私が生まれてきたことに


君が生まれてきたことに


世界で一番感謝する日。

 

 

Because you are here  -November-

 

 

カサカサ…
乾いた音を立てて、落ち葉が風に踊る。
赤や黄色に色づいた葉がこすれあうたびに立てるその音が好きだ。
ローファーの足で踏んでみると、パリリッとこなごなになる。
澄んだ高い空。
ピンと張りつめたような空気。
頬を撫でるひんやりと冷たい風。
こんなにもドキドキするのは何でだろう?

「こんな寒いときにわざわざ公園に来なくてもいいだろう。」

低くて落ち着いた声が耳に届く。

「寒いからいいんだよ。」

振り返って笑ったあたしに、手塚は釈然としない顔を向ける。
夏が終わるまでずっとテニスにばかり向けられていたその瞳が、あたしを映してるのが嬉しい。
飽きるほど一緒にいてくれるのがとても嬉しい。
こんなに胸が高鳴るのは、手塚が側にいるせいだ。

スキップするように銀杏並木をくぐりぬけて
公園の桜の木の下にあるベンチにぽすっと座って手塚を手招きすると、ちょっと苦笑しながらもあたしの隣に腰を下ろした。
手塚が手渡してくれたコンビニの袋から、肉まんとホットミルクティーを取り出す。
ミルクティーと肉まんから、じんわりと温かさが指に伝わる。
あたしこの瞬間がすごく好きなんだ。
ぱふっとかじりつくと、熱い肉汁が出てきた。

「んーおいしーい。」

思わず顔がほころぶ。
我ながら単純だとは思うけど、やっぱり寝てるときと食べてるときが一番幸せだなぁ。
肉まんを持ったままミルクティーに手を伸ばすと、手塚が缶を開けて渡してくれた。

「ありがとう、手塚」
「本当には美味しそうに食べるな。」
「そっかな?だってホント美味しいんだもん!」

ニコニコしながらまた肉まんを頬張ると、手塚も自分のコーヒーを開けて飲みだした。
せっかくのあたしの誕生日だからどこかへ行こうかと言ってくれた手塚に、公園で肉まんが食べたいと言ったあたし。
手塚につまらなさそうな顔をされた。
夏までなかなか時間が取れなかった分、引退した今あたしとの時間をいっぱい取ろうとしてくれてる手塚。
その気持ちがすごく嬉しいから、思いっきり甘えてる。
だって公園でぶらぶらなんて、忙しいときには時間がもったいなくて出来なかったもの。
それに憧れてたんだ。
秋の公園。
あったかい肉まんとミルクティーがあって
綺麗に紅葉した木の下で、大好きな手塚と二人きり。
それだけでこんなに幸せになれるんだよ。
あー、なんか鼻歌でも歌いたい気分だ。

「ご機嫌なんだな。」
「えへへー。手塚とこうやってしてられるのが嬉しいんだもーん!」
…」
「あっ!どんぐりっ!!」

足元にどんぐりの実を見つけて、すかさず身を屈めて拾う。
つやつやで小さくて可愛い。
指でつつくと手のひらの上でころころと転がる。
よく見るとすぐ側にあったクヌギの木の実らしく、辺りにいっぱい落ちている。
わー!わー!
こんなにいっぱい!
なんだか無性に嬉しくなって
あたしは駆け回ってどんぐりを集めた。
だって何か好きなんだもん、どんぐりって。
昔、いっぱいつなげてペンダントにしたなぁ。
ちょっと懐かしくなりながら、落ち葉の中に光るひとつぶに手を伸ばしたとき、あたしは後ろから手塚に抱きしめられた。

「少しくらいじっとしてられないのか?」

ちょっと呆れたように。
ため息とともに耳元に囁かれる低い声。

「せっかく二人きりなのに、ろくに話も出来ん。」
「ごめん…なさい」
「いや…悪い、そうじゃない。責めてるんじゃないんだ。…これを」

手塚がかばんから包みを取り出す。
落ち着いた色の和紙に包まれて、細い紐で閉じられている。
見るからに手塚の趣味のよさが伺えた。

「もっとすんなり渡したかったんだがな。」
「これ…あたしに?」
「今日、誕生日だろう。おめでとう。」
「ありがとう…!」

手塚に抱きしめられたまま、がさごそと包みを開ける。
と、中から色とりどりのお香と、お香立てが出てきた。

「渋いね。」
「お前は落ち着きがない。いつもせわしなく動き回ってばかりだ。だからすぐに怪我をするしよく転ぶ。これで少し落ち着くことを覚えてくれ。俺も身が持たん。」
「だからお香なの?」
「…たまにはゆっくりと時間をとって過ごすことも必要だからな。」
「ありがとう。ね、今これつけてみてもいい?」
「構わんが…ここは外だぞ?」
「いいの!すごくいい香りするから、ちょっと焚いてみたいんだ!」

あたしのおねだりに手塚はするっと腕をほどく。
ベンチに戻ってお香立てに一本お香を立てると、あたしは持っていたライターで火をつける。

「何でそんなもの持ってるんだ?」
「今日、手塚がお香をくれる気がしたから。」

なんてね。
ホントは担任から取り上げたヤツなんだけど。(だってあたしの前で煙草なんて吸う方が悪い)
でも手塚は半分信じきってるから、これは内緒。

お香からゆらり、煙が昇る。
ほのかにその香りが届く。
昔の人は着物にお香を焚き染めたと言うけど、その気持ちがわかる。
だってすごくいい香りで、気持ちが落ち着く。
この香りをまとっているだけで、自分が洗練された、上品な女性に思えてくる。
いい香り…

「いいね、お香って。自分で焚いたのなんて初めてだけど、すごくいい。」
「そうだろう。ならきっと気に入ると思った。」
「なんかすごく物思いにふけりたい気分。」
「秋だからな。」

そう言った手塚が嬉しそうに笑うから。
あたしはまたドキドキしてしまう。
きっとこのお香を焚くたびに、手塚を思ってドキドキするんだろうな。

お香のくゆりが消えるころ
空が茜色から紫へ移っていきだした。
風が少し冷たくなった。
それまで何気ない話をして過ごしていたあたしたちに、一瞬ふっと会話がなくなった。

「寒くなってきたな。そろそろ帰ろうか、

まだ帰りたくない。
もう少しだけこの空気を一緒に感じていたくて。
あたしは突拍子もないことを言い出した。

「手塚、かくれんぼしよう!」
「なんだって?」
「かくれんぼ!手塚が鬼!十数えてる間にあたしが隠れるから、見つけてね!」
「しかしもう暗くなってきたから…」
「手塚があたしを見つけたら帰る!ほら、早く目つぶって十数えて。」

言うが早いかあたしは駆け出した。
しぶしぶ目を閉じて数えだした手塚の背後にこっそり忍び寄って、その後ろの茂みにそっと隠れる。
あたしを必死で探す手塚なんて、想像しただけで楽しくなっちゃう!

目を開けたらしい手塚が、ベンチから立ち上がった。
ゆっくりと歩き出す。
さあ探しだして。あなたのちゃんはここよ。
茂みの間から様子を伺ってると、視界から手塚が消えた。
あれ?

「見つけた。」

頭の上から空気を振るわせて低い声が響く。
見上げると、手塚の笑顔があって。
その大きな腕にあたしは軽々と抱え上げられていた。

「えぇ!?何で何で!?あたしものすごく静かに隠れたのに!」

納得いかなくてキャンキャンわめき散らすあたしを地面に下ろすと、手塚がチュッと口づけた。

「さっきのお香の残り香がから薫ってきたんだ」

勝ち誇ったようにそう微笑んで、あたしの手を引いて歩き出した。
自分ではわからないその残り香を手塚が気がついたことに驚いて、しばらく唖然としてしまう。
やっぱり適わないんだなぁなんて思いながら、それが幸せだと思う自分が愛しい。
その声も雰囲気も、全てが秋に似合う人。
腕に腕を絡ませてしがみついたら、あたしを見下ろして微笑んだ。

「誕生日おめでとう。」

このお香を焚くたびに、あたしはこの人を思う。

 

…end




【反省と言うよりむしろ言い訳】


不完全燃焼。
もっと秋らしい雰囲気の素敵な日を演出したかった。
シチュエーションに負けてしまったきらいがあります。
私は手塚は秋が似合う人だと思いますが、どうですか?
11月生まれの皆様、お誕生日おめでとうございますvv

2003.10.31