誰かの誕生日が私にとってこんなに大切なものになるなんて思ってもみなかった。


 

 

Anniversary

 

 

カタカタカタ…
愛用のノートパソコンにデータを打ち込みながら時計を見上げる。
4:30 P.M.
残りの枚数と後片付けの時間、手の疲れ具合なんかも計算に入れて…
うん、間に合いそう。
ほっと一息ついてまたパソコンに向き直ると、向かいの席のが呆れ顔でため息をついた。
かすかに動いたその口が『バカ』と言っていた。
ホントにね。
自分でもバカだと思うよ。
義務教育を終えてもうすぐ十年。
いつの間にか恋に夢中になることが似合わない歳になってた。
それなのに、学生時代以上に恋愛に盲目的になってしまっているのは皮肉なものだ。
しかも相手はあたしよりうんと年下の男の子。
情けなくて笑っちゃうけど、あたしはどうしてもこの想いだけは手放せなかった。

きっちり二十分で仕事を終えて、片づけをして席を立つ。
五時きっかりの退社なんていい顔されないけど、仕事は全て終えたんだから文句を言われる筋合いはない。
それなりに優秀な人生を歩んできた自分が、こんな時は役に立つ。

「程ほどにしときなさいよ。自分のトシわかってんでしょ。」

いそいそと口紅をさすあたしにがボソッと釘をさす。

「わかってるよ。」

笑ってそういうとが頭を押さえる。
でもちょっと苦笑しながらも手を振ってくれたので、あたしも振り返して職場を出る。
オリーブグリーンの愛車に乗って、氷帝の方向にハンドルを切った。

明日は侑士の誕生日。
休日だから一日中二人ですごそうと話していて。
あたしが今日仕事だと言ったら、仕事終わってからの時間もリザーブしてええ?なんて可愛いこと言うから、絶対五時で上がると約束した。
侑士は放課後、引退したテニス部に顔を出してくると言うので五時半にあたしが迎えに行くことになった。
車を走らせながらチラッと助手席を見る。
侑士のために用意したプレゼントが鎮座している。
今日びの高校生の欲しがるものなんてわからなくて聞いたら、はっきり

がええ」

って言われてしまった。
…イヤ、嬉しいですけどね。
この歳になって自分にリボンをかけて

「受け取ってvv」

なんて恥ずかしくて出来やしないわ。
有り得ない有り得ない!
仕方ないから、オーソドックスに腕時計なんて買ってしまった。
経済力をムダに振りかざしてゴテゴテしたアクセサリーを贈る、なんて頭の悪いことはごめんだったし。
どうせなら毎日使えるやつがいいかなーと思ってこれにした。
なんて言うかな、侑士。

氷帝から一番近いコンビニで車を停める。
ここがいつもの待ち合わせ場所。
どうしても門の真ん前でピックアップするのには抵抗があったからここにしてる。
それに車の中で本を読んで待ってる時に、侑士が窓をノックするあの瞬間が好きだ。
ちょっと息を弾ませて、すごく嬉しそうな顔をして、ただいまって言うの。
あーやばい、想像して顔が緩んできた。

ふと目を外へ向けると、氷帝の西門から制服に身を包んだ高校生の集団がちょうど出てきた。
よく見ると集団の中心にいるのは侑士で、女の子にプレゼント攻撃をされているようだった。
あたしは本へと目を戻した。
侑士が女の子に囲まれてることが不満なんじゃない。
いつだってあたしは侑士に愛されてる自身を与えられてる。
だから別にそれくらいのことで動揺したりはしない。
ただ、どうしても同い年に生まれたかったという思いは消えない。
どんなに愛を囁かれても、この年の差は埋まらない。
そんな事実にほんの少し切なくなった。

コンコン

顔を上げるといつもの笑顔がそこにあって、あたしは慌てて笑顔を作ってロックを解除した。

「スマン、。だいぶ待っとったんと違う?」
「ううん、大丈夫。あ、コレ。一日早いけどおめでとう。」

助手席のドアを開けながら心配そうに言う侑士に笑ってそう言うとプレゼントを手渡した。
助手席に乗り込んだ侑士がドアを閉めたのを確認して、車を発進させる。

「おーきに。なぁ、開けてもええ?」
「いいよ。それにしても結構身軽ね。あたしはてっきり車が沈むくらいプレゼント貰って来るのかと思ってたのに。」
が居るんやから他のなんか要らんわ。全部断ってきたんよ。おー!腕時計やん!」
「気に入った?」
「めちゃめちゃ気に入ったわ!むっちゃセンスええなぁ、やっぱ。大事にするわ。おおきに。」
「どういたしまして。」
「なぁ、今夜ずっと一緒にいてくれるんやろ?」

早速時計をつけながら、侑士が真剣な声で聞く。

「もちろん。約束したでしょ?あたしのマンションで二人で過ごすって。今日の晩御飯はねー、ハンバーグだよ!ケーキも用意してあるし、侑士の大好きなロマンス映画のビデオもいっぱい借りてきました!」
「そりゃすごいな。」
「でしょ?ケーキはちゃんとホールだよ!やっぱり誕生日にはホールケーキ食べないとね?」
「そんなことで駄々こねるようなワガママっ子と違うで?」
「子供だろうと大人だろうと関係ないよ。ちゃんと歳の数だけロウソクつけてもらったからね。」
「ありがとう。」
「お礼なんていいよ。あたしがそうしたいだけだから。お誕生日には、それなりの準備をしておきたかったの。だってやっぱり特別な日じゃない?」
「せやな。」
「さ、着いた。お腹すいたでしょ?すぐ家に入ってご飯にしようね。」

車を駐車場に停めて、先に歩き出したあたしの手を侑士が引きとめた。

「侑士?」
「俺…十八になるんや。」
「うん、知ってるよ。おめでとう。」
「十八になる瞬間もこうしてと一緒にいられるんやな…」
「うん、その瞬間にもおめでとうって言うから。」
…俺ホンマにのことが好きや。」
「あたしも大好きだよ。」

あたしの手を掴む侑士の手に力がこもって、そのまま抱きしめられた。
突然のことに誰かに見られてないかドキドキしたけど、日も暮れた駐車場はあたしたち二人だけ。
耳まで熱くなるのを感じながら頬を寄せた侑士の胸も、すごくドキドキしてる。

、明日の朝一番に区役所行こう。」
「えっ?」

顔を上げると侑士の瞳とぶつかった。
少し潤んだような瞳が真摯な光を放ってあたしを見つめる。

「俺のお嫁さんになってください」

息が止まる。
瞬きするのも忘れて侑士を見つめる。
何か言おうとしたその言葉は、喉の奥で熱に変わって瞳から雫となって零れた。

「俺、まだまだ子供やし、経済力もないし、頼りないのわかってんねやけど…」

そんなことないと首をひたすら横に振る。
声にならない思いを汲み取った侑士が、少し照れたように笑って髪を撫でる。

と一緒にいたいんや。」

あぁもう瞳が潤んでよく見えない。
何か言わなくちゃと思うのに涙ばかりが零れる。
こんなんじゃ侑士に思いが届かない。
一生懸命伸ばした腕で侑士の首にしがみつく。
感じて、わかって。
こんなにこんなに感動してるの。
嬉しくて、ううん、嬉しいなんて言葉じゃ足りない、もっともっとずっとあたしの心はあなたの言葉に揺り動かされてる。
朝も昼も夜もあなたと過ごしていける、そう思っただけで涙が出るの。
こんな気持ち言葉に出来ない。
でも伝えなきゃわからない。
ただ一言でもいい。
あなたの想いに感謝を込めて。

「はい…」

そう呟いたあたしを強く抱きしめると、そっと侑士があたしの顎をとらえる。
そして…
長い長いキスをした。
優しくて柔らかくてどこまでも温かい侑士の唇に、また涙が零れた。
大きな腕があたしを抱きしめて、耳元でそっとありがとうと囁いた。

 

―プレゼント、何がいい?

 

忘れられない日になる。

 

…end




【反省と言うよりむしろ言い訳】


高校生設定で、ちょっとやってみたかった十八歳のプロポーズ。
侑士は誕生日にさんとの未来を手に入れたということで。
なんて大きなプレゼント。
コレを決意するにはやはり成人した大人のヒロインがいいなぁと思って書きました。
おっしーお誕生日おめでとうッ!


2003.10.15