私が生まれてきたことに


君が生まれてきたことに


世界で一番感謝する日。

 

 

Because you are here  -August-

 

 

人ごみの花火大会。
大きな打ち上げ花火に見とれていたあたしは、見事に景吾とはぐれてしまった―――――

近くの川原で毎年8月にある花火大会。
毎年テニ部のみんなで行っていたけど、今年初めて景吾と二人だけで来た。
あたしの誕生日と重なったこともあって、みんなも気をきかせてくれたようだった。
舞い上がるあたしをよそに、景吾は結構そっけなくて、出店の並ぶ道をまっすぐ川原に向かって歩いていた。
大勢の人が行きかう中、足の速い景吾についていくのはかなり大変。
でもあたしは景吾に手をつなごうと言い出せなかった。

付き合おうと言い出したのは景吾。
でも今は絶対あたしの好きの量のほうが多い。
今日だって頑張って慣れない浴衣に下駄で来た。
バレッタもいつか景吾が似合うと言ってくれたのにした。
浴衣の時はうなじが見えるように結い上げた方がキレイに見えるって聞いたことあるし。
でも景吾の反応はこれといってナシ。
むしろなんだか怒ってるようにも見えた。
だから言えなかった。
『手をつなごう』も、『もっとゆっくり歩いて』も。

 

「こんなことになるなら言えばよかった。」

重いため息をつきながら、あたしは途方に暮れていた。
川原に向かう人の波は途切れることなく、むしろ増えていってる。
川原に続く道は人がいっぱいで、思うように前に進めない。
こんな中から、景吾を見つけられるんだろうか?

ぼうっと歩いてるせいか、やたらと人にぶつかってしまう。
ドン!と後ろの人に強くぶつかった瞬間、バレッタが髪をすべり落ちた。
急いで拾おうと足を踏み出したあたしは、足元の段差に気づかず思いっきり転んでしまった。

痛……
やっぱ下駄なんてやめればよかった。
立ち上がろうとして右足に走った激痛に、あたしはうずくまった。
やば…ひねっちゃった…?
…立てない。

見回しても手を貸してくれるそぶりを見せる人はいない。
それどころか目を逸らして足早に去っていく。
その中の誰かに蹴飛ばされて、あたしのバレッタは人込みの中に消えた。
何も頼るものがなくなった気がして、すごく心細くなった。
聞こえないとわかっていても、あたしの口は自然とその名を紡いでいた。

「…けいごぉ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんだよ。」

 

幻聴かと思って見上げると、そこにはずっと捜していた顔があった。

「景吾!」
「何やってんだよ。今までどこにいた。」
「そっそれはこっちの台詞だよ…っ」

景吾があんまりにも普通だから、悔しくなって。
でもすごく安心して。
あたしは思わず泣き出してしまった。

「何泣いてんだよ、?」
「だって、景吾どんどん先に行っちゃうし…人がいっぱいで見つからないし…バレッタは無くなるし」
「……」
「転んで足くじいたし、すごく不安になったんだよっ!景吾にはわからないでしょっ。どれだけあたしが…あたしが…心細かったか…」

ああもう最悪の誕生日だ。
ズリズリと地面を這って景吾から顔を背けようとしたら、景吾に抱えあげられた。
そのまま景吾は川原の方に歩いていく。

「けっ景吾!?」
「歩けねぇんだろ。黙って担がれてろ。」

川原に着いた景吾は、コンクリートブロックの上にあたしを座らせて、ぐちゃぐちゃに崩れた髪を直し始める。
なんだか怒るタイミングを外してしまったようだ。
仕方なしに、おとなしく座ってることにした。
…器用なんだな、景吾って…
ヘアピンとヘアゴムで髪を結い上げてくれている。

「オレが心配してなかったとでも思ってんのかよ。」
「え?」
「後ろを振り返ってお前がいなくて、オレが心配しなかったとでも?」

景吾の方を向こうとすると、力強い腕で前を向かされてしまって顔を見られない。
でもその声はとても真剣だった。

「でも…。景吾なんか怒ってたじゃん。ずっと不機嫌そうでどんどん前に行っちゃって。」
「あれは…」
「あれは?何なの?」
「…言わせたいのかよ」
「わかんないもん。何?」

景吾が煩わしそうに舌打ちをすると、後ろから抱きしめてきた。
一瞬心臓が跳ねたけれど、見慣れた広い腕はすごく居心地が良かった。
あごに添えられた手がキスを促す。
少し後ろに身をそらして景吾の熱いキスを受ける。
唇を離したそのままの距離で、景吾が囁いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前があまりにも可愛いからどうしていいかわかんなかったんだよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

思いがけない景吾の告白に目を丸くした。
景吾はそんなあたしを見てバツが悪そうな顔をすると、照れ隠しのようにまた唇をよせてきた。

「ふぅっ…うん…」
…」
「景吾…」
…このまま…」
「!うわっ!ちょっと待って!!」

勢いで押し倒されかけたあたしは景吾を押しのけた。

「なんだよ。オレとしたくねぇのか?」
「(そんな露骨な;)そっそういう訳じゃないけど…」
「じゃ、いいじゃねぇか」
「その前に…くずれる前に景吾が結ってくれた髪、見ておきたいの!」

言い訳じゃなくて本気で、景吾があたしのために髪を結ってくれたんだから見ておきたかった。
バックのポーチから鏡を取り出して映してみる。
あたしの後ろではじける花火が映る。
あれ…?
シニョンに結われたあたしの髪に、花火のひとかけらのようなかんざしが煌めいている。

「景吾…コレって…?」
「お前、今日誕生日だろうが」
「じゃ、コレ、あたしに…?」

蜻蛉玉みたいな透きとおる飾りが煌めくかんざし。
まるであたしの浴衣にあつらえたように似合う。
景吾がわざわざ選んでくれたのかな…
そんなことを思ったら、顔が緩んでしまった。

「何ニヤついてるんだよ」
「あたし、けっこう愛されてるのかなーと思って」
「あ?」
「ありがとう、景吾。すごく嬉しい。」

素直にそう言えた。
あたしが心から喜んでいるのが伝わったのか、景吾も嬉しそうに笑ってくれた。

「じゃ、もうくずしてもいいな?。」
「えっ!?」
「後でちゃんとまた結ってやるから心配すんな。」
「けっ景吾!ちょっと離し…」

「え?」
「誕生日おめでとう」

 

耳元でそう囁いた景吾に、もうあたしが抵抗できるわけもなく。
その夜、景吾はあたしの胸元に赤い花火を咲かせたのだった。

 

…end




【反省と言うよりむしろ言い訳】


というわけで8月は跡部でした。
続きは裏逝き?むしろ続きがあるのか!?(笑)
書けたら書いてみたいですけどね。読みたい人なんかいるのか…?(苦笑)
葉月も8月生まれなので、今回はかなり楽しんで書けました。
しかしあんまり花火大会が生かせなかった;;
8月生まれの皆様、お誕生日おめでとうございますvv

2003.07.24