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好きになることって喜びだけど
痛みも苦しみも伴うもので
時々それしか見えなくなってしまうことがある
そんな僕らの胸の内
「バネちゃーん!いるー?」
「?なんだよまたか?」
幼馴染のバネちゃんち。
いつものように勝手に家におじゃまして
階段の途中から声をかけたらバネちゃんが部屋から顔を出した。
顔をしかめたままのあたしに、困ったように笑う。
しょうがねーなって言いながらもあたしにクッションを勧めてくれた。
ついでにポケットからどんぐり飴をひとつ出して、あたしの手のひらに乗せる。
「ありがとーバネちゃん。」
「で?何なんだよ?今日はどうしたわけ。」
「携帯電話から逃げ出してみたくなって。」
「はぁ?」
「秘技☆携帯不携帯!」
「つまんねぇこと言ってんなよ。」
「じゃあ妙技☆携帯不携帯でいい」
「そういう問題じゃないって。」
バネちゃんがはあぁぁとため息をついた。
部活でもう突っ込み疲れたみたい。
でもね、携帯をずっと気にしているのってホント疲れるんだよ。
来る、ってわかってる電話やメール。でもいつ来るかわからない電話やメール。
部屋で一人で待ってると、何をしてても気にかかって集中しきれない。
相手が電話に出ないと不安になるし、メールの返事が遅いと不安になる。
家に忘れたまま学校に行った日は、連絡入ってたらどうしようって思って一日中落ち着かない。
「携帯に振り回されてる自分がイヤになったわけさ。」
「何時に電話よこせって約束しとけよ。」
「だってなぁ…」
「部活のこと気にしてんのか?8時にはサエだって家にいると思うぜ?それ以降なら別に構わないって。」
「そうかなぁ…」
「…そんなに考え込むなよ。お前の悪い癖。電話催促の一つや二つでサエが離れてったりなんかしないから。」
「ううー」
思わずクッションを抱えてじたばたする。
小さい頃からずっと一緒なだけあって、バネちゃんはあたしの悩みなんてお見通しだ。
ぐちゃぐちゃ悩んでるあたしが気づかないこと、見えてないこと、最短距離で教えてくれる。
バネちゃんにさらっと言われるといつだってラクになれる。
でもね、今日のはちょっと違うの。
「ねーバネちゃん。あたしサエと付き合い始めてから変わった?」
「何だよいきなり。」
「何かねー、サエと付き合う前はもっと純粋にサエのこと好きだったはずなのにね、今は好きすぎて怖いんだよ。」
「何が怖いんだよ?」
「サエがあたしの生活の中心になってく気がして怖い。あたし携帯ばっかり気にしてるし、体育の時間とかサエばっかり見てるし、サエ優しいからいつだって人気者で皆に好かれてて、そのうち誰かがさらって行っちゃうんじゃないかって思うと眠れないし、いや寝てるけどね?熟睡できてないんだよきっと。だって授業中とかすごい眠いし。でも寝てるとあとでサエに寝てたでしょって言われるの。顔に跡ついてるよって。」
そこまで言ったらバネちゃんが爆笑した。
ひどい、あたし真剣なのに。
繊細なちゃんはブロークンハートなんですけど。
っていうか一体いつまで笑ってるんですか。
ダビちゃんのダジャレには氷点下の突っ込みするくせに、ホント笑い上戸なんだから。
ダビちゃんがぐれちゃうよ。
ダビちゃんが髪おっ立てて茶髪にしたりなんかしたらバネちゃんのせいなんだから。
「いいじゃん、別に。そんだけ好かれてて悪い気するヤツなんていないと思うぜ。」
「涙目で言われても説得力ないのバネちゃん。」
「悪ぃ。でも本気で言ってるって。」
わかってるよ。いつだってバネちゃんは本気だからね。
嘘なんか言えないって知ってるよ。
あたしのこともサエのこともいっぱいいっぱい知っていて、いっぱいいっぱい心配してくれてることも。
だからあたしはバネちゃんにこうして相談してるんだから。
「あのねバネちゃん。あたしホントは自分が無くなって行きそうで怖いんだ。」
今までは色々迷いながらだけど自分の足で歩いてきた気がするのに、サエと付き合いだしてから、あたしの人生はサエなしでは成立しないような気がして仕方がない。
びっくりするぐらい自分が嫉妬深くて、独占欲が強いことを知った。
口に出さないだけで、ホントはサエが知らない子と楽しそうに話してるだけで気分が悪くてイライラしてるんだ。
そんな弱い自分がすごく嫌ですごく怖い。
でもさ、サエってめちゃくちゃ勘がいいから、こんなあたしに気づいてるかもしれないんだよね。
ねぇバネちゃん、もしサエにウザイから別れようって言われたらどうしよう?
あたし、生きていけると思う?
…と、そこまで言ったらバネちゃんにチョップされた。
「痛い。何すんのよバネちゃん。」
「言われてもいないことで悩むな、バカ。時間の無駄だ。」
「バカって…!だって言われてから悩んだら遅いんだよ〜!」
「何かあったんだろ、今日。」
「え?」
「何見たんだよ。サエが誰かと一緒にいたんじゃないのか。」
「……」
「違うのか?」
「……バネちゃんは鋭すぎてときどき嫌になるよ。」
「何年お前と幼馴染やってると思ってんだよ。ホラ、話せ。」
「……サエが今日、隣のクラスのまどかちゃんと帰ってた。」
帰り際、部活あるから先に帰ってって言われて、待ってるって言ったのに今日はだめとか言われて。
ごめんね、夜電話するからって言ったサエは、なんだかあたしを拒んでいる気がした。
つまんなくて、すぐに家に帰る気なんて起きなくて。
ずっと音楽室で先生とだべってたら、窓から二人が歩いてくのが見えた。
女テニのアイドルのまどかちゃん。
すっごく可愛いの。細いし、ちっちゃいし。でもちゃんと胸とかボーンってあるの。
髪とかサラサラでシャンプーのCMに出られそう。
うちのクラスでもまどかちゃんのファンだって子、いっぱいいる。
すごく可愛い子なんだ。
「なんかね、美男美女で凹んだ。」
「問題はそこか?」
「ううん、サエがまどかちゃんと帰ってたこともだけど。部活なんかなかったんでしょ?」
「ああ、まあな。自主練だけ。」
「バネちゃんはちゃんと自主練やってきたんだもんね。エライね。ねぇバネちゃん、あたしが一人モンになってもバネちゃんだけは側にいてね。」
「バカなこと言ってないで電話してみろよ。」
「それが出来たら秘技なんて使いません。」
「しょうがねぇなぁ…」
ため息をついたバネちゃんがあたしの頭を引き寄せてワシワシ撫でた。
ちっちゃい頃から変わらない、あたしを宥める時のバネちゃんの仕種。
不覚にも涙が滲んできそうだった。
ごめんねバネちゃん。いつもここに逃げてばっかりの弱いあたしで。
怖かったんだよ、サエからの電話が別れの電話だったらどうしようって。
一人でいるとそればっかり考えて怖かったんだよ。
ふと隣のバネちゃんを見上げると、携帯をカチカチやっていた。
…何してるの?メール?
「あーもしもしサエ?俺、バネだけど、ちょっと小熊預かってるから取りに来てくんね?」
な ん で す と ?
「そう、俺んち。ちゃんとお前の口から説明してくれよ。じゃあな。」
「ババババネちゃん!」
「今からサエが来るぜ。どんくらい早く来るか楽しみだな、」
「バネちゃん!何で!?やだよやだよ!」
サエに会いたくなんてないよ。
電話だって嫌だったのに会ったら絶対泣いちゃうよ。
って今ももう泣いてるけど!!
バネちゃんの袖を引っ張ってワンワン泣きながら抗議したら、でこピンを食らった。
「うアイタッ!」
「いつまでもぐるぐる回ってんな。いっそ張り倒してスッキリして来いよ。」
「へ?」
「振られたらまたここに帰って来い。泣くならそれからにしとけ。」
「バネちゃん…」
ピンポーン
ピンポーン
「はっえー。ほら行ってこい!」
「…うん!」
バネちゃんに背中を押されて、あたしは階段を駆け下りた。
玄関を開けると、サエが立っていた。
ちょっと目の赤いあたしを見て驚いたような顔をした。
そのままサエを押して玄関を出ると、扉を閉めた。
バネちゃんちの前でサエと話すのもどうかと思って、うちのほうに足を向けたあたしの腕を、サエが掴んだ。
「…泣いてたの?。」
「…ちょっとね。何でもないよ。」
「何でもなくないよ。」
そう言ったサエが掴んだ腕を引っ張って、あたしを思いっきり引き寄せた。
半分サエに倒れ込むような形で抱きしめられた。
その腕は痛いくらい強くて、苦しかった。
切ないくらいに嬉しくて、バネちゃんに押し出してもらった勇気が消えそうになる。
「なんでは俺に何にも話してくれないかな。」
「え?」
「悩んでる時とか、絶対俺には話してくれないよね。」
「だってサエに言えないことばっかりだから…!」
「言ってみてよ。」
「言ったらあたしのことなんて嫌いになるよ…って今更か。別れ話ならいいよ、もうわかってるから。」
「何でそうなってるの…?」
「隠さなくていいよ。あたし知ってるから、今日まどかちゃんと一緒だったって。」
「え?あぁ…!それで?」
突然サエが頭の上で笑い声を上げた。
え?何?あたし笑われるようなこと何にも言ってないよ。
顔を上げてサエを見ようと思ったら、ぎゅうってまた腕に力が増した。
「ありがとう、。」
「待って、すんなり別れる気はないよ。一発殴らせてね。」
「あはは、ありがとうの意味が違うよ。…ヤキモチ妬いてくれてありがとう。」
「へ?」
「はヤキモチなんて妬いてくれないんだと思ってた。良かった。」
「自己完結しないで、サエ。ワケがわからない。」
「俺ものことすごく好きだよ。」
一人で話をまとめて納得しないでよ。
あたしは自分の置かれてる立場がさっぱりわからないの。
何でサエってこうなんだろう、通訳がほしいよ。
ああもう泣いてやる。
「泣かないでよ。」
「あたしに嘘ついてまどかちゃんと帰ったり、あたしのことが好きだって言ったりワケわかんないよサエのバカ。」
「嘘をついたのはごめん。でもまどかちゃんとはなんでもないから。」
「何でもないのにどうして嘘つく必要があるのよぅ。」
「まどかちゃんに頼まれたんだ。あのね、まどかちゃん、バネのことが好きなんだって。」
「えっ!?まどかちゃんが!?」
「そう、それで俺と話したいって。バネとがすごく仲が良いから不安だったらしいよ。ただの幼馴染だってわかってても。」
「そうだったの?」
「佐伯くんは違うの?って聞かれた。」
「サエは違うでしょ?」
「違わないよ。」
予想外の返事に驚いてサエを見上げた。
サエはちょっとバツの悪そうな顔をしてる。
本気で?
サエがあたしとバネちゃんが仲がいいのを気にしてた?
そんなこと知らなかった。
「だってはいつだってバネちゃんバネちゃんで、バネはバネでがちょっと体調が悪かったり、何か悩んでたり、隠し事してたりする時のクセ、全部知ってるから、俺の出る幕がないなってちょっと思ってた。」
「全然知らなかった。」
「寂しいからさ…もっと俺のこと頼ってよ。」
俺だって不安になるよって、サエらしくない、掠れるような声が耳元に届いた。
こんなサエは見たことがなくて、驚いた。
止まったはずの涙が、せりあがって来る。
「だってサエにわがままとか言ったら嫌われちゃうと思ってたんだもん…。」
「嫌いになんかならないよ。むしろ大歓迎。のわがままなんて聞いたことないよ、俺。」
「すっごいよ。」
「すっごいの?聞かせて。」
「他の子とあんまり仲良くしないでとか言っていい…?」
「うん、しない。」
「電話してね?」
「してもいいなら毎晩でも。」
「あたしすごく嫉妬深いんだけど後悔しない?」
「しないよ。」
「サエのこと独り占めしたいって思っててもいい?」
「いいよ。その代わり、俺にも独り占めさせてよ。」
そう言って笑ったサエが、あたしの涙を唇で掬って。
そのままあたしの唇に、小さくキスをした。
わしゃわしゃって頭を撫でて、またぎゅって抱きしめてくれる。
不思議だね、今やっとサエと向き合った気がする。
ドキドキして仕方がないよ。
ほら、あたしもサエも、顔が緩むのが止められない。
「何ニヤニヤしてんの、。」
「サエこそ。」
「だって嬉しいからさ。あーなんか嬉しすぎてどうしていいかわかんないよ。」
「あたしもなんか嬉しい。」
「あはは。」
「えへへへへ。」
こんなに照れくさいのも初めてだよ。
二人で顔を見合わせたまま照れ笑いをして、またどちらともなくキスをする。
壊れ物を扱うように、優しく。
キスしたあとに顔を見合わせて、やっぱりまた笑っちゃった。
「とりあえずバネが知らないのこと、いっぱい見つけていくつもりだから、覚悟してて。」
「よろしくお願いします。」
…end
【反省と言うよりむしろ言い訳】
バネ夢…?
バネさん出張り過ぎですかね。
最近バネさん好きなんだもん!バネさんスキー!
こんな幼馴染ほしいです。
書いてる途中でタイトルが三回くらい変わったので、内容も三転ぐらいしてるかと(苦笑)。
最後まで読んでくださってありがとうございましたvv
2004.01.15
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