたいだ。」
「夕飯もいらないって言うし、部屋にも今日は戻らないかもって言ってたし、もう何がなんだか。」
「そんな…」




あまりのことに愕然としてしまってそれ以上言葉も出ない。
隣にいたアスランとニコルが何か言ってるけど耳に入らない。
イザークが眉間に皺を寄せてるのが見える。
きっと今の俺、ひどい顔してるんだ。
心配させちゃいけない。
こんなことくらいで傷ついて、カッコ悪い。




「ラスティ」
「あはは、参るよな、ホントミゲルってマイペースなんだから。」
「きっと仕事で…」
「うん、そうだろうね、ミゲルってああ見えて結構真面目だからさ。」
「…ご飯食べましょう、ラスティ。今日のデザート、食堂からのサービスですってよ」
「マジで?ラッキー!おっちゃんありがとな!」




ムリヤリ笑ったところで心の隙間は埋まらない。
胃は食べ物を受け付ける気もなかったのに、バカみたいにはしゃいで、デザートなんて三人分食べて。
アスランが心配そうに見てるのも気付いてたけど、大丈夫だって目で合図してやり過ごす。
今の俺はさぞかし滑稽に見えるだろう。
でも、それももう構わないと思う。
もういいんだ、ぶっ倒れるくらい食べて、死んだように眠って「今日」を終わろう。
それが17の俺に相応しい誕生日なんだ。










「ホラ、胃薬。飲んでおけよ。」
「サンキュー。」




部屋に戻ってベッドにばったり倒れ込むと、アスランがチェストから胃薬を出してくれた。
手を伸ばしてそれを受け取る。
よっこらしょと体を起こすと、水の注がれたコップが差し出された。
視線を上げれば、困ったような怒ったようなアスランの顔にぶつかる。




「へへへ、ちょっと食いすぎた。」
「ちょっとじゃないだろ。限度を考えろよ。」
「わかってるよーだ。」




水をもらって、粉末の薬をざっと流し込む。
薬の包みをギュッと捻ってゴミ箱に投げると、カサカサッと音を立てて吸い込まれていった。
天才的ぃーなんてふざけて言いながら、ベッドに転がる。
アスランが呆れたように溜息をついた。




「じゃあ、俺はちょっとニコルのところに行って来るから。」
「うん、ごゆっくり。俺はもう寝るー。」
「そうだな、ちゃんと寝て明日に残すなよ。」
「わかってる。…ありがと」




アスランが軽く手を上げて、そのまま部屋を出て行く。
仰向けに転がったまま、首だけめぐらせてそれを見送った。
足をゴソゴソやってブーツを脱ぐと、軍服のまま布団にもぐりこむ。
頭まで布団を被って、隙間から枕元の時計を見遣る。
今日は残りあと三時間を切ろうとしている。
俺は今日、一体どれくらいの時間ミゲルと一緒に居ただろう?
きっと交わした言葉の数さえも数えられるくらいに短い。
これなら普段の方がずっと側に居ると思ってまた虚しくなった。
…こんな特別いらねーよ、アホ。
手を伸ばすと時計をひっくり返して、ギュッと目を閉じた。


俺の誕生日だからって、特別に何をしてくれるなんて期待してなかったけど
いくらなんでもこの仕打ちはあんまりだ。
ほんの少しだけ、それでも希望を持っていたから余計に辛くて溜息がいっそう重くなる。
マジでどこに行ったんだよ。信じらんねーよ、こんな日に俺を置いて行くなんて。
なぁ、一分でも一秒でもいいから早く帰って来いよ。
ほんの少しでいいから「今日」俺の側にいろよ。


『部屋にも今日は戻らないかもって言ってたし…』


……「今日」じゃなきゃ意味がねーのに。
ミゲルのバカ。アホ。




カタン
シュウゥゥゥン


ドアが開く音にふと目を開く。
頭まで被った布団のせいで何も見えないけど、ノックもブザーも聞こえなかったしアスランだろう。
そう思っても、かったるくて顔をあげる気にもならない。
寝るって言ったし、アスランも気にしてないだろう。
少し身を縮めて、もう一度目を閉じた。








「ラスティ?」




反射的に目を見開いた。
耳から脳に音が伝わって、全身に駆け巡る。
顔を見なくても誰かわかる。それくらい耳に慣れた響き。
…俺、たったこれだけで、緊張してる。
全身が歓喜に震えてる。




「…寝てるのか?」




近づいてくる足音に一瞬心が迷って
思い直して身を硬くする。
…俺は怒ってんだよ。
朝もろくに顔を合わせずに、昼だって俺から逃げて
何にも言わずに勝手に出てって
誕生日なのに甘い言葉どころか「おめでとう」さえも言わない。
いつもそっけない上にこんな日にまでこんな扱い。
オマエなんか大っ嫌いになったんだよ。
今頃遅いんだよ。




「…タヌキだろ、起きろよ。」




ギシッ
膝の辺りのスプリングが鳴って、沈む。
でもそんなのに構わず、いっそう布団に深く潜った。
と、わずかにスプリングが軋んで
ミゲルの腕が布団ごと俺を抱きしめた。
体が圧迫される感覚と布団越しに伝わる熱に心が緩む。




「…ラスティ。」




長い指が布団を捲って、耳元で低く俺の名前を呼んだ。
思わずビクッと反応してしまった俺を見て、ミゲルがクスクスと笑いを零す。
悔しくてくちびるを噛み締める。
振り返ってギッと睨み付けた。




…何で俺はこんなヤツのことが好きなんだよ




「やっとこっち向いたな。」
「…何の用だよ。俺はもう寝るんだよ。」
「怒ってんの。」
「当たり前だろ…!」




何だコイツ何だコイツ!
俺が怒ってないとでも思ってたのか!?
あんな、あんな…
誕生日、なのに。
……いや、そうか、ミゲルにとってはその程度のことなのかも知れない。
そう思ったら、もう怒るのもだるくなった。
プイと顔を背けようとした俺に、ミゲルの腕が強く絡まる。




「悪かったよ。謝るから、ちょっと来いよ。」
「別にいらねーよ。もう部屋戻れ。」
「あぁもう時間ねーんだよ、グズグズ言うな。」
「ハァ!?…ってオイ!何すんだよ!」




いきなり来ていきなり身勝手なこと言い出したミゲルは、唐突に俺のことを抱えあげた。
そのまま俺はブーツも履かないまま、ミゲルに抱えられて部屋を出た。








連れて行かれた先は宿舎の屋上だった。
普段は鍵が鎖してあって、俺らもめったに出入りすることはない。
それが今日に限って鍵がかかっていなく、ミゲルは俺を抱えたまま片手で扉を開けて屋上に出る。
その途端俺の目に飛び込んできたのは、空一面の星。
…そう言えば空の星を見るのは久しぶりだった気がする。


思わずぽかんと見惚れていると、ストンと足が地に付いた。
下ろされた場所はなぜかふわふわのマットが敷いてあった。
ミゲルもブーツを脱いでマットに上がり、俺の隣に座る。
俺にも目で座るように促す。
その目がいやに優しくて。
座りながら落ち着かない気分になってた。
なんだろ、妙にドキドキする。
と、ミゲルが少し困ったように笑いながら、ゆっくり唇を開いた。




「こんなもんしか用意できなかったんだけどな…」
「え…?」




ミゲルが差し出した紙袋を開くと、セロファンにくるまれたスコーンがみっつ。
小さな瓶のママレードとヨーグルトクリーム。
スーパーマーケットのシールの付いた、カットフルーツ。
コレって…




「もうケーキ屋はほとんど閉まってたんだよ。」
「じゃ、夜いなかったのってコレ買いに…?」
「そ。かなり急いだけどやっぱ無理だったわ。」




おどけた口調でミゲルがそう言った。
半分照れたように笑って俺から視線を外すと、空を見上げる。




「だからこの景色もまとめてプレゼント!ってことで」




空の星がいっそう輝いて目に映る。
膝に乗せた紙袋の中身が急に重みを増したように感じる。
仕事いっぱいあるくせに
甘いもんなんか全然食べないくせに




「…バーカ」
「おいおい、ずいぶんご挨拶じゃないの。」




全部、俺のために




「くさいんだよ」
「あ、やっぱり?」
「いつも公私混同するなとか言うじゃん。」
「一年に一回のことだからな。」
「…ありがとう。」




膝の上のスコーンを見ながらポツリと呟く。
ミゲルが俺の頭を引き寄せて、ふわふわと撫でた。
それだけでうんと心が満たされる感じがする。




「…ありがとう」
「何でミゲルがありがとうって言うんだよ」
「どっちかっていうと、「おめでとう」より「ありがとう」って言いたかったんだよ。生まれてきて、俺の側にいて、そうやって笑っていてくれて。」
「…ミ…」
「この先もずっと一緒に、誕生日を迎えような。」




…それって…
……そういう意味にとって、いいのかな
どうしよう、でも、その言葉がすごく嬉しくて
単純だけど、もうそれまでのことなんてどっか行っちゃって
体中に熱が回り始める。
じわりじわりと心が焼けていく。
熱が顔にまで昇ってきたのを感じて、慌てて膝に押し当てた。




「ラスティー?」
「…見んな…今ちょっと…顔ひどいから」
「わかる。…耳まで真っ赤だよ。」
「あぁもうアホ…」




クスクス笑いながらミゲルが俺の手から紙袋を取って
ちぎったスコーンにクリームをすくって、フルーツを一欠けら乗せる。




「ホラ」




クリームいっぱいのスコーンを俺の口に押し込む。
ヨーグルトクリームの甘酸っぱい香りが口いっぱいに広がった。
ホントはもう何にも食べられないくらいに腹はキツキツだったけど
ミゲルの思いが嬉しかったから、何より美味しく感じた。
もぐもぐと咀嚼する俺を見て、首をかしげて笑うとそっと顔を寄せてくる。
チュッと唇に軽く口づけて、俺の口の周りに残ったクリームを舌で綺麗に舐めとった。
そうして離れていこうとする頭を、両手で抱えて引き止める。
何か言おうとする唇を塞いで言葉を全部閉じ込めた。
腕を回してめいっぱい引き寄せて
唇を割って、攫われたクリームを取り戻すように舌を絡める。
もっと、もっともっと
堤防が決壊したように求める思いが溢れて止まらない。




「ラスティ」
「今日だけは目に映るもの全部俺のもんだろ。」
「…言ったね。」
「今日だけでいいからもっと、もっとキスして、ギュッてして。そしたらあと364日我慢できるから。」
「何でお前はそう可愛いこと言うかな…。」




ミゲルが苦笑して俺の頭をサラリと撫でる。
その感覚もとても好きだけど、今はもっと強く抱きしめて欲しい。
今日だけでいいから、世界で一番我侭でいさせてよ。




「なぁ、時間なくなるから…早く」
「バーカ、焦んなくても俺は365日お前のもんだよ。」




そう言ってミゲルが力いっぱい俺を抱きしめる。
くしゃりと髪を撫でられて、くすぐったさに思わず身じろぐ。
クスクスと込み上げてくる笑いが堪えきれない。
ミゲルも笑いながら唇を触れては離し、離して触れてを繰り返す。
じゃれ合ってるうちにころりと転がされて、慌てて見上げるとミゲルが悪戯っぽく笑ってる。




「今日は部屋に帰らないって、オロールから聞かなかった?」




こういうところがずるいんだって。
今になって全部計算ずくだったことに気付いても、耳元で囁かれればもう逃げ出すことなんて出来なくて。
むしろそれまでの時間を埋め合わせるように、ミゲルに身を寄せる。




「何でも我侭聞いてやるよ。」




蜂蜜より甘いミゲルの声が耳に真っ直ぐ届く。
心が蕩けて体中に染みて、全身が心臓になったみたいにドキドキ言ってる。
ギュッて抱きしめて
星の数よりたくさんキスして
ほんのちょっとでいいからいつもより長く一緒にいて




「来年は誰よりも先におめでとうって言って。」




満天の星空を背景に、ミゲルがにっこり笑う。
唇に熱いキスを受けながら、ゆっくりとまぶたを閉じた。
金色の星が瞳の奥で瞬いてる。
…きっと、忘れられない日になる。




 

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【反省と言うよりむしろ言い訳】


etoileはフランス語で星です。(正しくはe´toile)
こんなにたくさん光る星がある中で、あなたに出会えた幸せを。
お誕生日おめでとう。




2005.05.31