君はその瞳に何を映すのでしょうか。

 

 

03.black

 

 

だんだん目が慣れてくる。
はっきりしなかった姿が、徐々に闇の中に浮かび上がる。
俺の座ったベッドの中で、光る瞳をくりくり動かして俺を見上げるその顔は、とても、不思議そうに。
そっと手を伸ばしてその髪を掬うと、サラサラと音を立てて手のひらから逃げ出し、枕に沈んでいく。




「どうしたの?」




少し潜めたように囁かれる声は隣で眠るルームメイトを気遣ってのこと。
規則正しいその寝息が聞こえる中、俺はラスティの髪を弄るのをやめない。
少し傾げた首が俺の言葉を促す。
ああ、どうしてそんなに可愛いんだよ、お前は。
思わず零れる笑い。
決心が揺らぎそうになるのはその純粋さがまぶしいから。




「夜這い。」




耳元で囁いた言葉に、身を硬くしたラスティの顔は今きっと首の付け根まで真っ赤なはず。
部屋の暗さで見られないのが酷く残念だ。
サラサラと髪を梳いていた右手をラスティの顔の真横について、深く身を沈めてその髪にキスを落とす。
額に、瞼に、頬に、降るようにいくつも
唇まで降りたらラスティははっと我に返ったようにわたわたして、口をパクパクさせながら隣のベッドを指差す。
『アスランが居るのに何言ってんだよ』ってところか。




「じゃ、アスランが居なかったら良いわけ?」




大きな瞳が限界点まで見開かれて、そのあと右へ左へうようよと彷徨う。
うまい言い訳を必死になって探す時のラスティのクセ。
どうしようどうしようと、声にこそならないが唇がふるふる震える。
わかりやすいなぁ、お前も。
そのまま唇を首に沈めてきつく吸うと赤く花が咲く。
同時にヒクッとラスティが息を詰めて、上がりかけた声を殺すように唇を噛み締めた。
ぎゅっと固く瞳を閉じて、やり過ごそうとしてる。
その姿に思わずクッと笑うと、唇を寄せて鼻を齧った。




「イタッ!」
「冗談だよ。そんな泣きそうな顔するなって。」
「はぁ!?」
「シッ、アスランが起きる。」
「…ミゲル」
「おいで。」




ちょっと機嫌が悪くなったラスティをキスひとつで宥めて、ベッドから立ち上がると手を差し出す。
また視線を泳がせたけれど、ラスティはその手をしっかり掴んで起き上がった。
パジャマ姿のラスティに上着を一枚かけてやると、繋いだ手を握りしめて部屋を出た。








大きなガラス窓のある通路まで出て、近くのドリンクサーバーで暖かいミルクティーを入れる。
ラスティにそれを手渡して、俺もコーヒーを飲む。
壁を蹴って窓に近寄って、手をつくようにして外を眺める。
ここから眺める宇宙が俺は結構好きだった。
そこはひどく静かで、ただ恒星だけがきらきらと光を放っている。




「どうしたんだよ、いきなりあんな夜中に部屋に来るなんて。」
「別に…」




深い意味があったわけじゃない。
でも、昼間の喧騒や戦争のしがらみから切り離されたようなこんな夜の静けさ
ただ眠ってしまうには惜しかった。
明日もこうしていられるかわからない俺たちだから








ラスティがふわっと俺の横までやって来て、同じように外を眺める。
透き通った空の瞳が今はただ宇宙を映す。
今もこの宇宙のどこかで戦争の火種が燻ってるだなんて感じさせない穏やかな闇。
静か過ぎるくらい静かなそらを見つめて、今お前は何を思ってる?




「…どうして静かなままにしておけないんだろうな…」




小さく呟いた声に隣を振り返る。
まっすぐ前を見たままの瞳は涙に曇り、寂しさとやるせなさの色が浮かぶ。
この闇が与える安らぎを守れない憤りに震えて
涙を拭いかけた手を俺は引きとめ、そのまま引き寄せた。
空になった二つのカップが手元を離れ、通路に彷徨う。




「泣くなよ。お前が悪いんじゃない。」
「泣いてなんかいない。」
「意地っ張り。俺の前でだけは素直になれよ。」
「辛いのは俺だけじゃない。」




何も出来なくたって構わない、ただ、人が泣くのだけは嫌だ。
そう言って戦場に向かう背中は好きだけど、嫌いなんだよ。
変なとこで人のことばっか気にして。
必要なところで自分のことを気にもかけない。
お前が、俺の見えないところで泣くのはイヤだって何度言えばわかる?
俺が無事ならお前はどうなっても良いのかよ。




「お前が幸せになっても俺が不幸だよ。」
「何の話だよ。」
「お前が皆を守れたって満足に思っても、お前がいなきゃ俺は不幸だ。」




目を丸くして、俺を見上げるように。
オレンジの髪の間から空色の瞳が輝く。
その手がゆっくり上がり、俺の前髪を引っぱった。




「勝手に殺すなよ。俺は眠ってる暇なんかないんだから。」




強い光を宿したその瞳がとても好きだ。
そうだ、俺たちはこの命ひとつで守りたいものがたくさんある。
守らなけらばならないものがたくさんある。
この暗闇を照らす光になるのは、お前の犠牲じゃなくて、太陽のような笑顔だ。
だから間違えるな。絶対に。




「俺の笑顔はミゲルが守れ。」




強気の瞳がはっきりとそう言い切った。
今度は俺が目を見開く。
ラスティの顔がだんだん紅潮してきているけれど、その瞳に宿した意志の強さは揺らがない。
ああ、結局俺はこいつに敵わない。




「わかった。」




腕の中のラスティをもう一度確かめるように抱きしめる。
俺がいることでコイツが笑えるなら決して側を離れないと誓う。
一筋の光を、道標を、守ることが出来るなら…
両手で持ち上げたその頬をそっと撫でで、優しくキスをした。

 

どうかその光を失わないで・・・




【反省と言うよりむしろ言い訳】


一日一ミゲラスですか、葉月さん。
すごくすごく悩んだんですけど、ちょっとシリアスと見せかけてしっかりラブラブ、みたいな。
私の中でミゲラスはこんな感じです。ミゲル→ラスティみたいな感じで。
ラスティのストレートにもうメロメロなミゲルさんが好きなんです。




2004.02.03