心が落ち着かないとき、迷うとき、悩むとき


青い空と海を眺めるだけで、心に光が差す気がした


 

 

蒼の温度差

 

 

波が岩に当たって砕ける音が、遠くから微かに聞こえる。
開発中の新型のテストという名目で数日の出張を命じられてきたが、来てみれば最終チェックだ何だと、まだテストできる状態になるまでに時間が掛かるという。
多少は手伝うも出来ることなんて高が知れていて、思いがけず休暇のような形になってしまった。
そうして今日も、海にぽっかり浮かんだ艦の上で、空を仰いで寝転がってる。


艦の中にいて、仕事をしていたり食事をしたり訓練をしたりクルーと時間を過ごしている時は、人が多いところが好きだし仲間とつるむのも好きだ。
けれどただ時間を過ごす時は、こうして一人でいたいと思う。
ギリギリと命を削る今の時勢の中で、少しでも自分が人としてココに生きている実感を持ちたい。
この先、いったいどれくらい持てるかわからないこんな時間だから。
誰のためでもなく、自分のために使う。
風が涼しく吹き抜けていく。
湿り気を含む空気を深く吸い込んで、目を閉じた。








「ここだったんですね、先輩。」




穏やかな波を生む風に乗って、柔らかな声が耳に届く。
誰かなんて見なくてもわかる。
薄く目を開ければ、俺を覗き込むオレンジに縁取られた笑顔。


別の隊からもテストメンバーとして何人か同行した中に、この顔を見つけた時は多少なりとも驚いたものだった。
スクール時代の成績は中の上。
何かに突出してるわけでもないコイツが選ばれるなんてかなり不思議だった。
本人曰く、「人当たりが一番良い」からだそうだが。


俺を見下ろしながら、ニコニコ笑って手を差し伸べるラスティ。
わざとらしく先輩だなんて呼んでみせる、そんな他人行儀な姿が憎らしい。
それでも俺は何でもない様子で、差し伸べられた手を受け体を起こした。




「テスト、そろそろ行けそうだって言ってました。」
「そ。悪いね、探させたか?」
「いいえ。」




穏やかに笑う後輩は、常々幼いと思っていたけれど、こんな時ふと大人の表情をのぞかせる。
目を細めて海風をいっぱいに吸い込み、空に高く解放して俺の隣に腰掛ける。
太陽よりも赤く情熱的な髪が、揺れる。




「先輩は静かで空気の良いところが好きですよね。」
「そぉお?」
「そうですよ。だからすぐにわかる。」
「ふぅん。」
「どこにいたって、俺はあなたの居場所がわかるよ、先輩。」




透きとおった青い瞳を柔らく撓めて、ラスティがクシュッと嬉しそうに微笑んだ。
あぁ、暖かなその瞳は、遙か沖の海の色だ。
空と混ざり合う海の、透明で暖かで、美しい青。




「俺お前の目の色、好きだな。」




唐突にそう口に出していた俺に、ラスティが一瞬驚いたような顔をして、またすぐに表情を崩した。




「ふふ、目ね。」
「何?」
「いいえ。俺も先輩の目の色、好きですよ。海みたいで。」
「海ぃ?お前ちゃんと俺の目の色見えてんの?」




ラスティの言葉に俺は盛大に眉をしかめて見せた。
軍の女にエメラルド色だの深い森の色だのと言われたことはあるが、海の色だなんて言われたことはない。
そもそも海の色ってのは青だろ?
俺のは誰がどう見たって緑だ。海の色というには程遠い。
けれどラスティの表情はからかう様子でもなく、薄く微笑みを湛えたまま口を開いた。




「南の海の色。」
「あ?」
「地球の南の海は、そんな碧なんだって。フィルムでしか見たことないけど、とてもあったかい色をしてるんだ。」




いつか行ってみたいとそう言いながら、ラスティが海に目を向けた。
俺の手を取って悪戯っぽく指を絡めてくる。
その柔らかな頬に引き寄せて、冷えた俺の手にぬくもりを分けるように摺り寄せる。
時々こうしてじゃれてくるラスティは、子どものように無邪気で、猫のように甘えたがり。
けれど不思議と俺はコイツのことが嫌いじゃなかった。
一人でいたいはずの時間なのに、ラスティが側にいることは気にならない。
いや、むしろ…?




「いつか連れてってやるよ。」
「ホント?」
「俺は静かで空気の良いところが好きだからな。」




笑いながらそう言うと、立ち上がってラスティを引っ張り上げる。
軽々と立ち上がりながら、ラスティがそれでも俺の手を離さない。




「何?」
「…ここも、好き?」




かち合った瞳は微かに濡れたような艶めきを滲ませてる。
不意に上がる鼓動は、温度の上がったその色に魅せられてる。
伸ばした指でなぞったその唇が、薄く開いて俺を誘う。




「そんなことも言われなきゃわからない頭か?」
「呼ばれてるのに、いいのかなぁってちょっと思って。」
「まだ今の時間は俺のものだ。」




ギリギリと命を削る今の時勢の中で、少しでも自分が人としてココに生きている実感を持ちたい。
この先、いったいどれくらい持てるかわからないこんな時間だから




「自分の時間をどう使おうと、俺の勝手じゃん?」




誰のためでもなく、自分のために使う。
今はこの青に魅せられたままでいたい。
空が吸い込まれた海の青を、ただ俺だけの方に向けて




「そういうハイネ、大好き。」




やっと素直になった唇から熱を分け合った。




 

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【反省と言うよりむしろ言い訳】


ハイネとラスティって、パラレル以外で絡ませんの難しい(笑)。
皆に内緒で付き合ってたりしたら良いなと。




2006.04.01(2007.04.03 再録)