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捕まえたと思えば、霧のようにすり抜けて
木の葉が裏返るようにひらりと心を変える。
この世に足音すら残さない、君。
君に触れる距離
Pipipipi…
無機質な電子音が濃密な空気の中、乾いた音を響かせる。
ほんの僅かな逢瀬の終わり。
髪をかき上げながら、ふーっと最後の煙を吐き出して煙草の火を消した。
シトラスの芳香スプレーを軽く吹き付けて匂いを飛ばす。
ゆっくりと手を伸ばして、膝の辺りで丸まっているシーツをたくし上げる。
オレンジ色のサラサラの髪が手に触れて、滑らかな肌が露わになる。
「ラスティ、起きろよ。時間」
「ん…」
まだ眠たげに瞬きをしながら、ゆっくりと体を起こす。
その肌に沿って流れるように滑り落ちるシーツを眺めながら、手を伸ばして髪をかき上げてやる。
指に止まらずすり抜けて行く髪が名残惜しくて、毛先を指で弄って引っ張る。
ぼんやりした目が俺の顔で焦点を結んで、思い切り眉をしかめた。
「…煙草吸っただろ」
「お前が寝てる時な。」
「やめろっつってんのに…マジ最悪。」
煩わしそうに俺の手を振り払ってベッドから下りると、さっさと着替えだした。
ほんの30分前はあんなに熱く抱き合ってたのに、この変わり様。
時間に支配されてる身としては、面倒がなくて気に入っているところでもあるが
可愛げがない、と言うのも本音だったりする。
「じゃあ。」
「あぁ、…また火曜日」
「っ!やめろよ」
別れ際に次の約束代わりにいつもしてるキス
今日もそのつもりで腰に伸ばした手を、思い切り振り払われて、おまけに突き飛ばされた。
俺たちの間は別にベタベタした付き合いとか、恋人同士とかそんなのじゃないが
それにしたってこの扱いには不満が募る。
「随分じゃない?」
「煙草味のキスなんてお断り。」
「我侭」
「ワンマン」
青い瞳が温度を下げてキッとひと睨み。そのまま足を速めて出て行こうとする。
最中は散々欲しいって強請ったのに、一眠りしたらこの有様。
まるで眠ってる間に別の人間に変わったみたいだ。
「では、ヴェステンフルス先輩、ご指導ありがとうございました。」
踵を返し深々と頭を下げてパッと上げたその顔は、もう別隊のザフトレッドのそれだった。
背筋を伸ばしてきびきびと部屋を出て行く仕種も隙がない。
襟を正し、清廉な瞳をし、人当たりが良いと評判の好青年。
普段なら別隊だしほとんど関わり合いもないようなアイツは、ラスティ・マッケンジー
俺のセフレ、とでも言おうか。
少なくともアイツはそのつもりで、この部屋にやって来る。
30分から1時間。時間を見つけて週に2・3度。
そんな時間が続いてもう一ヶ月になるのだろうか。
初めてアイツをこの部屋に入れたのは、ちょうどひと月前の雨の夜。
その時は誰か、すぐにわからなかった。
話したこともない、ただたまに見たことはあると言うだけの関係。
けれどその明るい瞳と髪の色は印象的だったことは確かで。
その時の姿が「普段」と違うことだけは理解できた。
「…お前、確かクルーゼ隊だったな?名前は?」
「………」
「こんなところで何してるんだ。もう消灯間近だぞ。」
「………」
…俺はそれほど情に厚い方ではないと思う。
ただあの時、着崩した軍服にびしょ濡れのまま、虚ろな瞳で座り込んだその姿を、どうしても放っておけなかった。
手を引けば引かれるままに歩いた。抱え込まなければ壁にぶつかるだけぶつかる。
その中には何もなかった。
今にも壊れそうなアイツを「ここ」に留めておくのに、思わずベッドに引っ張り込んだ。
何があったかなんて知らない、聞くつもりもなかった。
…壊したくなかった。
「ハイネ、最近変わったわね。」
ピアスをつけながら、意外そうな声でリナがそう言った。
同期で別隊に配属された仲間。
友人でもあり、ドライながらそれなりの関係でもある。
「ふぅん、どこが?」
「一言じゃ言えないけど、優しくなったのかしら。」
「心外だねぇ。今までだって優しいつもりだったけど。」
「わざとらしい。表面的なことを言ってるんじゃないのよ。あぁそれと、」
「何?」
「情熱的になったかも。」
「…かもな。」
「何か心境の変化?」
「捕まえときたい猫がいるんでね。」
微笑み、じゃああたしはお役御免ねと明るく出て行く。
一癖も二癖もある、屈折した部分も持ってる彼女だが、こうして見れば安定していると思う。
滲み出る明るさに隠された影はない。
闇は、ない。
カチリ、音がして扉がスッと開く。
燃えるような青を湛えた瞳が顔を覗かせる。
部屋の陰に滑り込むように入ったラスティの後ろで扉が閉まる。
闇が見える。
深く、重い闇が。
この瞳はガラス一枚隔てた奥に、燃え盛る炎を宿している。
誰も気付かない。
…気付くはずはない。
なら、俺が、気付く意味は何だ?
「…誰か?」
リナの残り香を嗅ぎ取ったのだろうか。
遠慮がちに踏み止まる足。戻りそうになる。
頬に手を伸ばせば弾かれたように顔を背け、ギュッと自分の腕で体を抱く。
こんなにも弱い。こんなにもバランスが悪い。
「さわんなよ。」
「おや、そのつもりで来たんじゃないの?」
「…他に、知らないからしょうがなくだよ。」
そう言って見上げてくる瞳はこの上ない不安に満ちて
抱きしめて、口付ければ俺の腕に手を伸ばして縋る。
子どものように抱きしめてくれる相手が欲しいのだと
愛してくれる存在が欲しいのだと、決して言わないラスティ。
「何が欲しい?」
「…別に何も。あんま触んなって、言ってるだろ」
「素直じゃないねぇ」
ピースが嵌りそうな気がする。
俺の欠けた部分と、こいつの欠けた部分。
埋めて欲しい部分と与えたい部分が。
「俺が必要なんだろ?」
「違う。」
そう、言葉なんて飾りでも構わない。
本当のことを知らないなら知らないままでもいい。
例えどんな手を使おうと、どんな駆け引きをしてでも
「来いよ。」
今は、この手を離さない。
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【反省と言うよりむしろ言い訳】
ラスティにも心の闇があって、ハイネがそれに溺れながら手を差し伸べてくれると良い。
別隊で接点もないとか、ハイネとラスティが何で同じ宿舎で会えんのとか、また妙な女の子キャラ出てるよとか
色んな問題を全部無視して(笑)、書きたいように書いちゃいました!
2007.03.25(04.03 加筆訂正)
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