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昨夜からの雨は朝にはみぞれに変わった。
いつもと同じクリスマスのはずが
今年は少しだけ違った
例えばこんな聖誕祭
「あれ?まだ来てへんの?」
家に来た忍足が開口一番そう言った。
コートやマフラーについたみぞれ粒を払いながら部屋を見渡す。
すっかりクリスマスパーティの準備がなされた部屋にはいつものレギュラー陣の顔しかない。
「何言ってんだ。お前が連れてくるんじゃなかったのかよ。」
「せやかて迎えに行ったらお父やんが出て、もう出かけたーて言わはるから、てっきりもうこっちに着いてるんやと…」
「来てねーよ。来てたら真っ先にそこで遊んでんだろ。」
「あー…そうやな」
「あー!やっと来た侑士ー!!こっち来いよー!!」
「おしたりー!手伝って〜!!」
顎で指し示した先では、ジローと岳人がギャーギャー言いながら大きなツリーに飾りつけをしている。
チビばっかりの飾り付けメンバーに呼ばれて、忍足は着いたばかりだというのに岳人やジローを順番に抱え上げては飾り付けを手伝わされてる。
全く手伝う気のない俺は座ってそれをただ眺める。
アイツがいたら一番上の星をつけるって大騒ぎしてるだろう。
一番チビのクセにな。
「しかしどこで寄り道してんのやろなぁ?チャンはー」
「知るかよ」
「なー跡部、迎えに行ったってや。」
「何で俺が行かなきゃなんねぇんだよ。」
「やってがどこで遊んでるのかなんて見当つかへんし。おちびちゃんたちの相手もあるし。」
「俺だって知らねぇよ。」
「そんなことないやろー。一緒に特売コーヒー買いに行く仲やん。肉じゃがごちそーんなったり、なぁ?」
「…フン…あんなん気まぐれだ。別に意味なんてねぇよ。」
「冷たいなぁ、跡部は。俺らのお姫さんが寒い中迷子になってたらかわいそーやと思わへんの?あー、可哀想やなあ、ちゃん。凍えて泣いてたらどないしよ。」
「そういやアイツひどい方向音痴だったな…この間もうちで迷子になっ…」
そこまで口にしてハッと気がついたがもう遅かった。
いつのまにか近づいていた忍足がニヤニヤ笑いながら俺を見下ろしてくる。
「ほぉぉ…この間ここに遊びに来たんかー。わざわざマンションの方やのうて実家になぁ?」
「えー!えー!何それ跡部!いつの間にお前らそーゆーことになってたんだよ!!」
「うるせっ…そんなんじゃねぇ!」
「もう親に紹介する仲やったんか。それなのに俺らに内緒なんて水臭いなぁ。」
「してねーよ!」
「じゃあ今日!?今日紹介すんのか!?わーすげー!!」
「あとべカッコEー!」
「早う迎え行ったれや、跡部。」
「お前ら…違うっつって…」
「失礼します、景吾様。お申し付けになられたインスタントコーヒー、こちらでよろしいのですか?」
……タイミング最悪だ
「景吾様?」
「出かける。そこ置いとけ。」
椅子にかけてあったコートとマフラーを掴んで無言でドアを閉めると、ドアの向こう側から大爆笑が聞こえた。
……てめーら、あとで覚えとけよ。
外に出ると冷たい北風が肌を切る。
みぞれはすっかり雪に変わって、街を白く染める。
俺はコートのポケットに手を突っ込んだまま憮然として歩いた。
別にに対して恋愛感情を持ってなどいない。
買い物に付き合ったのはただの気まぐれで(だいたい半分は騙されたようなモンだ)
家に呼んで紅茶を飲ませたのはメシの礼代わりだ。
深い意味なんてない。
そう、自分と全く違う世界で生きてるアイツにちょっと興味がわいただけのこと。
こうして捜してるのだって、マネージャーだったアイツに凍死されたら寝覚めが悪いからってだけだ。
…つーかマジどこにいるんだあのバカ女!!
コロコロ…
俺の家からバカ女の家までの最短ルートを適当に歩いて…五分くらいか。
足元にテニスボールが一つ転がってきた。
何気なくそれを拾って、ぐるっと視界をめぐらす。
イライラしながら歩いたせいで気がつかなかったが、いつのまにかストリートテニス場の近くまで来ていた。
「すいませーん!!」
小学生ぐらいのガキが手を振って階段を駆け下りてきた。
ボールを渡してやったら嬉しそうに笑ってまた駆け出す。
何であれくらいのガキはああも無意味に嬉しそうに笑うのか。
覚醒した時のジローのように、純粋になにかを楽しんでいる顔だった。
「ねーちゃん!ボール取って来た!」
姉弟で遊びに来てんのか。
クリスマスに姉弟でテニスってのも、何か微笑ましいもんだな。
「よーしえらい!今誠の見てるから、そこで待っててー」
「おう!」
……この声は…?
「誠、もっとしっかり振りぬいて!」
「こう?」
「そうそう!いい感じ!」
………何をやってんだ…アイツは。
階段を上がってコートを見れば、案の定、俺の捜してたバカ女が子供と一緒にテニスをしていた。
プレイしながら子供に声をかけて、フォームを直しているようだ。
俺の記憶が確かなら、アイツはマネージャーだった気がするのだが。
そしてアイツは一人っ子だったはず。
お前、何やってんだよ?
声をかけようと一歩足を踏み出したが、そのまま俺は足を止めた。
はさっきの子供と変わらない満面の笑顔でボールを追っていた。
振りぬいたラケットの先で、雪が粉になって舞う。
子供がなかなかいいフォームを見せた時は本当に嬉しそうに笑って、大声で誉めそやした。
ああ、やっぱりコイツはどこか違うのだと
いつも何かに全力投球できるヤツなのだと
そう思っていた。
ら、
「うわっ!」
コードボールに飛びついたが
ズベッ
……転んだ…顔面から
「いったぁー」
「ねーちゃん、だいじょうぶか?」
「ぶっ…く…ははははは…!!!何やってんだよ、お前。」
「えっ!?跡部?」
「あーあ、鼻擦りむいてんじゃねえか?鈍くさいな。」
「げっ、マジで?」
そう言えばヒリヒリするかもー!とか叫びながらが鼻の頭を押さえる。
が、二人の子供が両側から心配そうに覗き込むと、ぐりぐり撫で回して大丈夫だと笑った。
「ねーちゃん、このにーちゃんだれ?ねーちゃんの恋人?」
「ハッ、俺がコイツの恋人なわけねーだろ?」
「そうよ、このお兄ちゃんはね、跡部サマと言って二百人の部下をこき使って高台に君臨する俺様なのよ。近寄ると食べられちゃうから気をつけるのよ。わかった?」
「てめぇ適当なこと吹き込むんじゃねぇよ。」
「当たってるじゃん。俺様だし。」
「にーちゃんもテニスするのか?」
「ああ、そうよ!このお兄ちゃん、性格は最悪だけどテニスの腕はいいからコーチしてもらおうか!ね!」
「うん!!」
「おい待て、勝手に決めんな。」
「何で?ラケットならあるよ、ほら。」
そういう問題じゃねえと言いかけた俺の袖を、誠と呼ばれた子供がくいくいと引っぱった。
「あー?何だお前。」
「ねーねー!兄ちゃん強いの?ジャックナイフ打てる?」
「アーン?打てるに決まってんだろ。」
「わー!教えてー!!」
「こらこら、誠、俊、キミたちはまず基本からでしょ?いい?上手いヤツは基本を大事にしてるんだよ。地味だけど大事なことなんだから。」
「…わかった。ねーちゃんがそう言うなら、また今度にする!」
「じゃ、にーちゃん一緒にやろー!」
駆け出してコートに入って早く早くと急かすガキらを見ると、これ以上文句を言ったら俺の方がガキのように思えて。
仕方なくからラケットを受け取った。
子供相手に指導テニスなんてバカバカしいと思っていたが、実際はそうでもなかった。
飲み込みも早ければ上達も早い子供たちは一球打つごとに、少しずつだが確実に成長している。
それを自分のラケットで受けることは予想以上に気分が良かった。
相手の子供たちも、自分のテニスが変わっていくのがわかるのか、見ているこっちも思わずつられてしまうくらい、嬉しそうに笑う。
いつの間にか、すっかり楽しんでいる自分に気がついた。
「すっげー!兄ちゃんすげー上手いのな!!」
「うん!おれたち二人相手に一人でずーっとやれるんだもんな!」
「当たり前だ。俺様を誰だと思ってるんだ、アーン?」
「「跡部サマー!!」」
声をそろえて叫んだ子供たちに一瞬虚をつかれたが、わかってんじゃねーかと言って撫で回してやった。
ガキはそんなに得意ではないが、今日は不思議とごく普通に扱えた。
二人が帰るときも、また遊んでやると約束してやれたほどだ。
コイツがいるせいか、いつもの俺のペースが崩れていく。
だが、決して嫌な崩れ方ではなかった。
「はー寒い。子供って元気だよねー。」
「ババくさいこと言ってんな。オラ。」
「あ、カフェオレだー!ありがとー!」
冷えきった手に熱い缶コーヒーが心地良い。
痺れるような感覚を覚えつつ、一口飲むと全身に熱が伝わる気がした。
ふっと吐いた息が白く空気に溶ける。
「何でこんなとこに居たんだよ。」
「うん、あの子たち、近所の子なんだけどさ、テニスやろうって言うから。」
「お前に教えを請うとは最悪の人選だったな。」
「失礼な!これでも一年生とかの相談受けてたんだよ!フォームチェックとか色々と!」
「あーそうかよ」
「きぃぃっ!信じてないな!ちゃんのティーチングセンスを!!」
ムキーとか叫びながらヤケ酒のようにカフェオレを飲むに、
さもバカにしたように笑って見せた。
わかってんだよ、そんなことくらい。
お前が二人に言った言葉は、そんなお前じゃなきゃきっと言えなかっただろうからな。
「早く帰らねーとあいつらがうるせぇな。」
「あ。もうそんな時間?すっかり忘れてた!」
「チッ…やっぱりかよ。だいたいその格好なんなんだよ。セーターにジーンズって。色気ねえな。」
「あたしにそんなのを求めないでくだサイ。いいじゃん、どうせいつものメンバーでしょ?」
「まあな。さて、行くか。」
空になった缶をくずカゴに投げ入れて立ち上がる。
やっと温まった手をまたポケットに入れて歩き出す。
きっとあいつら、待ちきれずに始めてんだろうな。
大好物のケーキがボロボロに崩れてたらコイツが泣くだろうから、ケーキだけはまだ食べんなって言っとくか。
そう思ってポケットの中の携帯を掴んで出しかけた手を、が引っぱった。
「跡部!今日はありがとね、テニス付き合ってくれて!」
「あー?別に…」
「すごく楽しかったよ!二人ともすごく喜んでくれたし、あたしもすごく楽しかった。」
そう言ってはいつものようにニカッと笑った。
あのくったくのない笑顔。
擦りむいた鼻の頭は真っ赤で、寒さで手も頬も真っ赤で。
色気の欠片もないようなヤツの、子供のような笑顔なのだけれど
俺はこの顔が嫌いじゃなかった。
ふっと笑い返すと、の鼻の頭を指ではじいてやった。
「アイタッ!」
「早く帰んぞ。ツリーの飾りつけ、終わっちまうぜ?」
「あー!ヤダー!!一番上の星、あたしがつけるって決めてるのに〜!!ジロちゃん付けちゃってた?ねえ、跡部!」
「さあな。」
「うわーん!ヤダヤダー!早く帰る〜!!」
俺の袖を掴んだままぶんぶん振って騒ぎ立てるを見て、笑いたくなった。
ホント思ったとおりのことしてくれやがる。
ま、そうじゃなきゃお前じゃねえよな。
「よっしゃ、跡部、ここから家までダッシュよ!急いで帰ってジロちゃんから星を奪取よ!」
「つまんねーダジャレはやめろ。」
「ちーがーう!!そんなんじゃない!!あーこうしてる間にもあたしの星がピンチだわ!早く!早く帰ろうよ跡部!!」
こうして拗ねてるお前が面白いから。
こうやって本気で焦ってるお前が面白いから。
いつもいつも本気のお前を見るのは嫌いじゃないから。
騒いだり転んだり子供みたいに笑ったりするお前と一緒にテニスをする、
こんなクリスマスもいいんじゃないかと思えてしまう。
「…不思議なもんだな」
「何が!もうー落ち着いてないで、帰ろうよー跡部ー!!」
ぐいぐい俺の腕を引っぱるお前を不覚にも可愛いと思ってしまったから
ポケットの中にある大きな星のことは、もう少し秘密にしておくか。
「…行っちゃった。あれで好きじゃないって言うんだから不思議だよなー。」
「跡部ももう少し素直になったらエエのになぁ。」
「しかしホントに跡部先輩、先輩のこと見つけちゃいましたねー。」
「あとべはのことラブラブだからねー。」
「…ウス」
「ところでそろそろ戻んねぇとやべえんじゃねえのか、俺ら。」
…end
【反省と言うよりむしろ言い訳】
毎度ヘタレ跡部さまですみません。
でもそんな跡部さまが好きなんです。
まだくっついてなかったんですね、この二人。
そして間に出てきた紅茶の話はそのうち書きたいと…ゲフゲフ。
計画性ゼロですみません;
そして今回一番苦労したのは背景の素材探しだったり…(笑)。
メリークリスマス!
2003.12.24
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