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同じクラスの男の子。
ずっと見つめてきた男の子。
席が私の後ろになってから一気に恋のボルテージは最高潮。
ずっとずっと秘めてきた想いを、恋のコトバに変えましょう。
スキトキメキトキス
マラカイトグリーン、パールピンク、カナリアイエロー、アクアブルー
色とりどりのリボンを取り出して
ラッピングの本を眺めては結んだりほどいたり。
何色が似合う?何色が好きかな?
忍足の顔を思い浮かべてうんうん唸る。
机の上、さっき焼きあがったばかりのクッキー。
ちょっとコゲたのはご愛敬。ココアクッキーだし、そんなにわかんないよね?
だって料理なんて片手で数えるくらいしかやったことない。
ホントはカッコよくケーキとか作ってみたかったけど、あたしの腕じゃクッキーでもいっぱいいっぱい。
何度ママを泣かせたことか。
でもやっぱり手作りが良かったから、一週間前から必死になって練習してやっと形になるようになった。
ベタでもいい、どうしても手作りのクッキーを忍足に渡したかった。
作ってる間中、ずっとずっと忍足のこと想ってたんだよ?って
口下手なあたしの代わりにこの想いを伝えるコトバになってくれる、
そんな気がしたから。
あさってはバレンタインデー
今年は土曜日になっちゃったから、みんな明日の金曜に勝負をかけて今夜は一生懸命なはず。
お菓子屋さんの戦略に乗ってバカみたいって笑う人もいるけど、あたしは別にいいと思う。
だってチョコレートっていうアイテムを武器に、男の子にここぞとばかりにアプローチできる日なんだから。
好きだけど、どうしてもあと一歩、友達から踏み出す勇気がないあたしにはとびっきりのチャンス。
神様がくれたチャンスなんだ。
焼きあがったクッキーの中から、とりわけ形のいいのを選んで
リボンは忍足に似合いそうなカナリアイエローに決めた。
本と首っ引きでクッキーの袋を可愛くラッピング。
そうそう、仲良しのジロちゃんにも。
食べながらでもすぐ居眠りしちゃうジロちゃんだから、クッキーの他に歯ブラシと歯磨き粉のセットも用意。
こちらはパールピンクのリボンで結ぶ。
明日は出来るだけ可愛い自分で忍足の目に映りたいから。
十人並みの顔は変わらないけどせめて身だしなみくらいはきれいに整えたいよね。
いつもはママ任せのアイロン掛けも自分でいそいそと準備して
ハンカチもブラウスもピシッとプレス。
プレゼントをカバンにしまって、あたしはベッドにもぐりこんだ。
ああどうか、明日上手く渡せますように…!!
…とは言ったものの、面と向かって渡すのって恥ずかしいよなぁ…
トコトン意気地のないあたしは、かれこれ10分ほど忍足の下駄箱とにらめっこ。
正面から見てたらバレバレだから、自分の下駄箱前から横目でじろじろと。
登校してくる子たちは明らかに訝しげな目を向けている。
よし!よし!決めた!!下駄箱さんあなたに頼むわ!!
決心して忍足の下駄箱に一歩足を踏み出したときだった。
「やん、おはようさん。」
「おおっと忍足!?おはよう!!今日もいい天気ね!この分だと明日あたり花粉が飛び始めそうね!!」
後ろから忍足に声をかけられるなんて計算外だ。
あと一秒遅かったらきっとアウトだった。
あまりにも焦ったからまともな返事が出来なくて、今朝のニュースキャスターよろしく天気の話なんかふってしまった。
…忍足がぽかーんってしてる…。
「ぶっ…はは!自分オモロイなぁ。せやなー、東京やともうそろそろやんなぁ。は花粉症なん?」
「え?ううん、そうじゃないけどうちのお母さんがね。」
「俺は姉ちゃんが花粉症なんよ。あれは辛いよなぁ、見てるこっちまでしんどくなるわ。」
あ、忍足ってお姉さんがいるんだぁ
これは新情報。きっと美人さんなんだろうなぁ。
って言うかこのままだと一緒に教室まで行こう、なノリだよね。
どうしよう、朝からこんなにラッキーでいいのかな。
ドサドサッ!!
忍足が下駄箱を開けた途端、雪崩のようにチョコレートが落ちて足元に散らばった。
リンツやゴディバといった有名どころから、明らかに手作りと思われるものまで様々。
その数ざっと十数個。
って言うかそんなに下駄箱って許容量は広いのですか。
…下駄箱の奥の深さを知りました。
「下駄箱ってミラクル。」
「何ゆーてんねん。あーあ、こんなになってもうて。」
「あ、拾うの手伝うよ。すごいね忍足、モッテモテ。昔の少女漫画みたい。下駄箱からチョコレートが降ってくるなんて。」
「少女漫画は手紙やろ。つーか下駄箱に食べもん突っ込むっちゅー感覚、俺にはわからへんわ。」
あたしが拾ったチョコを受け取って、おおきにーなんて笑って見せたがあたしは笑えなかった。
だってあたしも危うく下駄箱信者になるところでしたから。
紙一重で忍足にひかれる所だった。…セーフ。
「?どないしたん、何か俺変なことゆーたか?」
「ううん!そうよね!下駄箱に食べ物はちょっと頂けないよね!」
「やろ?ちょお気ぃ引けてしまうんよ。良かったわー。そう思ってんの俺だけやなかったんやな!」
隣りの忍足はもう嬉しそうに満面の笑顔。
下駄箱さんに神頼みしたことなんて神棚に上げてあたしもにっこり。
あたしたち同志だね、なんて言って笑ったら、せや、同志やー!ってあたしの手を取ってぶんぶん振った。
これぞ下駄箱の功名。ありがとう下駄箱さん。あたしこの手洗わない…!
どうぞ詐欺師と呼んでちょうだい。
この笑顔を教室までずっと隣で見ていられるなら、地獄の沙汰も怖くないわ!!
「そう言えば、テニス部で一番チョコレート貰うのってやっぱり跡部?」
「うーん、微妙やな。俺と跡部でトントンくらいってとこか。」
「お返しが大変だね。」
「ホンマや。嬉しいは嬉しいんやけどなぁ。」
「忍足ケチ臭そうだもんね。関西人だし。」
「ケチ言うな。倹約って言うんや。」
「むし歯になるのと鼻血が出るのとどっちが先?」
「…そないなこと聞かれても…。」
くだらない話をしながら階段を上がって、もうすぐ教室に着く。
でもあたしは鞄の中のクッキーを取り出せないでいる。
どうして一番肝心なこと話せないんだろう。
何度でも言う機会はあったのに。
思わず溜息。
「そう言えばも、誰かにチョコレート用意して来てるん?」
「えっ!?」
いきなり核心を突かれてドキッとする。
こここっこれはチャンスなの?ピンチなの!?
どう答えるべきなの!?
忍足にって言うべき?言うべき??
「用意、してきてるよ…あの…ジロちゃんに!」
「そうなん?きっと喜ぶで、アイツ甘いの大好きやから。」
「そう…かな?あはははは…」
あたしの大馬鹿。
なんで忍足にって言えないのよ。
…意気地なし。
「あ、侑士じゃん、おっはよー!」
「忍足、チョコレート持ってきたよ!」
教室に入ると、待ち構えていたように女の子たちがバラバラと寄ってくる。
あたしは忍足の隣を離れてさっさと席に着いた。
忍足も遅れてあたしの後ろの席に着く。
女の子はあとからあとからやって来て、可愛くラッピングされたプレゼントを手渡しては忍足とおしゃべり。
ただ一言、これ食べてねって言って渡す。
すごく簡単なように見えるのに、あたしはそんなことすら出来ない。
ああ、何か一気に凹んできた。
この席だと、忍足と女の子たちの話し声が嫌でも耳に入る。
楽しそうにはしゃぐ女の子たちの声。
バレンタインだからひどくテンション上がってるっぽい。
忍足に貰ってもらえて嬉しそうに。
あたしは言えなかった分、羨ましくて羨ましくて。
…今日ほど忍足の前の席で嫌だと思ったことはない。
チラッと盗み見ると、みんな綺麗な子ばっかりで、チョコレートだってすごくきれいにラッピングしてある。
あ、あの子すごく足がきれい。
モロ忍足のタイプって感じ。いいなぁ。ワンレンストレートなんてあたしじゃ似合わない。
「おぉ?すごいな、何やこれ、ケーキか?」
「そうよ、ガトーショコラ。忍足のために作ったの!」
「ありがとう。」
チラッと見えたそれは、すごくきれいに焼いてあるケーキ。
あたしが作りたかったまさにそんなケーキで、ショックを受けた。
鞄の中のクッキーを手にとって、惨めになって。
…無理だよ。こんなグチャグチャなの。渡せない。
鞄を手にとって、席を立つ。
忍足の周りは女の子でいっぱいで、忍足の姿もちゃんと見えなかった。
そっとロッカーに近寄って、チョコレートでいっぱいの忍足のロッカーに歯ブラシと歯磨き粉のセットを捻じ込む。
チョコレートでいっぱいのそこに、そのプレゼントはひどく場違いであたしにお似合いだった。
教室を出ると、そのまま屋上に続く階段をひたすら上に上った。
「あーいい天気。」
暗い階段を上って重い鉄の扉を開けると、目の前に青空が広がる。
授業して過ごすなんてもったいないくらい。風もそんなに冷たくない。
決めた。今日は一日ここでエスケープしよう。
お弁当だって持って来てる。鞄の中にMDプレイヤーだってある。
鞄を枕にすれば昼寝だって出来る。
ふと、手の中のクッキーに目を留めた。
せっかく作ったんだから食べてあげなきゃ可哀想だよね。
昨日のあたし、頑張ってたんだから。
ごめんね。今日のあたしの意気地がないせいで、昨日のあなたの努力は無駄になってしまったよ。
カナリアイエローのリボンが目に眩しい。
「…苦い」
涙が出た。
なんでかなぁ、友達ではいられるのにあと一歩が踏み出せない。
チャンスの神様に後ろ髪はないってよく聞く。
あたしは何度もチャンスの神様を見かけては逃してしまって、とうとう見放されてしまったのかも。
「そう言えば今日は13日の金曜日だっけ…」
「何しとるん。授業始まるで。」
振り向いたら戸口に寄りかかるようにして、忍足が立っていた。
光があたって普段の三割増でカッコよく見える。
って言うか何でこんな所に忍足が?
あたしは慌てて両手でごしごし涙をふいた。
ゆっくり、忍足が近づいてくる。
「こんな洒落たもんもらったの初めてや。」
忍足が手に持った何かを高く上げて揺らす。
透明の袋が光に反射してよく見えない。
と、袋の口にピンクのリボンが結んであるのが目に映る。
あれは…!
「なんで…それあたしからのだって…?」
忍足は笑うだけで答えない。
ゆっくりと歩いてきて、あたしの隣で足を止める。
ふと、あたしの手元のクッキーに視線が落ちる。
「一人で食べてるなんてズルイやん。俺にも一枚くれへん?」
「…美味しくないよ。他の子のケーキのが…」
「のが食べたいんよ。」
「…ホントに美味しくないよ。」
「ええよ。」
一枚取り出して、かじる。
そんな姿さえ絵になる。
ふと、無性に言いたくなる。
「好きだなぁ。」
忍足が振り向いて、笑った。
「美味い。」
「…嘘だ。」
「ホンマやって。慈郎にやるなんてもったいないわ。」
忍足が笑って、あたしの手からクッキーの袋を受け取る。
ひとつ食べてはまたひとつ取り出し、という具合に
あっという間にクッキーを平らげてしまった。
「他の子たちのもそんなに食べたの?」
「まさか。」
「…ごめん期待するから勘弁して。」
「期待して欲しいんやけどなぁ、俺としては。」
「嘘。」
「ホンマに。」
「あたし下駄箱にチョコレート入れようとしたし。」
「でも入れてへんやん。」
「料理上手くないし。」
「このクッキー美味いって。」
「脚細くないし。」
「そんなことないで。キレーな脚しとるやん。」
「…えっち。」
「わけわからへん!」
だって何かちょっと物事うまく運びすぎじゃない?
チャンスの神様、もしかして振り向いてくれたの?
それなら今度こそ、逃すわけにはいかない。
「言っちゃうからね、後悔しても知らないよ!」
「大歓迎や。」
「く〜っ!!忍足が好きです!」
「ありがとう。」
「こっぱずかしい!!」
「可愛ーなぁ、は。なぁ、ギュッてしてもかまへん?」
「えぇ!?えっとえっと………はい。」
忍足があたしの手を掴んでそっと引き寄せて、あたしは忍足の腕の中にすっぽり納まった。
どきどきどき。
心臓の音聞こえちゃいそうだ。
「俺も好きやで。」
「ありえない。」
「まだ言うか。ずっとのこと目で追ってたっちゅうに。」
「あ、それで歯ブラシが?」
「そ。ヤキモチ妬いてくれてるがめっちゃ可愛かったわ〜。」
「…そんなとこ見ないでよ。」
「あとでちゃんとこれで歯、磨くから。そしたらちゅーさせてな?」
「えぇ!?」
「そのためにくれたんやろ?」
頬っぺたにチュッとキスをして、忍足が悪戯っぽく笑った。
…そういうことにしておきます。
恋の魔法はスキトキメキトキス
あなたの心に届いたみたい。
…end
【反省と言うよりむしろ言い訳】
サエ話が現実的なバレンタインならこちらは理想的なバレンタイン。
やっぱりバレンタインって言ったらこうでなくちゃ。
歯ブラシと歯磨き粉はモテる男の子に是非!
むし歯になるなよ☆って優しさをアピールするだけでなく、 もしかしたら
忍足のようにちゅーのおまけがついてくるかもしれません!(笑)
2004.02.13
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