私が生まれてきたことに


君が生まれてきたことに


世界で一番感謝する日。









Because you are here  -May-








「だーかーら!今日はあたしの誕生日なの!!」
「うるせぇ。何でお前の誕生日だからって、わざわざ練習早く切り上げなきゃなんねぇんだよ。」
「可愛いマネージャーの誕生日なんだよ!ご祝儀あげようとか思わないの!?」
「ハッ!思わねぇな。」
「鬼!非道!馬に蹴られてしまえ!!」
「生憎とそんな間抜けじゃないぜ。」
「お願いそんなこと言わないで〜!ねぇあーとーべ〜!!」
「うぜぇ。語尾延ばしてしゃべんな。何と言おうと気は変わらねぇよ」
「訴えるよ!泣くよ!叫ぶよ!!」
「勝手にしやがれ。俺は知らねぇ。」
「くぅぅぅ!!こうなったら最後の手段を出すわよ!!」
「ハン!何でも出してみやがれ。」
「後悔するなよ。これを見ろッ!!」




サッとポケットから一枚の紙を取り出して、跡部の目の前に広げて見せた。
馬鹿にしたように上から見下して見ていた跡部の顔が、見る見るうちに強張っていく。
眉間にくっきりと皺を寄せて、あたしの顔を睨みつける。
綺麗な顔に濃く影が落ちて、汗が一筋頬を伝った。
ふふふふふ・・・だから言ったのに。




「…てめぇ…」
「何でしょうか?跡部部長。」
「……今日はここで終わりだ。部員にそう言って回って来い。」
「ラジャ!あーもう跡部さま最高!世界一の部長!大好きありがと感謝します!!」




唖然とする跡部に投げキッスひとつ送ると、一目散に部員たちの所まで駆けて行った。












「しかしホンマに跡部が許すとはなぁ…思うてもみなかったわ。」




侑士がテニスバッグを抱えなおしながら、呟いた。
あたしはその半歩後ろを駅に向かって歩きながら、ちょっと得意顔。




「うふふvv見直した?」
「惚れ直したわ。どうやったん?」
「色仕掛けvv」
「えっ!?(アカン!跡部のこと気に入っとるんやで!)」
「アハハー冗談。これこれ。」




あたしは侑士の前に、サッとさっきの紙を広げて見せた。
侑士はちょっと背を屈めて、覗きこむ。
と、目を丸くして、顔を上げてあたしの顔を見た。




……これ…!」
「うん、監督直筆の指令状。『今日は早く練習を切り上げるよーに!』」
「うわ…ちゃんとお前の誕生日やからって書いてあるし。」
「うん。何度も添削したの。」
「…ホンマには敵わんな。」
「ありがとー。」
「さ、今日はが頑張って作った時間や。大事に使わんとな。」
「うん!」
「じゃ、今日はの好きなとこ行こか。どこ行きたい?どこでもええで。」
「海!!海に行きたい!!」
「海?東京湾か?」
「却下!なんかコンクリ詰めで沈められそう。」
「じゃあ…江ノ島あたりにでも行こか?」
「うん!」
「ほな、参りましょうか、お姫さん。」




侑士の言葉に満面の笑顔で答える。
侑士も満足そうに笑って、あたしに手を差し出す。
二人で手を繋いで、駅まで一目散に駆けて行った。














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「わー!海ー!海ー!!やっほー!!」
「(ヤッホー?)寒ない?いけるか?」
「うん、大丈夫。嬉しいー!」




鞄を置いて靴と靴下を砂浜に放り投げて、波打ち際まで走る。
バシャバシャと水を跳ね上げて、海に足を浸す。
春半ばの海の水はまだヒンヤリと冷たい。
でもすごく嬉しくて嬉しくて、足で水を蹴飛ばして遊んでいたら足がもつれて転びかけた。
あわわわわわっ!!




「…何しとんねん…ホンマ子供みたいや。」




頭の上から安心したような、ちょっと困ったような侑士の声。
どうやら侑士がしっかりと支えてくれたおかげで、あたしは危うく全身水浸しを免れたみたい。
その代わり、急いで駆けてきた侑士の足が水浸しになって、靴もズボンの裾もびしょびしょになってしまった。
砂浜に上がって、侑士の靴と靴下を岩の上に並べて置きながら、ちょっとしょんぼり。
いくらなんでも、はしゃぎ過ぎちゃったなぁ…。




「ゴメンね…。」
「ええよ。」




潮の香りのする風になびいた髪を右手でかき上げながら、侑士が微笑んだ。
作り事じゃない、優しい笑顔で、思わず涙が出てきそうになって慌てて海を見つめた。
空に橙色の絵の具を広げながら、太陽がゆっくり海に吸い込まれていく。
あたしの髪も、侑士の髪も、太陽の最後の熱で赤く焼けてゆく。
一面真っ赤に染まった世界は、まるで異国のように綺麗で頼りなく
足元の砂が今にもサラサラ消えてなくなりそうな不安を覚えた。




「…何泣いとるん、。」
「わかんない…」
「じゃあ、何で俺のシャツ握りしめとるん?」
「…侑士がどっか行っちゃわないように…かな。」
「どこにも行かへんよ。…せや、ちょお目ぇ閉じとって?」
「えっ?なになに?」
「ええから。俺がええ言うまで開けたらあかんで。」




よくわからないけど、侑士に促されるまま目をギュッと閉じる。
ただ光だけを微かに感じる闇の中、他の感覚に自然と意識が向けられて
寄せ返す波の音だとか
遠く飛んでいる鳥の声や羽音や
間近に感じる、侑士の温かな息づかい
全部があたしの体の中でぐるぐるぐるぐる回っていく。
ふと、まぶたの上にふんわりとした何かが触れた。
次の瞬間、首筋を冷たい何かが通り過ぎて思わず身を強張らせた。
何?何?何?何が起きてるの?
すごく気になるけどまだ「ええよ」って言われてないから目を開けちゃいけない。
次に何が起きるかわからない不安に、まぶたが震える。
まだ?まだ開けちゃダメなの?




「…ええよ。」




目を開けるとそこにはちょっと照れたような侑士の顔。
ううん、夕陽の光でそう見えるだけかな。
でも、とても嬉しそうなのはホント。
あたしを覗き込むように見つめる瞳に揺れる楽しげな色。
首をかしげた時、シャララと音を立ててあたしの胸で何かが揺れた。




「あれ…?これ…」




首から胸にかけて、白銀の細かい鎖がずっと続いてる。
鎖が円を結ぶ先、小さいぷっくりとしたハートが胸元にすっぽり収まっていた。
鎖を手で掬い上げると、微かにシャララと鎖が触れ合う音がする。
ああ、さっきの冷たかったのは、これだったんだ。
思わず侑士の顔を仰ぎ見た。




「あたしに、くれるの?」
「当たり前やろ。自分誕生日やん。おめでとさん。」
「なんか…綺麗であたしには勿体ない気がして…」
「そないなことないよ。これはな…俺の心なんよ。ホラ、こうして見てみ?」




そう言って、侑士がハート型のペンダントを持ったあたしの手ごと、持ち上げて陽にかざした。
すっかり沈みかけた夕陽の真っ赤な情熱の赤を受けて、シルバーのハートが紅く艶めいた。
燃え上がるような色合いに、包むような優しさに。
角度を変えるとそれだけでキラキラ色んな表情を見せてくれた。




「わぁ…」
を想う気持ちで、真っ赤に腫れ上がってしまってんねや。もろてくれへんと破裂しそうやねん。」




まっすぐ目を見てそんなこと言わないでよ。
恥ずかしくて嬉しくて死んじゃいそうだよ。
心臓がバクバクして他の音が何にも聞こえなくなるくらいうるさい。
夕陽の赤と一緒になって、あたしの顔はきっとこれ以上ないくらい赤いに違いない。




「あたしの心も腫れ上がって、今にも破裂しそうだよ。」




もうそれだけしか言えなかった。
侑士が嬉しそうに笑うのも、あたしのことをギュッて抱きしめるのも
まるで現実じゃないかのように感じていた。
夕暮れは逢う魔が時って言うけれど、このふわふわ頼りない気持ちはどこから来るんだろう。
あたしは今、『新しい歳』という不思議の国に迷い込んでるのかもしれない。










ずっとずっと、太陽が海の底に沈むまで、そうしてあたしたちは抱き合って佇んでいた。
温かい侑士の体温を感じているうちは、不安なんて起きないから
離れ難くて、何か言ったら壊れそうで。
どうして今日はこんなに不安定なんだろうね?
五月病ってこういうことを言うんだっけ?
と、侑士がポンポンと大きな手であたしの背中をたたいた。
まるで、全部わかってるように。




「…そろそろ、帰ろか。寒なってきたやろ?」
「やだ。今日はずっと一緒にいるの。」
?」
「侑士の『今日』はあたしのものにさせて欲しい。」




呆れるくらい我が侭なあたし。
でもそんなあたしの言葉に、侑士はひょいと眉を上げただけで
すぐにその顔は満面の笑みに縁どられた。




…それ、ペンダント、開けてみ。」
「え?」




開くの?これ?
よく見てみると、端のほうに確かに開け口が付いてる。
ロケットペンダントだったの?
微笑む侑士に促されるまま、パチンと開けてみると
中から、宝石のような文字盤の時計が顔を覗かせた。


声が、出なかった。
バカみたいに目を見開いて、ぽかーんって口をあけて
頭の中で、さっきの侑士の言葉がリフレインする。
その瞬間、現実の侑士があたしを抱きしめて、耳元で優しく囁いた。




「俺の時間も、初めからお前のものなんよ。」




…end



【反省と言うよりむしろ言い訳】


統一性のない内容でスミマセン;爽やかにしたかったのに…おかしいな。
江ノ島ってどこだよとか思われた方は、是非関東の地図を広げてみてください(笑)
プレゼントにまつわるエピソードはある曲の歌詞から来てます。
わかっちゃうかな。大好きなんです。
5月生まれの皆様、お誕生日おめでとうございますvv

2004.04.27