私が生まれてきたことに
君が生まれてきたことに
世界で一番感謝する日。
Because you are here -February-
夢を見ていた
大好きな大好きな人と過ごす誕生日。
一緒に可愛いカフェに行って、別々のケーキを注文して半分コするの。
美味しくて夢中で食べてるあたしを見て、忍足は苦笑しながら
「クリーム付いてるで」ってチュッてしてくれる。
あー忍足の髪、サラサラしててくすぐったいけど何か嬉しい。
すごくいい香りがするなぁ…
ぐふふ…
「何やってんだよ、。」
唐突に耳元で聞こえた不機嫌そうなエロヴォイスに、あたしは目をひんむいた。
頭を上げると隣に跡部が立っていて、忍足の姿は微塵も見えない。
ぐるっと見回した教室の景色を見て、あたしは自分が夢を見ていたことに気づいた。
「まだ寝てたのかよ。お前も暇だな。」
「あとべー。あたし今すごくいい夢見てたのにー!忍足とケーキ食べてたんだよ!チュッてしてくれたんだから〜!」
「くだらねー妄想すんくらいならとっとと告白しちまえっての。」
「フン!わかってるわよ!つーか何してんのココで!!あんたこそさっさと帰んなさいよ。」
「うるせーな。たまたま監督に呼ばれてたんだよ。」
「ほらよっ、鞄!ハイさっさと帰る!」
「チッ…可愛くねーヤツ。お前もさっさと帰れ。また寝るんじゃねーぞ。」
「へーい。」
枕にしてた英語の辞書をしまいながら生返事。
わかってるよ、早く忍足に告白しろってことくらい。
かれこれもう2年半越しの片思い。
3年になってからクラスも離れて、部活が終わったらホントそれっきり。
忍足の誕生日もクリスマスもお正月も、何にも出来なかったあたし。
唯一あたしの気持ちを知っている跡部から毎回ハッパかけてもらってるけど、どうにも一歩が踏み出せなくて思い留まってしまう。
でも決めた。
今年の自分の誕生日でケリつけるって。
そもそも相手の誕生日だとかクリスマスだとか、いかにもって時にプレゼントだとか告白だなんて恥ずかしくって出来やしない。
バレンタイン?
無理無理無理!!
そんなことするくらいなら清水の舞台から飛び降りた方がマシ!
って言ったら跡部に心底哀れむような目で見られた。
…ほっとけ。
でも今度こそ決めたんだから!
このまま夢で終わらせない。
決戦は、明日!!
誕生日の朝、気合入れすぎていつもより早く学校に着いちゃった。
あまりにも寒くて雪でも降りそうだなーなんて思いつつ靴を履き替えてたら大きな声に名前を呼ばれた。
振り返るとテニ部の後輩が尻尾をちぎれんばかりに振って走ってきた。
「せんぱーい!おはようございます!!」
「チョタ郎、おはよう。」
「その呼び方どうにかならないですか、ホントに。」
「だってこの方が犬っぽい。朝練の帰り?えらいねー、よしよし」
「(犬っぽい?)ハイ。先輩今日は一段と綺麗ですね!」
「ううっ、そんなことゆってくれんのチョタ郎だけよ。」
「あっそうだ!先輩、お誕生日おめでとうございます。コレ、チョコなんですけどよかったら。」
「キャ〜!!ありがとう!!あ、冬季限定のメルティだvv」
「先輩チョコレート好きでしたよね?」
「うん、大好き、嬉しいvv」
「あれ、先輩。」
「おう、ヒヨ!おはよーお疲れ。」
「どうも。ああ、お誕生日おめでとうございます。」
「えっ?ヒヨも覚えててくれたの!?」
「人の誕生日にあれだけ騒いでくだされば嫌でも覚えます。…どうぞ。」
ヒヨはあたしの手のひらに四つ葉のクローバーを乗せた。
「えっ!?」
「部活のあとに見つけたんですよ。お守りに。」
フッと笑うと、あたしがお礼を言う前にチョタ郎を引っぱって行ってしまった。
ニブイニブイと思っていたけど、もしかしてヒヨも気づいてたのかな…?
遠ざかる背中にそっとありがとうと呟いた。
「…で?結局どうすんのか決めたのかよ。」
朝、下駄箱での出来事を嬉々として語るあたしの目の前で、さらさら興味もなさそうに跡部がぼやいた。
告白するって決めたことを話したらやっとかよって顔をしたけど、こうして聞いてきてくれるあたりやっぱりいいヤツだと思う。
一生相談相手でいてねって言ったら冗談じゃねぇとはたかれたけど。
「うん!朝一で忍足のクラスに乗り込んで、帰りにケーキ食べに行きたいって言うんだ!」
「ハン?それで?」
「そういや誕生日やったなーって言ってくれるじゃない?やっぱり!」
「あーまぁな。アイツなら言うだろうな。」
「で!誕生日だから一つだけお願いっ!プレゼントに忍足が欲しい!って言う!」
「馬鹿だろお前。」
「えー!?すっごい覚悟決めて立てた計画なのに!」
「覚悟決める方向が間違ってんじゃねーの。まぁいいけどよ。やってみろよ。もう来てる頃だろ。」
「うん!行ってくるよ!」
跡部にVサインを出して教室を出ると、走って廊下の反対端の忍足の教室まで向かった。
一歩、一歩
踏み出すごとに鼓動が上がるのは走ってるせいだけじゃない。
鼓動がピークに達した頃、ちょうど階段を上がってきた忍足が見えた。
「忍足!おはよっっ!!」
「」
一瞬あたしの顔を見て忍足の表情が変わった気がした。
すぐにいつもの笑顔の忍足に戻っておはようさんと返してくれた。
何だろ?気のせいかな。
「どしたん、そんなに走って。日直か?」
「え?いやそうじゃなくて、ちょっとあの忍足にね、話があってね。」
「何や?」
「あの、さ、今日の放課後って暇?」
「放課後…?何もないと思ったけど。」
「じゃ…じゃあさ!あの一緒にケーキ食べに行かない?」
「ケーキ?ええで。」
「ホント?やった!嬉しい!ありがとう!!」
やったやった!計画第一段階クリア!!
もう満面の笑顔で忍足の手を取ってぶんぶん振ってしまう。
何か人の目が痛いけど今日だけは気にしない!
誕生日だから許されて!
振られるままになってた忍足はちょっと苦笑しながら、視線を落とした。
やっぱ気のせいじゃない?何か今日の忍足おかしくない?
「どうかした?忍足。何か今日変じゃない?」
「そんなことあらへんよ。」
「だってさっきからあたしの目、見ないじゃん。」
「そうか?でも何でいきなりケーキなん?昨日そんなTVでも見たんか?」
「え…?いや…そう…じゃないけど。」
「まぁええけどな。駅前のでええの?」
「あ…うん。」
「ほな放課後迎え行くわ。じゃあな。」
そう言ったきり、忍足はまるであたしの視線を避けるように早足で教室に入っていった。
酷く、拒絶されたような気になるのはあたしの被害妄想?
誕生日を覚えてもらってなかったことにこんなにショックを受けるのは間違ってる?
しばらくボーっとしたまま、忍足の教室の入り口近くに立ってたけど、忍足は決してこちらを見ることはなかった。
「…どうしたんだよ。」
あの跡部が眉根を寄せて心配そうな顔をするなんて珍しい。
それくらい、あたしは絶望的な顔をしていたんだろう。
教室に戻った時は始業ギリギリで、跡部はてっきり上手くいったんだと思ってたらしい。
「何でもない。」
「何でもねーって顔じゃねぇよ。バーカ。」
「ホントバカだねーあたし。…覚えててもらえてない可能性なんて考えもしなかったんだから」
机に突っ伏して重ねた腕に顔をうずめた。
授業を聞く気もない体勢。一限始まる前からいい度胸だって言われるかもしれないけどもう何でもいい。
跡部もそれ以上何も言わなかった。
顔を上げたら、教室は薄暗く、外はもう日が傾き始めていた。
教室には誰もいなくて、時計を見たら、もうHRが終わって20分は過ぎていた。
体を起こして伸びをすると、机の上からひらりと落ちた四つに畳まれたルーズリーフの切れ端。
拾い上げて開いてみると嫌味なくらい綺麗な字で、『諦めんなバーカ』って書いてあった。
悔しいくらい、嬉しくなった。
思わず滲んだ涙を手のひらで拭った時、後ろの扉が開く音がした。
「!悪い、だいぶ待ったか?」
「おしたり…」
「今日俺日直やってん。だから遅くなって…?」
もう来ないと思っていたのに何で今来るの。
泣いちゃダメだと思いながらもせり上がる思いは留めることが出来なくて、鼻の奥がツンとして思わずすすり上げる。
ヤバイと思って顔を下に向けても、重力に引かれるだけ逆効果で泣くつもりなんてないのに涙が出てきた。
「、泣いとるんか。」
「泣いてなんかないよ。」
「…スマン。」
「なんでおしたりがあやまるの。」
忍足が謝ることなんて一つもないんだよ。
あたしが勝手に浮かれて、勝手に落ち込んでるだけ。
一緒にケーキ食べに行ってくれるって言ってくれたのに、喜べないあたしは欲張りすぎたんだ。
告白する勇気もないくせに察してくれなんてムシが良すぎる。
「おしたりがあやまることなんてなにもないよ。あたしがかってにすねてるだけなんだから。」
「、あんな」
「ごめんね。やくそくわすれてくれていいから」
そう言って椅子の上でひざを抱えて俯いたあたしの頭に、何かがバサッと被せられた。
何かわからなかったけど、微かに目に映ったつばに、帽子だと気づく。
一瞬顔を上げかけたら、忍足が帽子のつばをギュッと下に押し下げた。
「顔、見いひんから、俺の顔も見ないで聞いてや。」
顔が見えないぶん、声だけで判断される忍足の様子はひどく真剣であたしは意識をその声に研ぎ澄ます。
すすり泣く声で忍足の言葉が聞こえなくなっては困るからと思わず息さえも潜めてしまう。
静まり返った教室に、時計の針の音だけが規則正しく響く。
長いようで短い沈黙を先に破ったのは忍足だった。
「…昨日、ココで寝てたやろ。」
「うん。」
「あん時、たまたま通りかかってが寝てるの見かけて。あんまりにも可愛えー顔しとったからつい」
「キスしたんや。」
「嘘…」
「スマン。寝込み襲った形んなってしもて、めっちゃ後悔したんや。だから今日はの顔まともに見れんかった。」
あたしはどうしたらいいのかわからないくらい動揺してた。
下を向いて帽子に隠れてきっと忍足には見えてないけど、自分でもわかるくらい赤面してる。
昨日うたた寝してたときに見た、忍足にキスしてもらう夢。
あれ…あの感触は夢じゃなかったの…?
「ホンマごめん。でもいい加減な気持ちでしたんとちゃう。」
「……」
「…お前が好きや。」
顔を上げたあたしは相当ひどい顔をしていたと思う。
泣きそうで嬉しくて驚いてて信じられなくて。
そんなあたしの目には少し罪悪感を感じたような、不安げな表情の忍足が映る。
待って、違うよ、ごめんね言わせて。
「あたしも忍足が好き。」
……やっと言えた。
2年半溜め込んだ思いを吐き出して、胸の支えが取れたような感覚を覚える。
驚いたような顔をして動かない忍足の顔をそのまま見てるのが気恥ずかしくて思わず俯く。
恐る恐る手を伸ばして、隣に立ってる忍足のシャツの端を少し握らせてもらったら、大きな腕にくるまれた。
華奢だと思ってたその体は、ずっとずっと逞しくて強かった。
耳元で微かにありがとうと聞こえて、涙が出そうになった。
「、誕生日、おめでとう。」
「知ってたの?」
「…泣きぼくろの鉄拳で思い出したんよ。ずっと覚えてたし手帳にもずっと前から印ついてたんに、昨日のあれで全部飛んでしもた。」
「ずっと覚えててくれたんだ。」
「当たり前や!ずっと前から好きやったんやで。その帽子かて、にやろ思ってだいぶ前から用意しとったんよ。」
「コレ、あたしに?」
そう言われて初めて手に取った頭の上の帽子は、レモン色の毛糸で編まれたキャスケットだった。
いつだったかテニ部の皆で遊びに行った帰りに見かけたそれにとてもよく似ていて、あんなの欲しいなぁなんて言ったことを思い出す。
そんなちっぽけなことまでちゃんと覚えていてくれたんだね。
あ、ヤバイ、また涙出て来そう。
「ありがとお…」
「傷つけてゴメンな。ケーキ奢るから。」
「半分コしようね。」
「ええよ。」
「もいっこ、お願いしてもいい?」
「何や?」
「昨日の、あたし夢だと思ってたから、その…ちゃんとしてもらっても…いい?」
「…大歓迎や。」
忍足はようやく嬉しそうに笑顔を見せて、涙でグチャグチャのあたしに降るようにキスをくれた。
その髪からは夢と同じ香りがして、ドキドキが止まらなかった。
お犬様を大事にしたからか、
ヒヨのお守りのおかげかはたまた跡部大明神様のご利益か。
ううん、夢を夢のまま終わらせずにすんだのはやっぱり忍足のちょっとの勇気。
いっぱいのありがとうと一緒にずっと大事にすると誓うよ。
あたしたちは手を繋いで、坂道をケーキ屋さんへと向かった。
…end
【反省と言うよりむしろ言い訳】
なんか…逆ハー?(笑)ヒヨまで出て来てますしね。
シリーズ通して初めて、片思いのお誕生日にチャレンジしてみました。
プレゼントの渡し方も変化球で。こういうのも結構萌えかなぁなんて。
片思いの忍足夢ではやっぱり跡部さまが欠かせませんね!(笑)
2月生まれの皆様、お誕生日おめでとうございますvv
2004.01.29
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