もともと他人に合わせるのは好きじゃねぇ。


オレの日常と他人の日常は違いすぎて


一人のやつとずっと一緒にいられたことなど無かった。




あの日、あの日常に出会うまで………

 

 

例えばこんな日常

 

 

「あった〜!やっぱマーガリンはネヲソフトよねvv」
「おい」
「昨日ホットケーキ食べた時マーガリン少なくて、涙出そーだったよ。ホットケーキにたっぷりマーガリンは必需品!うん!」
「てめえ…」
「ちなみに私はメープルシロップと蜂蜜を8:2でブレンドするのが好きなんだけど、跡部は?」
「人の話を聞け!」

何なんだコイツは!
何なんだコイツは!
青筋立てて怒鳴ってもしれっとして、なぜ俺が怒ったか小首をかしげて考えている。
そしてポンッと手を打つと目を輝かせ、

「わかった!跡部はクリーム派ね?私もカスタードと生クリーム混ぜたヤツ好きだよ〜vv」
「勝手に話を進めんじゃねぇっ!!」

―――眩暈がする…

 

「ねぇ跡部、今日これからヒマ?」

そうアイツに声をかけられたのは、部活が終わってそれぞれが帰路につきはじめた頃のこと。

200人近い部員を誇る氷帝テニス部のマネージャーで、曲者ぞろいのレギュラー陣を手懐けられる唯一の女。
影じゃ、俺の次に部内で権力を握っているなんて噂されている。
だが、クラスも一緒になったことのねぇ俺は必要な時以外全くといっていい程この女と話したことなど無かった。
確かに人より少し整った顔だちだが、口うるさくておせっかいで苦手なタイプ。
忍足の奴と一緒にいた日には、耳センなしでは近くにいられやしねぇ。
そんなアイツが珍しく俺に声をかけてきた。

「なんだよ。」
「あのね、これから大事な買い物があるんだけど、一人じゃダメだから一緒に来てもらえないかなーと思って。」
「アーン?そんなもの忍足の奴に頼みゃいいじゃねえか。」
「侑士は今日はダメだって言うんだもん。ねー、跡部は部長でしょ?おーねーがーいー。」
「うぜえ。語尾のばしてしゃべんな。」
「ぷう、跡部のケチンボ。」
「誰も行かないなんて言ってねぇだろ。」
「行ってくれるの?」
「しゃーねーからな。オラ、サッサとしろ。」
「うん♪」

部長としてはマネージャーの買い物につきあわねぇワケにはいかないからな。
ただそれだけだ。
別に深い意味などない。
サッサと済ませてとっとと帰ろう。
そう思っていた。
なのにコイツはさっきから食料品ばかり買いこんでいる。
…なんで俺が庶民のスーパーでお前の日用品の買い物につき合わなきゃなんねえんだよ。
今にも殴りかかりたい衝動を俺はなんとか堪えて、低い声で聞く。

「大事な買い物じゃなかったのかよ。」
「え?」
「てめえが言ったんだろーが。大事な買い物だからついて来いって!だいたい1人で持てないような量でもねーだろ!!」
「1人で持てないような量なんか買わないよー。どうやって持って帰るのさ?」
「んだと!?じゃ何のために俺を…」
「キャ〜vvあったぁ〜!!」

人の話は最後まで聞け!!
苛立つ俺をよそに、バカ女は山積みされたある商品のもとへ駆け寄って行く。
……なんだ?アレは…

「やはは〜お待たせvvいっや〜跡部がいてくれてホンッと嬉しいよ!」
「何だよ、ソレ」
「コレ?『黄金混合』だよvvアタシ上質を知る人だから、コレじゃないとダメなの!いつも800円の上いくのよ。でもごくたまにやってるんだ、お1人様1点限りの398円!!やっぱ安い時にまとめ買いは主婦の常識でしょ?跡部クン♪」
「庶民コーヒーか…」
「ああ〜!!庶民をバカにしたなぁ!めっちゃ美味しいんだぞッ!ふんだ。お礼に1杯ゴチソウしてやろうと思ったけどやめたっ」

そういってご丁寧に舌まで出して見せた。
いちいちムキになる、ムダに元気でムダに必死なこの女を、一瞬可愛いと思ってしまった。
俺の周りに今までいなかったタイプの女だからだろうか、調子が狂う。

「さ、レジに行こ〜!ちゃんとついて来てよ?」
「お前…ホントにコレだけのために連れて来たのか?俺はてっきり荷物持たせられんかと思ったぜ?」
「えっ、跡部サマに荷物持たせていいの!?うっしゃ、じゃーもっと買ってこ〜vv」

…墓穴。ったくらしくねえ。どうしちまったんだ、今日の俺は。

「夕飯の買い物もしたかったんだーvv」
「そういや何でお前が買い物なんかしてんだよ?」

よくよく考えりゃおかしいじゃねえか?
いくら庶民で両親共働きだとしたって、中学生が部活帰りに夕飯の買い出しなんて。

「ああ、あたしんち母親いないから」
「ああ?」
「お母さん、3年くらい前に死んじゃったの!で、お父さんも仕事で忙しくて三日に一度くらいしか帰ってこないから、家事はあたしがやってるんだよ。」
「……悪ィ」
「なんで跡部が謝るの?」
「……。」
「別に辛くないよ、あたし。お父さんあたしにめっちゃ優しいし、家事も嫌いじゃないし。ちゃんと部活にも入れた。テニ部の皆すっごくイイ奴ばっかりじゃん?だから幸せだもん。」

そういって俺の方へ向き直ると満面の笑顔を向ける。

「もちろん跡部もね。今日はありがと!」

自然と俺は笑顔を向けていた。
今まで知らなかった…いや、気づかないフリをしてたのかもしれないコイツの強さに、興味がわいてくる。
他人なんてどうだってよかった俺にとって初めての経験かもしれない。
は俺の顔を見て少し驚いたような顔をしたが、すぐに嬉しそうに笑った。
笑う顔はかなり俺好みだった。

「なんかこうやって制服で2人でスーパーなんか来てると新婚さんみたいじゃない?アナターv今日のお夕飯なにがいーい?」
「てめぇ…張り倒すぞ。」

せっかく人がちょっと感心してやったってのに。
やっぱりコイツはバカ女だ。
だいたい制服と新婚にどういう繋がりがあるってんだよ。

「ちぇー、ノリ悪いの。こーゆー時は『君の笑顔で僕はお腹いっぱいだよvv』くらい言いなさいよね。これだからおぼっちゃまは。」
「そんなコト言えるか、バーカ。」
「ふんだ。あーでもホント、夕飯何にしよ。跡部、何食べたいカンジ?」
「オマール海老のソテー。サフランホワイトソース」
「家庭で作れるものにしてくだサイ。」
「庶民の食い物なんて知らねえ。」
「うっわ腹立つ!あんただって一人暮らししてるんでしょ!?」
「ほとんど外食。」
「あーもういいよ。侑士にでも聞くもん。」

そう言ってぷいっとそっぽを向いた。
本気で拗ねてやがる。
おかしくてしょうがない。
だがここで忍足にもっていかれるのは面白くない。
かといって…庶民の食い物…?
さっぱり思いつかねぇな。
ああ…そういえば1年の時に調理実習で作ったアレ。
岳人のヤツが焦がして食えたもんじゃなかったアレの名前は確か…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……肉じゃが…」

 

思わず俺がそう言った瞬間、アイツが勢いよく俺の方を振り返った。

「肉じゃが?肉じゃがが食べたいの?跡部!」
「別に…」
「外食ばっかで家庭の味に飢えてるんだあ!ママが恋しいのね、よしよし。」
「そんなんじゃねえ」
「照れない照れない。はーい景吾ちゃん、ママでちゅよぉ〜vv」
「止めろ、バカ!!」
「顔真っ赤だよ?可愛い〜vvよーし、今日は肉じゃがに決定!」

そう言ってアイツは豚肉とじゃがいも・玉ねぎをかごに放り込む。
牛乳だの味噌だの砂糖だの、やたら重そうなものも入れていく。
華奢な細い腕が少し震えていた。

「よし、レジ行くよ跡部…うわっ」
「一緒にいて手ぶらじゃカッコつかねえだろーが。オラ行くぞ。」

からカゴをぶん取ると、俺はレジまで大股で闊歩した。
アイツは後から嬉しそうにくっついてくる。
こういうのもたまになら悪くはない。

「2816円です。」
「ちょっと跡部!何払おうとしてんのよ。」
「この俺が現金持ち歩いてる日なんてめったにないぜ?ついてんな、お前。」
「そーいう話をしてるんじゃないっ!これはうちの買い物なんだから出してもらう理由がない!!」
「気まぐれだ。気にすんな。」
「気にするっ!!」
「あーったく、うるせーなー」
「お坊ちゃまにははした金でもやっぱそういうのはきちんと…っんっ!?」

ぐちゃぐちゃ騒ぐ口を唇で塞いだ。
驚きながらも逃げを打つ頭を右手でしっかり押さえつけて、左腕で細い腰を引き寄せる。
逃がしやしねえ…
が苦しそうに息をつく合い間を縫って深く深く口づける。
角度を変えて何度もキスをした。
柔らかい唇の感触を十分味わって口を離すと、俺は赤い顔で目を丸くしてるレジの女に1万円を出した。

「釣りはいらねえ。オラ、行くぞ。」

すっかりヘロヘロになったとカゴを抱えてレジを後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんでキスしたの?お金出してくれた代わり?」

両手に袋を持った俺の隣に早足でなんとか並びながらが尋ねる。
俺たちが歩く坂の上から夕日に照らされた街が見える。
長くのびた2つの影以外、動くものは何もない。
不思議な感じだ。
いつも見ている街のはずなのに、まったく違う世界に来たようだ。
この世界はこんなに輝くものだっただろうか。

「さあな。」
「何ソレ。さてはあたしに惚れたな?」
「自惚れんな、バーカ。」
「だよね。」

そう言ってはまた笑う。
くったくのないあの笑顔で。

「お前こそ、なんでキスしたのに怒んねえんだよ?」
「さあね。」
「俺に惚れたか?」
「自惚れんな、バカヤロウ」
「んだと!?」
「あはははは!跡部をからかうと面白い。」
「てめえ…」
「食べてくでしょ?」
「んあ?」
「夕飯!跡部も食べてくでしょ?」
「けっ、しょーがねーから食ってやるよ。」
「可愛くないの。」

そう言いながらは俺の腕にくっついてきた。
夕日に透けるサラサラの髪が肩越しに見える。


「んー?なーに?」
「また『黄金混合』買いに行く時はつき合ってやるよ。」

が嬉しそうに微笑む。
その瞳の中に満足げに笑う俺がいた。
らしくねえ自分、らしくねえ感情。
誰にも見せたくないこんな自分。
でも、お前といると悪くないと思える。
例えばこんな日常だって、お前がいればそれもいいさ。

 

…end




【反省と言うよりむしろ言い訳】


なんだろう、このヘタレ跡部サマは…。
跡部サマ大好きなのですが…。私の力不足です;;
ホットケーキを食べてる時にマーガリンが足りなくて浮かんだ話です(笑)。
ほとんど葉月の日常そのまんま。
出てきたコーヒーも私の嗜好品の名前です。


2003.06.28