|
バレンタインデーと同じくらい、ホワイトデーも大事なイベントだってわかってる?
好き好き・たい焼き・板ばさみ
「ねぇ」 「やだっ!」 「先輩、待ってよ。」 「待ちません!!」 ずんずんずん 勇んで歩くあたしの足音は例えて言うならそんな感じ。 可愛くない?ええ結構。構っちゃいられないそんなこと。 「追いかけてなんて来ないでよ。あたし家に帰るんだから!」 「なら送るっスよ。」 「いりません。一人で帰れます。」 「先輩…怒ってんの?」 「怒ってなんかいません。別にいつもと同じです。」 「嘘ばっかり。」 「嘘なんかついてません。閻魔さまに舌を抜かれるのはごめんです。」 「怒ってないなら、なんでそんな早足で歩いてんの?」 「早足はダイエット効果があるからです。」 「追いかけるの大変だから、ちょっとダイエット中止してくれないっスか。」 「そんなこと頼んでません。それより戻ってあの子たちと話してきたらどうですか。」 「…ヤキモチ?」 「違っ…!」 「違うの?」 ここで違うといったら嘘になって閻魔さまに舌を抜かれてしまう…! 動揺した足が思わずスピードを緩めてしまい、後ろから追いついたリョーマくんがあたしの手を引っ張る。 あたしの体はクルリと反転、向き合う体勢で立ち止まる。 呼吸も落ち着かないあたしの前で、リョーマくんは涼しい顔をしてあたしの様子を見てる。 この余裕綽々とした表情に腹が立つ。 どうせあたしは体力ないですよーだ。 もうトシですよ。若いあなたなんかには敵いませんよ。 ああ悔しい。涙が出てきそうなのがもっと悔しい。 「笑え。」 「は?」 「笑えばいいじゃん。そうですよ、ヤキモチ妬きましたよ。可愛い一年生の女の子たちにヤキモチ妬いて拗ねて逃げました!」 「先輩」 「だいたいリョーマくんがわざわざコンビニに寄ってまで飴玉買ってあげたりするからいけないの!お礼をするのは構わないけどあたしの見えないトコでしてよ!しかも飴玉って本命にあげるものだって…っくぅ〜!!」 「それを気にしてたんスか。」 「そうよ悪かったわね子供で。あーもう言わせないでよリョーマくんのバカ…」 やだもう超カッコ悪い。 あたし、もっとサラリとした大人のお姉さんのはずなのに。 ことリョーマくんに関することとなると、全てに対して冷静でいられなくなる。 年下の子相手になんでこんなに振り回されてるのよ。 ん?リョーマくん、なんで震えてるんですか? 「プッ…あはははは!」 「えっ!?ひどい笑った!!」 「だっておっかし…それに先輩、笑えっつったじゃん。」 「そっ…それは社交辞令みたいなもんでしょ!ホントに笑うなんて信じらんない!」 「竜崎と小坂田は、よく練習見に来てたから覚えてただけだし。」 「いいもん。気にしてないもん。」 「ちゃんと聞いてよ。先輩。」 「あたしには何にもなくても気にしてないもん。」 「あーホラ、こっち来て。」 ムリヤリ引っ張られて連れて行かれた先は、近くの児童公園。 リョーマくんはベンチにあたしを座らせると、走ってどこかに行ってしまった。 …ほったらかしかよ。一応あたしあなたの彼女なんですけど。 ……まさかホントにあの子たちのとこに戻ったりしてないよね…!? いつも全然好きだとかそういうこと言ってくれないリョーマくんだけど、今日くらいは何か言ってくれるかなーなんて… はーぁ…デートに誘われたからって期待したあたしがバカだったのか 「溜息つくと幸せ逃げるよ。」 「わぁ!リョーマくん!!いつの間に戻ってきてたの!?」 「今。ハイ、どーぞ。」 「え?何?」 目の前に差し出された真っ白い小さな紙袋。 わけもわからないまま、とりあえず受け取ると、指先からじんわり熱が伝わった。 温かい…何? 軽く閉じられた袋の口を開くと、懐かしい甘い香り。 「たい焼き、好きッスよね?」 「うん。これ…買いに行ってたの?」 「先輩にまだバレンタインのお礼してなかったし。」 「ありがと…」 だらしなく緩んでくる口元を袋で隠しながら、たい焼きを引っ張り出す。 あたしがひとくち頬張ったのを見て、リョーマくんは少し表情を緩めて隣に座った。 熱い餡子が舌に触れて、痺れる。 抑えきれない感情に、堪らず頬が緩んだ。 「えへへ、美味しい。」 「少しは機嫌、直ったみたいッスね。」 「うん。飴玉じゃなくても嬉しい。こんなの初めてだし。」 「先輩、あのさ」 「いいの、毎日鉄板に焼かれてるこの子に比べたら、あたしの悩みなんてたいしたことなかった。」 「何それ。」 「知らないの?タイヤキくんの歌っていうサラリーマン泣かせの歌。」 「知らないよ。」 「そうなの?今度聞いてみて。けっこう泣かせるの。特に最後のところでタイヤキくんがね、漁師に」 「先輩、わかったから、ちょっと俺の話聞いて。」 「あ、ハイ、ごめんなさい。」 うっかり余計なことを話し出すのはあたしの悪い癖だ。 気分屋でおしゃべり。泣いたカラスがもう笑ったとはまさにあたしのこと。 ふっと息をついて、リョーマくんの顔を仰ぎ見る。 いつも以上に憮然とした顔に、わずかに赤みが差す。 「先輩は、飴をあげたことにこだわってるみたいだけど、俺は世間の噂よりジンクスより自分の気持ちの方を信じてるから。」 「へ?」 「先輩も、俺の気持ちのほうを気にしてくんないかな。」 「えっっ!あの、それは、どういう…ことでしょうか。」 「わかってるくせに、聞きたいの?」 「聞きたいです。だって今日は」 「ホワイトデーだから?」 「そうだよ。『お返し』じゃなくて、『リョーマくんの気持ち』が知りたい。」 「好きだ。」 少しの間髪も入れず、よく通る声ではっきりと。 あたしの目を見つめたままリョーマくんが言い切った。 一瞬の出来事にただただ目を丸くするばかりだったのだけど、後からじわじわ実感がわいてきて心を支配する。 『スキ』が膨らんで、胸にしまいきれないくらいのドキドキが泉のように湧き出してくる。 リョーマくんの一言が絶大な威力を持ってあたしの心を叩いた。 「好きだよ、。」 初めて呼び捨てで呼ばれたあたしの名前が、異国の響きのように耳に心地良く、ゆるゆると沁みてくる。 さっきよりうんと甘く感じるたい焼きを挟んで、小さくキスを交わした。 Happy sweet Whiteday! 全ての恋人たちが幸せでありますように
…end 【反省と言うよりむしろ言い訳】 一番最後でいいと思っていたドリが一番最初に上がるなんて予想外です。 えへへ?(笑ってごまかしてみる) リョーマは難しくて難しくて、もっと勉強したいと思いますた。 たい焼き美味しいですよね。私は頭から食べる派です。
2004.03.14
|