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幼馴染というのは友達以上で恋人未満
でもその信頼関係はきっと恋人以上家族未満
どうしてヤキモチを妬かずにいられましょうか?
そんな乙女の胸の内
私の隣のクラスに今とても気になる人がいます。
ちゃんと言う、合唱部に入ってる子。
物怖じしなくて、すらっとしていて、すごく素敵な女の子。
先生とも気さくに話せるし、誰に対しても明るく話しかけられる。
喜怒哀楽がはっきりしてて、くるくる表情が変わって、見ていて全然飽きない。
誰から見てもきっと魅力のある子なんだと思う。
…いえ、彼女のことが気になるというのは別に私がちゃんのことを好きだとかそういう意味じゃなくて。
ちゃんが私の好きな黒羽くんの幼馴染だからなのです。
一ヶ月前。
私が所属する女子テニス部は別の中学校に遠征しての練習試合があった。
その試合の帰り道、私は試合相手の学校の男の子にデートしようって誘われた。
ひたすら断ってるのにその男の子はしつこく絡んできて、
運悪くその場には他に助けてくれるような人もいなくて
もう泣きそうになった。
私は男の子と話すのもあまり好きじゃないし、ナンパとかホントに嫌いなのによく絡まれる。
同じテニス部のみんなはモテて羨ましいって言うけど、私にとっては苦痛でしかない。
掴まれた手が痛い。気持ち悪い。イヤだイヤだイヤだ。
どうして私なんだろう。どうしていつも私がこんな目に遭わなくちゃいけないんだろう。
ムダだと思いつつも、何度目かの断りの文句を口に乗せかけた時だった
「嫌がってんだからやめとけよ。」
私の後ろから声がして、半泣きで振り向いたらそこに黒羽くんが立っていた。
私の手を掴んでいた男の子の腕をパシッと払う。
逆上して黒羽くんに絡みかけた男の子をさらりとかわすと、私の手を引いて走り出した。
握られた手に、不思議とあの男の子に感じたような不快感はなかった。
走って走って、六角の近くのコンビニまで来た。
黒羽くんは息を切らした私にポカリの缶を手渡すと、自分もポカリの缶を開けて一気に飲み干す。
「ごめんな、走らせちゃって。でもあそこでケンカになったらマズイと思って。」
「ううん…ありがとう。」
「だよな?大丈夫?怖くなかったか?」
「…うん」
大丈夫だよと、そう言いかけたのに、私の目からは涙が滲んでしまっていて 一度緩んだ涙腺は戻らず、その涙は瞬きをしたら零れてしまいそうなくらいで
下を向いてぎゅうっと目を固く閉じて堪える。
これくらいのことで泣くなんてどうしようもなく恥ずかしい。
必死に堪えて笑顔を作って見せようと思ったら、黒羽くんにポンポンと頭を軽くたたかれた。
「別にいいよ、泣いても。俺で隠れるし、俺も見ないでおくからさ。」
「黒羽く…?」
「女の子だもんなー。そりゃ怖いだろうって。」
そう言って笑った黒羽くんの顔がすごく優しくて、すごくすごく安心して
私はもう堪え切れなくて泣き出してしまった。
大きな黒羽くんの影にすっぽり私は隠れて、ずっとそのシャツの端を握り締めたまま泣きじゃくった。
怖かったんだよなって言ってくれたのが嬉しかった。
泣いても良いよって言ってくれたのが嬉しかった。
だってだって今まで誰もそんなこと言ってくれなかったから。
はモテるからそんな贅沢なことで悩めるんだなんて言われてもちっとも嬉しくない。
好きでもない人にしつこく絡まれても嬉しくない。
好かれることは悪い気はしないけど、でも絡まれたりナンパされたりするのはわけが違う。
でもそんなこと言ってもみんな私に同情してくれはしなかった。
だから黒羽くんの「泣いても良い」って一言が救いに思えた。
その一件以来、私の黒羽くんに対する目はすっかり変わった。
それまではただ同じクラスの男の子っていうだけだったし、どっちかというとちょっと取っ付きにくそうな印象を持っていた。
でも、実は私が怖がるのを気遣ってケンカしなかったのだとか、そのくせちゃんとあの人の生徒証をくすねていて、あとでキッチリ学校側にシメてもらっていたりだとか。
色々話をしてるうちに、正義感が強くて思いやりのある、とても良い人なんだと知った。
テニス部の話をするときは、とてもキラキラしててカッコよかった。
自分がロマンチストだとは思ってなかったけど、あの日をキッカケに私の目は気づけば黒羽くんを追いかけるようになっていた。
でもたくさん話をして、黒羽くんを目で追ううちに知ってしまった。
ちゃんのことを。
二人は家もお隣同士で幼稚園からずっと一緒らしい。
もう家族ぐるみのお付き合いなんだとか。
ちゃんは黒羽くんのことをバネちゃんと呼び
黒羽くんはちゃんのことを呼び捨てで呼ぶ。
黒羽くんは落ち込んでるちゃんを慰めるのがすごく上手だし(5分とかからない)
ちゃんはときどき黒羽くんにお弁当を作ってくる。
誰が見たって二人はものすごく仲良しだし、むしろ付き合ってるんじゃないの?って思う。
でも、おさななじみ。
ヤキモチを妬いてしまう私がどうかしてるみたいですごく嫌になる。
そもそも私は黒羽くんの彼女ですらないのに。
幼馴染ってなんなんだろう。
ずっと同じ時を共有してたから信頼関係が芽生えるのはわかる。
でも中学生になってもこんなに仲が良いことってなかなかないよね。
それを思うと、やっぱり、黒羽くんとちゃんの関係が特別なんだって思い知らされる。
わかってる、ちゃんが佐伯くんと付き合ってることだって知ってる。
でも不安になる。
ちゃんは違っても、黒羽くんはちゃんのことが好きかも知れないじゃない。
だって黒羽くんはちゃんを見るとき、とても優しい目をしてる。
あんな顔、他の誰にも向けない。ちゃんにだけ。
そして黒羽くんはどんなに仲が良くなっても決して私の名前を呼び捨てでは呼ばない。
やっぱり、ちゃんだけなんだ。
* * * * *
「…ごめんね。ちゃんと帰るんだったんでしょ?」
「いや、いいよ。ちゃんの話、俺も興味あるからさ。」
私の隣で佐伯くんが優しく笑った。
佐伯くんは隣のクラスでちゃんの彼氏。
テニス部の副部長をやっていて、委員会が私と一緒。
一年の時は同じクラスだったのもあって、それなりに仲は良かった。
私が黒羽くんに恋してることを知ってる唯一の人。
だから、ちゃんには内緒で話をさせて欲しいと頼んだ。
ちゃんと佐伯くんの仲を羨んで引き裂こうなんて考えてたわけじゃなくて、ただ純粋に、話が聞きたかった。
「それで、今日はどうしたの?」
「佐伯くんは、ちゃんと黒羽くんが仲が良いのは気になったりしない…の?」
「え?」
「私は、すごく不安になるの。ちゃんと黒羽くんが仲が良いこと。幼馴染だってわかってるんだけど、でも、変な風に勘ぐっちゃうんだ。……私っておかしいよね。嫌な子だよね。」
「そんなことないよ。ちゃんはすごくバネのこと好きなんだね。」
コクリ、頷いた。
佐伯くんの顔をまともに見られなくて思わず俯く。
ただの幼馴染だって言ってる子にまで嫉妬してる自分が情けなくて、余裕のない自分がみっともなくて。
しかもその子にはこんなに素敵な彼氏がいるのに?
「ちゃんが羨ましいな。」
「ちゃん。」
「黒羽くんにも佐伯くんにも大事にされてるし、いつも自信に溢れててカッコイイ。私はこうして黒羽くんとちゃんの仲のよさにまで嫉妬して、醜くて…嫌になりそう。」
「俺だって余裕ないよ。」
「…佐伯くん?」
「ちゃんと一緒。俺も余裕ないよ。いっつもバネとの事気にしてホントいっぱいいっぱい。」
「佐伯くんも?」
「仲良いじゃんか。だから俺の出る幕ないなーなんて、ちょっと僻んだりもしちゃったり?」
「そうなの?」
知らなかった。だって佐伯くんいつも澄ました顔して二人のやりとりを見ていたから。
佐伯くんはちゃんのこと信じてるんだ、すごいなあって思ってた。
「のこと、信じてないわけじゃないんだけどねぇ…」
「うん、なんとなくそういう気持ち、わかる。」
「俺達、あの二人のこと好きすぎなんだよなぁ。」
「そうなのかもねぇ…」
何だかちょっと安心したなんて言ったら怒られちゃうかな。
でも、佐伯くんも嫉妬してたなんて意外だったし。
私のこの心の余裕のなさは、黒羽くんに恋するが所以。
「好きすぎて困っちゃうね。」
そういうこと、なんだなと思った。
醜い事に変わりはないんだけど、ちょっと心が軽くなったのはどうしてかな。
私だけじゃないってわかったから?
「佐伯くん、ありがとう。」
「どういたしまして。俺も、同じ考えの子がいてちょっと安心。何だろう、俺が特別心が狭いってわけじゃないのがわかったからかな。」
「私もそう思ってた。」
「告白、しないの?バネにさ。」
「自信、ないんだけど。」
「じゃあ協定結ばない?ちゃん。」
「協定?」
「俺はをずっと大切にする。その代わり、ちゃんはずっとバネを大事にする。」
「えぇ!?無理無理!だって佐伯くんたちと違って私たちは別にただのクラスメイトで!」
「でもバネはもともと彼女いないし。きっと今この世の中でちゃんが一番バネのこと好きだと思うから。」
これから先、俺がを独占する代わりに、ちゃんがバネの側にいてやって。
そう言って笑った佐伯くんの言葉に、私は涙が滲んできた。
黒羽くんの気持ちなんか他所に勝手に結ばれた協定だけど、私たちの心を支えるには十分すぎた。
佐伯くんが言った言葉に、最後の勇気をもらった気がした。
* * * * *
「黒羽くん、ちょっと時間もらってもいい?」
「あぁいいよ。俺もちょうどに話したいことあるから。」
掃除が終わった教室で、部活に行きかけた黒羽くんを呼び止める。
黒羽くんも笑顔で了承してくれた。
誰もいなくなった教室。遠くから野球部の掛け声が聞こえる。
ここにきて、心臓がバクバクいって緊張が一気に体を駆け巡る。
だめだよ、ここで逃げ出したら!
両手をぎゅうっと握り合わせて勇気を振り絞る。
昨日、佐伯くんにもらった言葉を支えにして。
前を、向いた。
「…黒羽くんが好きです。助けてもらったあの時から、ずっと。」
泣いてもいいよって言ってくれた瞳が。
ポンポンって頭をたたいた大きな手が。
その優しさに、心を惹かれました。
たとえあなたがちゃんのことを好きだとしても。
いつか私が代わりになれるかもしれないと、夢を持っていてはいけませんか?
ぽっかり空いたその隣を埋めるのは私でありたいと願ってはいけませんか?
やっと吐き出した思いに胸がドキドキして苦しくて、大きく息をしながら黒羽くんの様子を窺う。
黒羽くんは固まったまま、動かない。
私もこれ以上どうしたらいいのかわからなくて、動けない。
時計の針の音だけがやけに大きく耳に響いて、私の心臓の音とシンクロする。
耳鳴りがしそうだった。
と、黒羽くんがゆっくり口を開いた。
「って…サエのことが好きなんじゃないの?」
「はい?なっ何でそういうことに?」
「いや、昨日が二人が帰るところを見たって…」
「えぇ!?」
思いもかけない黒羽くんの台詞に私は目を白黒させた。
嘘!ちゃんに見られちゃってたの?
黒羽くんに相談したってことは確実に何か誤解があるんだよね…
二人の仲を壊すつもりなんて毛頭ないのに変な風に誤解されてたら佐伯くんに謝っても謝りきれない!!
わーわーどうしよう!
「あの、それでちゃん怒ってた?佐伯くんと別れるとか言ってなかった?」
「いや、その…すごくへこんでた。」
「やだ!どうしようごめんなさい違うんです!あぁもしかしてそれで黒羽くん私に話しがあるって言ってたの?ちゃんを悲しませるなって?ごめんなさいそうじゃないのホントにごめんなさい!!」
「え?いやあの…」
「昨日はたまたま佐伯くんに話を聞いてもらってて。ちゃんと黒羽くんが仲が良くて私ヤキモチばっかり妬いちゃってて自分が嫌になるくらい毎日そればっかり気になってて、だからちゃんのことを好きな佐伯くんはどうなのかなって思っててそれで相談に乗ってもらったんです!ちゃんから佐伯くんを取ろうだとか全然思ってないです。ホントごめんなさい…」
「あの、違うからちょっと落ち着いて聞いてくれないか?」
「…ハイ。」
あんまりにも取り乱していらないことベラベラ喋りすぎちゃったのかもしれない。
黒羽くん呆れてるかも。いや、多分呆れてる。っていうか怒ってるかもしれない。
私ってホント男の子と上手く話せないんだから嫌になる。
視線がだんだん下に下がってきて床とごっつんこ。
あ、どうしよう涙でてきそう。
「ごめんなさい、あの、静かにしてますので。どうぞ。」
「そうじゃないんだって…悪い、上手く言えないんだけど。」
「ハイ…。」
「え?、泣いてる?」
「…いいえ。泣いてない…です。」
「違うんだって、だからその…!あぁもう!!」
すごくもどかしそうに頭を掻いて(多分)黒羽くんが私の腕を掴んでめいっぱい引っ張った。
ちょっと乱暴に引っ張られた私はそのまま思いっきり黒羽くんにぶつかって鼻を打った。
一瞬後ろに退きかけた私の体は黒羽くんの力強い両腕の中に閉じ込められて身じろぎひとつ出来なくなってしまった。
息も出来ないくらいきつくきつく抱きしめられて、酸素不足の頭では現状を理解するには至らない。
「俺もが好きだ。」
頭の上で掠れたように響く黒羽くんの言葉に私の世界が停止した。
今なんて言ったの…?
上を向きたくても黒羽くんの腕が強くて動けなくて。
唯一動いた腕でその肩の辺りをほんの少し引っ張った。
黒羽くんはハッとしたように腕の力を緩めて、でも決して私をその腕の中から逃がしはしなかった。
「マジで、ありがとう。が俺のこと好きだって言ってくれてすごく嬉しかった。」
「黒羽くん」
「絶対大事にするって約束するから、ずっと俺の側にいてくれますか。」
夢じゃないかな。
ずっとずっと憧れてた人がこうして私に告白してくれてるなんて。
黒羽くんの真摯な瞳をしっかり見上げて、私は大きく頷いた。
「はい。私も黒羽くんのこと、大事にします。だから側にいてください。」
「喜んで。」
ギュッてもう一度抱きしめられた腕は、あの日と変わらず優しかった。
嬉しくて嬉しくて、涙が出た。
明日になったらちゃんとお話してみよう。
それから佐伯くんにもお礼を言わなきゃ。
ね、佐伯くん、協定成立だね。
…end
【反省と言うよりむしろ言い訳】
誰ドリですか。サエの逆襲でしょうか。怖ろしい。
一応、『そんな僕らの胸の内』と対になるお話として書きました。
ややこしくてごめんなさい。
可愛い系のヒロインなんて久しぶりです。でもなんで可愛いだけで終われないのかな。このテンパりぶり。
普通にサエ×ちゃん、バネ×ちゃんで書きたくなったのはナイショです。
そしてこれじゃバネが南じゃないかと思ったのもナイショです。
あーもっとストイックなのが書きたいです。
2004.02.05
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