第1でも第2でも第3でも、ボタンであることにかわりはないのに


ココロに近いというだけで、その一粒がスペシャルになる。




あなたの『好き』は誰が受け取るのだろう・・・

 

 

1/80

 

 

「明日で中学生活も終わりだねーっ。」
「だねーっ。ねねっ、アレもらいたいよねっ!」
「モチ!あ〜でもすっごい倍率高そ〜!!」

クラスのあちこちから、そんな声が聞こえる。
ソワソワした女の子たちの可愛い声。
あたしは友達の卒業アルバムにメッセージを書く手を止めて、ふっと教室を見渡す。
明日になれば、この教室ともおわかれ。
高等部に持ち上がりといったって、このクラスメイト全員とこうして机をならべるのも最後なんだ。
そう思ったら、不意にとても寂しくなった。
って…オイオイ、柄じゃないよ。あたしらしくもない。

「なにセンチメートルになってんだか…」

 

 

 

いつから定規ンなったんにゃ?」
「うえぇぇっ!?わっわっわっ…ぎゃあああっ」

突然頭上から降ってきた声に驚いて顔を上げると、大型の猫の顔が鼻の先数センチのところにあってもっと驚いて。
思わず叫んでのけぞったら、椅子がバランスを失って後ろへ傾いた。
英二に伸ばした手がむなしく空を切って、あたしは反射的に固く目をつぶった。
倒れる!!と思った

 

…思ったんだけど…目を開けるとあたしは傾いたまま静止してて、どうやら間一髪で椅子と仲良く病院行きを免れたようだった。
……英二に治療費水増し請求まで考えていたんだけど。

、大丈夫?」

あたしを椅子ごと支えてくれたまま、不二がにっこり微笑む。
あたしは顔が赤くなるのを感じたが、不安定なこの状況のせいにすることにして。
なるべく平静を装って不二に微笑み返す。

「ありがとう、不二。うちの猫ってばしつけが悪くって♪」

そういって体勢をすばやく立て直すと、英二のほっぺたをつまんで横にびろびろと広げてやった。
くっそう、静まれ心臓!!

 

何を隠そう、あたしはムダに顔の良いこの男のことが好きなのだ。
青学テニス部のbQプレイヤーで、いつも笑顔の不二周助。
あたしをテニ部のマネージャーに誘ったのも奴だ。
なんとあたしたちは3年間同じクラスで。
サバサバした性格のあたしと、不二は妙に気があってすごく仲良くなれた。
そして気づいたら好きになってた。
あたしの生活の中で不二といる時間が一番大切になって、息をするように自然に不二のそばにいたいと思うようになった。

でも別に彼女になりたいなんて思ってない。
告白して気まずくなって、今みたいに話せなくなる方がずっと嫌だ。
そんなんなる位なら友達のままのほうがずっと良い。

 

「いひゃいよ、〜。」

英二が涙目であたしに訴えてきた。
でもまだ動悸が治まらないあたしは、高ぶる気持ちをごまかすように英二をいじり続ける。

「だーめ!あたしあのままだったら椅子ごと病院行きだったんだからねっ!!愛のムチを受け取れ〜!!うりゃっっ!!」
「それくらいにしてあげなよ。クスクス。ホントにと英二は仲が良いね。」
「まあね〜。大石には負けるけど♪」
「そういえば〜!も明日の卒業式で第2ボタンもらうのかにゃ?」

やっと解放されたほっぺたをさすりながら、英二が聞いてきた。

「そうだなぁ、やっぱ女として生まれたからにはねー。柄じゃないけどもらってみたい気もするよ。」
「そーゆーもんにゃの?」
「うん、そーゆーもんだ。あたしのことより、あんたたちの方が大変じゃないの〜?テニ部のメンバーって美形ぞろいで大人気なんだから。すっごいバトルがあると思うよ〜。なんたって倍率80倍だもんね♪」
「にゃ?」
「それ何のこと?。」
「1クラス約40人×12クラス÷6」
「なんで6で割るんにゃ?」
「手塚、大石、タカさん、乾と英二に不二で6人でしょ?」
「そうか〜!!すごいにゃ〜!!」
「ふふん!まかせてよ。昨日徹夜で計算したんだから♪」

大いばりで主張しつつ、あたしはチラッと不二の顔を盗み見る。
キラキラ目を輝かせて感心している英二に対し、不二の反応はまったくナシ。
…面白くない。実に面白くない。
なんか一言くらい言ってくれたっていいじゃないかぁ〜!!
何だか昨日のあたしを否定されている気分になって、不二を軽く睨みつけた。

「どうしたの?
「…不二はなんか言ってくれないの?」
「僕?そうだなぁ…。じゃあ、1個訊いてもいいかな?」
「いいよ!なになにっ?」

 

 

 

 

「僕は男子にまで迫られるのかな?」

 

 

 

 

「……え゛っ?」
「男子も数に入ってるんでしょ?」
「あ゛あ゛〜!!」
「それに手塚って下級生にも人気高いんだよ。これは今日も徹夜かもね…?」
「あうあう」

そっそんなぁ〜
不二にも、「へぇすごいね」って言ってもらいたくて頑張ったのに〜(凹)
あたしのバカを強調しただけじゃん;
しょぼん。

、落ちこまにゃいで〜!!オレの第2ボタンはにあげるにゃ〜vv」
「くすん、ありがと、英二。」

すっかり凹んだあたしの頭を英二がよしよししてくれる。
……気のせいかな、なんか視線が痛い。

「クスクス。ゴメンね、。ところでは誰か第2ボタン欲しい人がいるの?」

満面の笑顔を浮かべて、不二があたしに訊いてくる。
……お前だよ、コノヤロウ//////
でもそんなこと言えるわけがない。

「なっ内緒ッ!!」
「ふうん?」
「そっそうだ不二!あたしに第1ボタンちょうだいよ!第2はいらないからさ。3年間同じクラスだった友達のよしみでvv記念にとっておきたいんだ。」

ピクッと、微かに、でも確かに不二が反応した。
…?何だか空気が重い気がするんですけど。
あたしなんかまずいこと言った…?

〜!アルバム書けたよぉ〜♪」

不二が口を開きかけた瞬間、親友のが割って入ってきた。
あたしがさっき頼んだメモリーページのメッセージを書いて持ってきてくれたようだった。

「ハイこれ。気をつけなよ、。みんな明日が卒業式だから結構戦闘モード入ってるんだからね。マネだからって安心していつまでも2人はべらせてると、親衛隊に闇討ちされるわよぉ〜。あはは☆じゃ!」
「笑顔で怖いことゆーなよぉ;ありがと。あ、英二と不二も書いて♪」
「にゃーvv」
「僕は嫌だ」

「えっ…?」

低く、今までに聞いたことがないくらい冷たく、不二が言い捨てた。
予想だにしなかった不二の返答に、あたしは一瞬言葉を失った。
心臓がずくずくと早鐘を打っている。

「不…」
に第1ボタンはあげないから。」

全身から体温が抜けていくようだった。
きっと血の気が引くっていうならこんな感じだろう。
拒絶するような不二の言葉に、心臓がひび割れて傷口からどくどくと血があふれだす。
喉が焼けつくように熱くなって、声が出せない。
不二があたしの横をすり抜けて教室から出て行くのに、あたしは金縛りにあったように身体が動かなくて引き止めることが出来なかった。


手を伸ばせば届く位置にいたけれど、その手が伸ばせなかった…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

+     +      +      +      + 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カタン…
誰もいない部室に足を踏み入れる。
卒業式のあと、不二に群がる女の子たちを見ていたくなくてこっそりココに来た。
昨日あれから不二はあたしと口を利いてくれなかった。
目があってもそらされてしまう。
今日も一言もしゃべっていない。
今日で中学生は終わりだというのに…。

友達のままでよかったのに。
「第1ボタンでいいから欲しい」なんて思ってしまったから?こんなに気まずくなって。
思っているだけにすればよかった。
言わなきゃよかったんだ。

あたしはカーテンをひいて、薄暗い部室の入り口近くに置かれたデスクに突っ伏した。
目頭が熱くなって、たえきれず零れ落ちた涙が机に小さな泉をつくる。
感情があふれ出して胸が痛い。
唇を強くかみしめて堪えるけれど、涙はとめどなく流れては落ちる。
どうしてこんな風になってしまったんだろう…?
もう友達ですらいられないんだ…

「うっ…ひくっ…っふ…」

嗚咽が漏れてくる。
取りかえせない時間を思うと涙を止めることが出来ない。
かばんの中のティッシュをとろうと顔を上げた時、部室のドアノブが回った。
誰か来た…?
ここも1人になれないのか…
軽くため息をつくとティッシュで泣き顔を隠すようにして、ゆっくりと開くドアの方を見つめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「不二…」

開いたドアから差し込む光に縁どられたその姿は、まぎれもない不二本人で。
不覚にもあたしはまた泣きそうになった。

「これからタカさんちで卒業パーティやるから呼びに来たよ。」

嬉しかった。
無表情のまま淡々と紡がれた言葉でも、今のあたしには十分すぎるほど嬉しかった。
手を伸ばすと触れそうで、決して触れられない距離。
この位置でいい。
もうこれ以上近くは望まない。

不二の顔から少し目線を下げると、真っ白なYシャツと、その胸元を留める術を持たない学ランにぶつかった。
袖のボタンまでちぎられてる…
きっと内側の予備ボタンも持っていかれちゃったんだろうな。
そんなことを思って苦笑した。
どんな子が不二の『好き』を手にしたんだろう。
きっときっと、今、世界で一番幸せな顔をしているんだろうな。
すごく羨ましくてたまらない。
でももう決めたから。
あたしが不二のそばにいられるこの位置を守りたいと思うから。
この気持ちは決して不二には言わない。

「ありがとね!わざわざ来てくれて。すぐ行く。」
「ちょっと待って、。その前に…」
「えっ?」

あたしのかばんを持つ手を制して、不二がゆっくりと近づいてくる。
ストッパーを失った扉が音を立てて閉まり、部室が再び薄暗くなる。
不二はあたしの目の前で足を止めた。

「アルバム…書かせてくれるかな。」

 

「…天邪鬼だね。」

 

あたしは泣き出しそうな顔で笑って、かばんからアルバムを取り出した。
それを受け取った不二が机の上に腰掛けて、メモリーページを開く。
結構たくさんの人に書いてもらったから、あんまりスペースがない。

。」
「うええっ?はい!」
「言っとくけど、僕はまだかなり怒ってるからね。」

アルバムに目を落としたまま、不二がそう言った。
背筋にあの絶対零度の冷たさがよみがえる。
ゆっくりと顔を向けた不二の瞳があたしの目をとらえた。
心臓が跳ね上がって悲鳴を上げている。

 

怖くて。

 

怖くて。

 

今にも逃げ出したい衝動に駆られているのに…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目を逸らせない…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…正直に答えて。は本当に僕のこと、ただの友達だと思ってるの?」
「!」

さっきとは裏腹に、身体に熱が蓄積されていくのがわかった。
いつの間にか握り合わせていた両手に、さらに力がこもって爪が肌に食い込んでいく。

本当のことを言ったら、もうあの仲には二度と戻れない。
わかっているから決して言わないと決めたのだもの。
けれど嘘をついたらこの人はもっと怒ってしまうだろう。
どちらにしても壊れてしまうのなら……
震える唇であたしはかすかに呟いた。

 

「友達だなんて…思ってない…」
「じゃあ、どう思っているの?」

 

 

「……………………………………すき……」

 

 

必死の思いでしぼりだした一言。
不二があたしを見上げて驚いた顔をしている。

 

だから言いたくなかったのに…
困らせたくなかったのに。
あたしはもう涙をこらえられなくなって、その場から駆け出した。
…が、ドアに伸ばした手をとられて引き戻されてしまった。

「放して!お願いだからほっといてよぅ…っ!」

好きになってくれなんて言わない。
私が彼女になりたいなんて言わない。
でも想うことは自由だから。
叶わなくったって想うことは自由だから。
この気持ちは取りあげないで。

 

まだ好きだから――――――

 

あたしは涙をふきもせず、不二の腕から逃れようと必死に身を捩って暴れる。

 

「…んんっ!」

 

突然、唇に激しい熱を覚えた。
それが不二の唇だと気づくまで、たっぷり十秒かかった。
驚いて目を開けると、これ以上ないというくらい間近に整った不二の顔。
頭の中が真っ白になって、とにかく離れようともがくけれど不二にしっかりと抱きしめられていて動けない。
両手で不二の胸をドンドン叩いてもビクともしない。
むしろいっそう腕の力が増すばかりで、苦しさに口をあけて息をつくと更に角度を変えて深く口づけてくる。
息継ぎの間も与えてくれないかのような激しいキスに、あたしは目眩を覚えた。
だんだん抵抗する力もなくなってゆく。
唇がはなれた時には、あたしは半分くらい不二に寄りかかってしまっていた。

 

「僕の返事は聞いてくれないの?」

 

指であたしの涙を絡めとって、あやすように不二が言う。

わけがわからない。
不二は呆然としているあたしを見てクスッと笑うと、きつく抱きしめてきた。
さっきからの不二の行動にあたしの心臓は動揺しっぱなしで、月面宙返りを繰り返す。
今にも壊れてしまいそうだ。
Yシャツ越しに伝わるあたしの心臓の爆走に、不二は肩を震わせて笑っている。
首筋にサラサラの髪があたるたびに、あたしは失神したい衝動に駆られる。

誰か…これは夢だと言って。
真昼間に妄想してたバカ女だと言われてもいいから、早く目覚めさせて。
これ以上は現実が辛くなるだけだよ。

「ひゃっ」

ずっと黙ったままだった不二があたしの耳を甘噛みした。
身を捩じらせるあたしを強く抱きしめる。
この感覚は夢なんかじゃない…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「僕の1/80になってくれないかな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

耳元で不二が甘く囁いた。
目を見開いたあたしにアルバムを差し出して、メモリーページを見せる。

 

「……あたし口悪いんだよ?素直じゃないし。」
「知ってる。」
「ぜんぜん可愛くないし。」
「すごく可愛いよ。」
「そんなんでもいいの…?」
がいいの。」
「あと…わがままだし」
「何でも言っていいよ。聞いてあげる。」
「それから…それから…」
「もう黙って…」

 

指を絡めてあたしたちは唇を重ねる。
触れた指先から、重ねた唇から、『好き』があふれ出して止まらない。
少しでも離れているときが惜しくて何度もキスをする。
あたしの『好き』はあなたに全部伝わっただろうか?

 

「パーティ…さぼっちゃおうか…」

 

不二がいたずらっぽくそう言って、またキスをする。
あたしも笑ってキスを返す。

「卒業おめでとう」

不二があたしの首筋に赤く刻印を結び、あたしはそのまま不二に身体を預けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あたしの卒業アルバムには、不二の第2ボタンがしっかりと留められていた。

 

…end




【反省と言うよりむしろ言い訳】


第二ボタンってやっぱり憧れですよね☆
私も欲しくて欲しくて、友達から無理やりぶん取りました。
それもいい思い出(笑)。
しかし、やっぱり不二は黒くてなんぼですね。

2003.11.05