私が生まれてきたことに
君が生まれてきたことに
世界で一番感謝する日。
Because you are here -April-
「あら、リョーマくん、お帰りなさい。テニスの練習?えらいわね。」
「どーも。」
隣の家の庭からの母さんが顔を出して笑った。
俺も頭を下げて会釈する。
の家とはもう長いこと家族ぐるみでの付き合いがある。
俺たちが生まれる前かららしい。
同じ年に生まれた俺とを、運命の出会いだと騒ぎ立てて
二人を結婚させようと両方の親同士で話してたとか。
そんな親の期待に添ったつもりはないけど、俺とは卒業を迎えたこの春から、付き合いだした。
…まあ、もともと家が隣で色々と一緒に過ごしてきたから、今更って気もするけどね。
「ちょうど良かった。ね、リョーマくん、ちょっと寄ってって。に会って欲しいのよ。」
「え?」
「あの子、部屋に篭ったまま出てこないのよ。おやつだって言っても返事もしないの。いつもだったら真っ先に駆け下りてくるのに。」
「どうかしたんスか?」
「それがわからないの。それで、リョーマくんにだったら何か言うかと思って。いいかしら。」
「良いッスよ。あ、ちょっと待ってもらってもいいッスか。家から取ってきたいものがあるんで。」
「ええ。玄関、開けとくわね。」
「うぃーッス。」
おばさんに軽く手を上げて挨拶すると、俺は隣の自宅へ足を速めた。
庭先から道に広がるように伸びた枝から、遅咲きの桜が花びらを散らしていた。
お見舞いを鞄に入れて、家の境の垣根を飛び越える。
真っ白い壁が印象的なの家。
子供の頃から、しょっちゅう行き来していた。
間取りも勝手も、自分の家のように知っている。
いつものように玄関で軽く声をかけて上がると、すぐ右手にある階段を上がっていく。
二階の突き当たり、白い扉
銀の取っ手にはクマ型のポプリ袋がかけられている。
その前に立って、ノックを三回。次に二回。
俺が来たときの、いつもの合図。
でも、返事はない。
「、いるんでしょ。」
「…入るよ。」
返事のないまま扉を開く。
と、きちんと整理されたの部屋が目に飛び込んでくる。
特に机の上はいつでも勉強できますって感じ。俺とは大違い。
右手の飾り棚には、の大好きなテディベアがきれいに並んでる。
…また増えた?
これ、一つ一つに名前がついてるらしい。女の子って好きだよね、そういうの。
部屋を入って左手、ちょっと凝った作りのベッドには居た。
と言っても、頭まですっぽり春掛け毛布を被ってしまっていて顔は見えないけど。
その様子から、何かに憤ってるような雰囲気は感じ取れた。
「なに拗ねてんのさ。」
「……」
「?」
「……リョーマくんにはわかんないもん…。」
毛布を被ったまコロンと転がって、壁側を向いてしまった。
思わず溜息が出る。
話す気がないわけじゃない、けど機嫌がナナメだから話したくない、ってところかな。
ホントって、めんどくさい性格。
構って欲しいくせに、正直に言えない。素直になれない。(気恥ずかしいらしい)
それで気づかった相手がそっとしておくと、構ってもらえないってもっと拗ねる。
女の子って皆こうなの?
違うよね、きっとだけ。だから。
ホントに、じゃなかったら、とっくに嫌気がさしてる所だよ。
「もっと素直になれば?プライド高すぎなんだよね。」
「リョーマくんに言われたくない。」
「あっそ。じゃ、これお見舞いね。俺帰るから。」
「えっ!?」
バサッと手に持ってたものを毛布の上に投げて、わざと足音を立てて部屋を出て行こうとしたら、が慌てて起き上がった。
その拍子に、毛布から『お見舞い』がすべり落ちる。
でも、はそれに構ってる余裕もないみたいで
振り返って見ると、ちょっと目が潤んでる。
思わず笑いたくなる衝動を堪えて、なおも扉の方へ歩いて行こうとすると、が泣きそうな声で叫んだ。
「行かないでよぉ…!」
我が侭だけど、意地っ張りだけど、こんなとこが可愛いんだよね。
唇に笑みが広がる感じを覚えつつ、くるりと方向転換して、ベッドに歩み寄った。
足元に落ちた『お見舞い』を拾い上げて、もう一度、今度はちゃんとに手渡す。
まだ少し花の残る、庭の桜の枝。
毛布の上にも、ひらひらと何枚か花びらが舞い降りて、それだけでぐっと春めかしい。
はぼうっとそれを眺めていたけど、ふと、口を開いた。
「今日、あたしの誕生日だって知ってた?」
「当たり前じゃん。毎年毎年合同で祝ってるんだから。これで何回目だと思ってんの。」
「ありがとぉ…。」
「それを気にしてたわけ?」
「だってさ、あたしの誕生日って、新しい友達と仲良くなる前に来ちゃうんだよ。みんなと仲良くなって、そう言えばお誕生日、いつ?みたいな話するときにはもうあたしの誕生日なんて終わってるんだもん。」
あー、やっぱり青学なんて止めればよかった、近所の公立にしとくんだったと嘆いてる。
…そんなふうに言われると結構傷つくんだけど。
俺としては、一緒の学校に通えることが嬉しかったわけなんだから。
「いいじゃん。一番最初に、ひとつ前に進めるんだと思ってれば。」
「そうかなぁ…」
「俺が祝ってあげるから、それで我慢、出来ない?」
「…出来る。」
「良かった。じゃ、ココでお花見でもしながらお祝いしよ。」
そう言って、持って来ていた鞄から、濃い桜色の弁当箱を取り出す。
小判型で、桜の地紋と、表面には月を見上げるようなウサギの模様が入ってる。
ちょっと和風の弁当箱。
に手渡すと、少し不思議そうな顔をして、それをパカッと開く。
中には、母さんと奈々子さん特製のクッキーやパウンドケーキがぎっしり入ってる。
昨日の夜、二人で今日ののパーティ用にって散々作ってたヤツ。
おばさんが、はおやつまだだって言ってたから。
「うわぁー…!美味しそう。」
「好きなだけ食べて。まぁ、夜にも出てくると思うけどね。」
「いただきまーす。」
「どーぞ。俺も一個貰うね。」
「うん。あー美味しい。おばさまやっぱり料理上手だぁ。」
「の母さんだって美味いじゃん。和食とか特に。」
「リョーマくん、和食好きだもんね。あ、だから?このお弁当箱、ちょっと和風なのって。」
「俺のじゃないよ。」
「え?奈々子さんの?」
「違うよ、の。」
「え?」
ケーキを食べていた手を止めて、が大きな目をくりくり動かして俺を見た。
…って言うかさ、わかってよ。この状況で
だいたい俺がこんなピンクの弁当箱持って行くってどうなの。
「への、誕生日プレゼント。」
「嘘!そうだったの!?わぁわぁ!ありがとう!!」
「これに弁当入れてもらって、一緒に学校行こうよ。」
「うん。うん!すごく嬉しい。ありがとう、リョーマくん!」
コロッと一転して上機嫌になったを見て、ちょっと呆れると同時に、やっぱり可愛いと思う。
どうしようもないね、俺も。
我が侭だとか意地っ張りだとかめんどくさいとか言いつつも
のことがこんなに好きなんだからね。
「誕生日おめでとう。」
「ありがとう!」
「今年もよろしく、ってことで。…挨拶。いい?」
「!?えっとえっと…!?…うん。」
顔を近づけた俺たちの間で、ひとひら、また花びらが舞った。
…end
【反省と言うよりむしろ言い訳】
誕生日シリーズ初、男の子視点!
書っき難い!!
しかもお弁当箱なんて色気がない!(笑)
いや、でも実用的だし、結構可愛いと思うのですよ。
4月生まれの皆様、お誕生日おめでとうございますvv
2004.03.31
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