耳元で鳴るコール音、ひとつ、ふたつ


高鳴る鼓動、ひとつ、ふたつ


 

 

midnight calling

 

 

何かに引かれるように目を開けた。
静けさばかりが漂う部屋の中。
車が時折走るたび、天井に薄く光が差し込んで揺れる。
…まだ夜じゃん…?
一度眠ったら朝まで起きない俺にしては珍しい。
別に喉が渇いてるわけでもない。
うなされたわけでもない。
寝苦しくもない夜なのに、何でだろう。


…まいっか。寝よう。
二度寝ってなんか得した気分になるから悪い気はしないしね。


そう思ってもう一度布団を被って、何度か寝返りを打ってみたが、眠気は一向に訪れない。
ムリヤリ目を閉じても何か寝苦しくて嫌だ。
あーあ、完全に目、覚めちゃったみたい。
ふっと息を吐くと、起き上がって壁に寄りかかった。
クッションを取って背中に当てて
ついでに開き直って、腕を伸ばしてカーテンも開けてみる。
雲が薄くかかった空に、ぽつんと月が浮かび上がった。
ああ、あれが古典でやった『寝待月』ね。
有明の月、だっけ…




枕もとの目覚まし時計は夜中の2時を回ったところ
開け放った窓から夜の風が涼しく流れてくる
そっと置きっぱなしの携帯をとって、メモリの1番を呼び出した。
寝てるかもしれない。その可能性のほうが高い。
でも今かけたら、きっと出てくれる。
そんな気がした。




壁に背を預けて、耳に全ての神経を寄せる
遠くで鳴る小さなコール音、ひとつ、ふたつ
期待が一緒に膨らんでくる
少し高い、あの声を待ってる。








『…もしもし?』




耳元に届いた微かな声に一瞬息が詰まりそうになる。
…声ひとつでこんなに動揺するなんて、俺もまだまだだね。
でも、先輩の少し眠そうな声。
昼間聞く、元気で明るい声とはまた違って、どこか色っぽい。
きっと今、この電話を取るために起きてくれたんだ。
そんな小さなことが、嬉しい




先輩?こんばんはッス。」
『こんばんはって…リョーマくん、今何時だと思ってるの?』
「2時過ぎ?」
『……どうかしたの?』
「イヤ、別に何もないッスけど」




電話の向こうで先輩が大きく溜息をついたのが聞こえた。
まぁ無理もないか。
でもさ、この衝動が何かなんて俺にだってわかんないんだよ。
眠れないからだなんて言えないし
あぁでも先輩の声聞いたら、ちょっと眠くなってきたかも…




『もう…切るよー。』
「待って先輩、もうちょっとなんか話して?」
『…あのねーあたし今すっごく眠くてすっごく心配したんだけど。何があったのかなって…もう変な時間にかけて来ないでよぉ…』
「うん、ゴメン。…あのね先輩」
『何?』
「ホントは俺ね」
『うーん?』









「愛してるって、言いたかっただけだから。」










『……リョッ!?』
「オヤスミ、先輩。また明日ね」




チュッとキスを送って通話ボタンを切ると、枕もとにそっと置いた。
サラサラ夜風がカーテンを揺らして肌を撫でていく。
目を閉じてその感触に酔いしれる。
寝待月にオヤスミを言って、 もう一度布団に体をうずめたら、今度は心地良い眠気が訪れる。
深く息をついて、まぶたを閉じる。
耳の奥に愛しい人の声が残る。
明日、朝一番にまたあの声を聞こう。
もぐり込んできたカルピンの頭を撫でながら、遠く先輩が呼ぶ夢の中に沈んでいった。

 

…end




【反省と言うよりむしろ言い訳】


有明の月は人恋しくなると思う。
夜のリョーマさんはちょっと雰囲気が違う感じで。


2004.06.28